この前提条件がおかしければ、「こうすればやる気がアップする」と言われても、論理的に正しくはない。

まだまだ実力がない若手社員にリラックスできる空間や、休みを多く与えることで何が起こったか? 一つにはやりがいのある仕事が回ってこなくなったことが挙げられる。

あたりまえだろう。「やりがい」は、解決困難な仕事をやり切ってはじめて味わうものだ。実力もなく、休みを多くとろうとする社員には単純作業しか任せられない。

しかもAIやRPAのほうが、安定した精度で仕事をしてくれるのなら、若手に仕事を頼もうとするベテラン社員はいない。そんな余裕はないのだ。その結果、若い社員たちは成長の実感を味わえないと感じて、会社を辞めていった。

前提と根拠を間違えたから、このような施策が通ってしまったのだ。

知識と経験が足りない人ほど自信過剰になる現象とは?

また、前提と根拠さえ合っていればいいかというと、そうでもない。問題の解決策として、事前知識をどれぐらい持っていたのか。正しく確認してメンバー選びをすべきだっただろう。

そもそも社員がやる気を出すにはどうしたらいいのか? モチベーションとは何か? エンゲージメントとは何か? 社員満足度とは何が異なるのか?

最低限の知識を踏まえたうえで検討しないと、単なる思いつきや聞きかじったアイデアしか出てこない。

そのため、新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』にも書いた、ダニング・クルーガー効果を頭に入れておこう。

ダニング・クルーガー効果とは、能力や経験の低い人ほど自信過剰になる認知バイアスのことだ。「優越の錯覚」とも呼ぶ。

20年近くコンサルタントの仕事をしていて、私は常にこの心理現象を目の当たりにする。アマチュアであればあるほど学習や鍛錬を怠り、プロであればあるほど謙虚に自分磨きを続けるものだ。