望みがかなわなかったロバーツは、その後、レイフ・ファインズ、ヒュー・グラント、コリン・ファースなど優れた俳優が次々やってきてくれても、まるで関心を示さず。そんなことが2週間ほど続いた後、ようやくポール・マッギャンとはなんとか次の段階に進められることになり、衣装を着て、ヘアメイクをしたうえでの本格的なカメラテストが行われた。

ところが、実際にシーンを演じてもらうと、まるでうまくいかないのだ。ロバーツがアクセントに気を取られ、自然な演技ができないせいである。アメリカ人のロバーツはこの役のためにアクセントを習得する必要があり、ダイアレクトコーチからテープを渡されていたのだが、明らかに練習が足りていなかった。まだ23歳の彼女は何もかも嫌になったのだろうか。翌朝、何の断りもなくホテルをチェックアウトして、ロサンゼルスに帰ってしまった。

撮影が目の前に迫り、セットも衣装も完成している段階で主演女優を失ったズウィックは、大パニック。そんな彼を、最初、スタジオは「彼女はきっと戻ってきてくれる」と慰めた。しかしそうはならず、600万ドルと多くの労力を費やしたこの映画は中止になってしまった。

暴君ワインスタインが放った一言

がっかりしたズウィックに次の希望が訪れたのは、1994年のこと。面識のなかったハーベイ・ワインスタインが、ズウィックの『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』(1994)を気に入ったとのことで連絡をくれ、「次に作りたい映画はあるか」と聞いてきたのだ。

『恋におちたシェイクスピア』の脚本を見せると、ワインスタインは大乗り気になり、権利を譲ってもらうべく、ユニバーサルに連絡。しかし、ここまでに投資した600万ドルを支払ってもらうことが条件と言われ、またもや道が閉ざされる。

それでも、この脚本はやはり優れているのだと再確認したズウィックは、その後も別の作品を手がけながら、あらゆるところに売り込みを続けた。ワインスタインが経営するミラマックスがパルトロウ主演でこの映画を作るという記事を読んでショックを受けたのは、1997年のことだ。ズウィックの知らないところで、ユニバーサルが欲しがっていた『キング・コング』の権利と交換したらしい。

「この映画を立ち上げ、ここまで育ててきた自分はどう関わらせてもらえるのか」と聞くと、ワインスタインの答は「君はもう関係ない」。それどころか彼は、誰に対してもよくするように、暴言を浴びせ、脅しをかけてきた。