地球上に存在する「水(H2O)」の大半は海水が占めており、その他氷床・氷河などを除くと、人がアクセス可能で、かつ再生可能な淡水は全体の0.19%程度と言われている。

そんなわずか0.19%の水が、現在、渇水や洪水、水質汚染などさまざまなリスクにさらされている。さらに、健全な水環境の維持にとって大切な淡水生態系もまた、水量の減少や汚染、水辺環境の改変によって、減少・劣化の一途をたどっている。

水資源の有限性は、決してひとごとではない。経済活動において、原材料の多くを輸入に頼る日本は、原材料生産地での水や淡水生態系に、大きく依存している。将来にわたり持続可能なビジネスを展開していくためにも、また、人々の衣食住を継続的に確保するためにも、生産地の「水」と、それを育む自然環境に責任があると筆者は考える 。 そして世界を見渡すと、すでに責任ある水利用管理に動き出している企業も実際に存在する。

ドイツ大手流通企業の先進的な取り組み

バリューチェーン、特に原材料生産地の「水」に責任を持ち、企業が取り組んでいる先行事例として、ドイツ最大規模のスーパーマーケットEDEKA(エデカ)の活動が挙げられる。

EDEKAは、サステナビリティの主要テーマの一つに水を掲げている。

同社の水担当者は、「将来にわたって自社のサプライチェーンとビジネスモデルを継続していくために、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を超えない形での事業展開が不可欠だ。自社の環境負荷を削減し、ビジネスの変容を実現するうえで、水への取り組みは重要となる」と述べる。

EDEKAはスペインや南アフリカ、ドイツ国内などさまざまな地域で、水問題の解決に向けてのプログラムを展開している。代表的な取り組みのひとつに、南米のバナナ・プロジェクトが挙げられる。

同社では、上の写真のように消費者向けのチラシを作成し、バナナの生産現場でどのように水が使用され、どのように節水できたのかなどの取り組み内容を消費者に向けて丁寧に説明している。

同社は、取り組むべき品目と生産地を検討するにあたり、最初のステップとして輸入に依存する主力農産物の品目と、その生産地の流域における将来の水リスクを分析した。その結果、バナナを対象に取り組みを始める必要性が高いことがわかった。

というのも、バナナは、最も売上量の多い産品のひとつだが輸入に依存していること、主要な産地の南米では、流域レベルで見ると洪水や渇水などの水リスクがあること、栽培過程で多量の水を使用すること、廃棄物処理や負荷の高い労働環境など社会課題があること、などが背景にある。

バナナは未加工のまま輸入するので、比較的、調達地を特定しやすい点も、理由のひとつだ。