生きていると理不尽なことや、思い通りにいかないことばかりで、モヤモヤした気持ちをなんとか抑えている人も多いのでは。しかし作家で書評家の印南敦史さんは「自分らしく生きていくために抗(あらが)おう」と話します。印南さん自身、これまでどうしようもない不遇に見舞われながらも、そのたび抗ってきました。なぜそう考えるようになったのか、印南さんの著書『抗う練習』から一部を抜粋、再編集してお届けします。

家が焼けてなにもなくなった

高校2年生だった10月のある日、修学旅行前日のこと。体調が悪かったわけでもないのに、その日の僕は学校にいてもなんだか落ち着きませんでした。あとから思えば、それは「虫の知らせ」というやつだったんですよね。

なんだかモヤモヤするような、表現のしようがないほどいやな気持ち。やがて耐え切れなくなり、3時間目が終わったところで、「印南、バックレかよー」という同級生の声に向かって背中越しに手を振りながら早退したのでした。

よく晴れた日でした。地元に着いて信号を待っているときに見上げた空は、まさにスカイブルーそのもの。最初は呑気に「きれいな空だなー」と感じていたのですが、やがて、美しいその空に真っ黒い煙が上がっていることに気づきました。

しかも位置的には自分の家の方角です。思わず、「あー、隣の**さん、とうとうやらかしたかー」などと失礼きわまりないことを感じたりしていたのですけれど、近づくにしたがって見えてきた**さん宅はいつものままです。

「え……いやいや、まさか、そんなことは」と思いながら小走りに近づいてみたら、数時間前にはなんともなかった我が家がものすごい勢いで燃えていて、道路側の2階にあった弟の部屋から真っ黒な煙が噴き出ていました。

出火原因は、祖母のたばこの火の不始末。一服して火を消したたばこの吸い殻を、紙にくるんでくずかごに捨てて外出したというのですから、そりゃー火事になって当然です。

しかも父の母に当たる祖母は、いろいろやらかすパンクな婆ちゃんとして以前から有名な人だったのです。