白質病変では、神経細胞が集まっている大脳皮質(灰白質)にダメージがないため、呂律が回らない、あるいは手足が動かないといった脳卒中でよく見られる明白な症状はありません。ただし、広範囲にわたる白質病変は、脳梗塞の再発や血管性の認知症と高い関連性があります。

そして何より、安全運転を阻害するやっかいなファクターになることが、長年の研究により明らかになっています。白質病変は、脳神経ネットワークの破綻をもたらし、情報伝達の障害をまねき、それが運転操作に影響して、交通事故や高速道路の逆走を引き起こしやすくするのです(PLOS ONE, 2013; J. Nourol. disoders, 2023)。

例えば、脳が「ブレーキを踏め」という指令を出したとしても、ネットワークが壊れているためにうまく伝わらず、いつの間にか「アクセルを踏め」に置き換わってしまうケースもあるということです。

「アクセルとブレーキの踏み間違い」。何度も耳にするフレーズですよね。これが起こる原因は認知症ではなく、白質病変という状態が大きく関係している可能性があるのです。だから、認知症でなくても油断することはできません。

そして、白質病変内の毛細血管や神経線維は可塑性が高い組織なので、後から運動などで脳を刺激した場合には神経ネットワークの破綻が軽減する可能性があり、白質病変と安全運転能力低下の関係性はまだ不確定なことがあります。最近の知見では、白質病変のみならず脳萎縮も考慮すべきだと考えています(Front. in Aging Neurosci, 2022)。

脳萎縮と白質病変の増加を抑えるためにすべきこと

脳萎縮や白質病変発生の有無は、脳ドックを受診し、頭部MRIを撮ることによってわかります。年齢が同じでも個人差が大きいのが特徴ゆえに、定期的な受診が推奨されます。しかし、お住まいの地域にある脳ドックを受けるにしても、気軽に「じゃあ明日行ってこよう」というわけにはいかないでしょう。

そこで私が提案するのが、脳萎縮や白質病変が発生している可能性を示唆する兆候や傾向を探り、その対策を立てるという方法です。できれば脳ドックを受けていただきたいのですが、受けなくても、脳が萎縮していたり、白質病変ができていたりする公算が大きいということは、ある程度予測できます。