「移行に対応する能力がない地場ベンダーが撤退する一方、全国一斉の作業に国の制度変更への対応も重なり、大手であっても人手が足りない。既存顧客を引き受けるだけで精いっぱいだ」

全国1788自治体の3.5万近くに上る既存システムを、2025年度までに一斉に作り替える――。「令和のシステム大移動」とでも呼ぶべき、政府主導の巨大プロジェクトが国民生活の裏側で始まっている。

これまで自治体が個別に構築してきた住民記録や戸籍情報などに関する20の基幹業務システムを、政府が示した共通の仕様書(基準)に合う形で作り直す「システム標準化」を行い、政府が整備する「ガバメントクラウド」上で稼働させる。自治体のシステム運用の効率化を図る狙いで、政府はすでに7000億円規模の予算を投入して事業を推進している。

しかし、その作業は当初の想定以上に難航している情勢だ。政府は昨秋、移行が極めて難しい一部自治体については2025年度の期限に遅れることを容認し、先月公表された初の実態調査では、約1割の自治体がその対象となる見通しが明らかになった。

自治体からシステム構築などを請け負う大手ベンダーの幹部は、厳しい現状を冒頭のように明かす。巨大プロジェクトの現場で今、何が起きているのか。

“移行困難”の自治体はさらに増える?

デジタル庁が3月5日に公表した調査では、2023年10月時点で全体の約1割に相当する171自治体が2025年度までの一部移行について「難易度が極めて高い」と回答した。判断を保留した自治体も50に上る。

作業を担うベンダーが見つからなかったり、既存システムが個別仕様で作業に時間がかかったりすることが主な理由だ。

今後さらに“移行困難”に陥る自治体が増加する可能性は高い。例えば、全国で先行して一部システムの移行に成功した愛媛県松山市でも、他のシステムでは期限内の移行ができない可能性が浮上しているという。「調査時点から状況が変わっている。マンパワーが足りず、ベンダー側から一部システムの開発ができない、といった回答があった」(松山市の担当者)。