社会の高齢化が進み、75歳以上の免許保有者数は右肩上がりに増加しているので、それに比例して死亡事故の件数自体は25歳未満の若年ドライバーよりも多く報告されていますが、じつは免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(事故率)は75歳以上が5.62件で25歳未満が4.31件(2022年警察庁調べ)と大きな差はありません。

死亡事故に限定せず、軽微なものも含めた事故全体で見ると、75歳以上が1294件で25歳未満が1636件(2022年年警察庁調べ)と、25歳未満のほうが圧倒的に多いことも明らかになっています。

これが現状なのにもかかわらず、マスコミが取り上げるのは高齢ドライバーが起こす事故ばかり。そんな今のマスコミの姿勢には、正直、首を傾げざるを得ません。

認知症ドライバーの事故が激減した背景にあるもの

もう一点、世間の多くの人たちが誤解していることがあります。それは「事故を起こしている高齢ドライバーの大半を占めるのは認知症である」という考えです。残念ながら、この認識は間違っています。もちろん、認知症の人が事故を起こす確率はゼロとはいえませんが、大半を占めるのはじつは認知症以外の人たちなのです。

1998年に、満70歳以上の人に対して自動車運転免許を更新する際に高齢者講習が義務化され、2009年には満75歳以上の人を対象にした認知機能検査が加わりました。そして2017年の法改正により、認知機能検査のチェック内容が記憶再生を中心に強化されました。つまり、国や警察が認知症ドライバーを危険とみなしたということです。

確かに、今から20年以上前は認知症ドライバーによる事故も目立ちましたが、これらの制度改正により、75歳以上で死亡事故を起こした事案で、その直近で認知症の恐れがあると高齢者講習で判定された割合は2017年の4.8%に比べて2019年では1.3%と認知症の人が事故を起こすケースは各段に減りました(2021年警察庁調べ)。認知症が進んでしまっていたら、免許更新時に待ち構えている認知機能検査をパスできず、事故を起こす以前にそもそも免許を保有できない(=車を運転できない)ことになりますからね。

さらに、認知症の人や、その予備軍ともいえる軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)の人に対しては、家族など周囲の人が運転の危険性を感じ、免許の自主返納を促す傾向にあります。75歳以上で免許を自主返納された方は27万3206人(2020年警察庁調べ)にのぼり、その中にはMCIの方が多く含まれていると推察されます。おのずと認知症の人が交通事故を起こす割合は低くなっていると考えています。