カスタムカーの祭典「東京オートサロン」で、近年最もよく見かける車種といって過言ではないのが、スズキ「ジムニー」です。現行型の発売から5年を経てもなお、納車待ちは長く、幅広いファンを獲得しています。一体なぜここまで人気なのでしょうか。

ジムニー!ジムニー!ジムニー!だった「オートサロン」

 今年も大盛況のうちに幕を閉じたカスタムカーの祭典「東京オートサロン2024」(1月12日〜14日)には、30台を超えるスズキ「ジムニー」のカスタムカーが出展され、注目を集めました。そのジムニーのほとんどが、2018年発売の現行型です。
 
 これは昨今の熱狂的なジムニー人気が後押しなっていることも確かですが、その背景には、カスタマイズベースに優れた素材であることが挙げられます。

 少しジムニーの歴史を振り返りましょう。初代ジムニーは、軽自動車メーカーだったホープ自動車「ホープスターON型4WD」をベースに生まれた軽自動車初のクロカンモデルでした。シンプルに表現するならば、軍用ジープに近いもので、質実剛健な作りや悪路に立ち向かう高い機動力を備えていました。

 当初は、農業や林業などの作業車として活用されていましたが、次第に個人ニーズも拡大し、乗用としての快適性なども磨かれるようになっていきました。もちろん、伝統となる高い悪路走破性は、しっかりと受け継がれ、高められていきました。

 1998年に登場した先代ジムニー(3代目)は、世間の街乗り中心であるクロスオーバーSUVブームを受けて、デザインや機能、快適性などで乗用車的な要素を強化。つまり、時代のトレンドを受けて、普段乗りにも使いやすいジムニーが目指されました。

 そのため、ファッション性を意識した2WD仕様「ジムニーL」や、同じく2WDのドレスアップ仕様「ジムニーJ2」など新たなジムニー像も模索されました。またメカニズムでも、パートタイム4WDの切り替えを、レバー式から、より操作が簡単なスイッチ式とするなど機能面でも使いやすさが追求されました。

 国内では、ビジネスや降雪地域、趣味などで手頃な本格四輪駆動車を求める一定のニーズがあるため、安定したセールスを記録。それでも、現行型ほどの人気とはなっていませんでした。

ジムニーが「原点回帰」へ舵を切ったワケ

 1998年から20年続いた先代ジムニー販売期の終盤、日本で盛り上がりを見せたのが、アウトドアブームでした。このため、クルマも“ギア”としての要素が求められるように。その中でヒットとなったのがスズキの軽乗用車「ハスラー」(2014〜)で、アウトドアを意識したアクティブな軽クロスオーバーワゴンとして新たな市場を開拓しました。また四輪駆動車では、輸入車を中心に本格派の人気が高まり、米国のジープ「ラングラー」やメルセデス・ベンツ「Gクラス」への感心が、より高まりました。

 そのような時代背景もあり、現行型ジムニーは、原点回帰となる「プロの道具」をデザインコンセプトに、スクエアなデザインに仕上げられました。

 そのデザインは、歴代モデルの特徴的な要素が取り入れています。四角いボンネットを含めた直線的なスタイルは、悪路や狭い場所を走行する際、ドライバーがボディサイズだけでなく車両の姿勢や状況を掴みやすくする狙いがあります。傾斜の小さいフロントガラスとAピラーは、視界を最大化することに加え、限られたサイズの中で車内空間を最大化させる効果があります。

 より細かなところでは、登坂や下坂、凹凸路面の走行時に路面との干渉を避けるために小ぶりなバンパーを採用し、走破性を高めるべく、ボディサイズに対して大きめなタイヤとタイヤハウスが与えられています。そして、パンク時などの交換に必要なスペアタイヤも、走行性能の影響を避けるべく、標準サイズのタイヤが背面に装備されています。

 インテリアも同様のコンセプトが貫かれています。直線的なダッシュボードデザイン、悪路走行時に体を保持する大型のドアハンドル、視認性に優れる大径アナログメーターなども、悪路走行を助ける重要な機能なのです。

だからここま“イジられる”!

 これらの特徴は、歴代ジムニーに共通すると共に、世間のクロカンモデルと共通するものでもあります。丸目ライトやシンプルなグリルデザインも同様で、これらにはしっかりとした視界を確保する光源とエンジン冷却性を高める大型グリルの両立が図られています。

 海外では5ドアロングボディのジムニーも登場する一方、国内では3ドアのショートボディだけ。このため5ドア車の国内導入が熱望されていますが、3ドアショートボディであることにも、もちろん理由があります。もちろん、日本では、軽自動車規格をベースとしていることもありますが、それだけではありません。

 利便性では5ドアのロングボディには劣るものの、ホイールベースが短い3ドアの方が、悪路走破性に優れているからです。このため、ジープ「ラングラー」やランドローバー「ディフェンダー」には今も3ドアモデルが設定されており、メルセデス・ベンツ「Gクラス」も元々は3ドアモデルが用意されていました。つまり、ジムニーは、クロカンのセオリーをしっかりと踏襲しているわけです。

 その共通点の多さが、オートサロン会場で見かける「Gクラス風」カスタム車など、輸入クロカンのそっくりコスプレが得意である理由なのです。

 そもそも歴代ジムニーは、道なき道を走るオフロード性能をより強化すべく、改造されることも多い車種でした。そのため、カスタマイズのし易さも意識されています。つまり、優れた“素材”であることも大切にされてきたクルマでもあるのです。こうした伝統的な機能を高めるカスタムと、SUVブームによるコスプレ的なカスタムという二つの要素を得たことで、カスタムカーとしてのジムニーの人気も高まっています。

 最後に忘れてならないのが、ジムニーでしかたどり着けない場所があるといわれるほどの本格的な悪路走破性を備えた本物の“ギア”であることが、良い隠し味になっていること。本物が持つ迫力こそが、如何なるコスプレを施そうとも単に可愛いだけのクルマとならず、幅広い世代の人たちを惹きつけて止まないのでしょう。