ハイエースに代表される商用バンで、キャンピングカーのベースとして急速に頭角を現している輸入車があります。もともと欧州の商用車市場では定番のモデルで、ハイエースより大きなサイズが人気の理由。日本でどこまで拡がるでしょうか。

1年で大きく環境が変化 フィアットのド定番バン

 国内最大規模を誇るキャンピングカー展示会「ジャパンキャンピングカーショー2024」が、2月頭に開催され、約4万6000人の来場者を集めました。近年のアウトドアブームもあり、国内キャンピングカー市場は右肩上がりの成長を見せています。
 
 その主役は、トヨタ「ハイエース」を中心とした国産車ですが、最近、国内生産される高級キャンピングカーに新たな風を吹き込んだのが、イタリアの自動車メーカー、フィアットの商用車「デュカト」です。

 フィアット・デュカトは、欧州の商用車市場で7割のシェア持つといわれる定番モデルで、フィアットが属するステランティスグループ内でも、プジョー「ボクサー」やシトロエン「ジャンパー」のように、ブランドと名称を変えて展開されています。さらに2024年からは欧州でトヨタにもOEM供給され、「プロエース マックス」の名で登場する予定です。

 欧州でも様々な架装が施されたデュカトが活躍していますが、そのひとつがキャンピングカーであり、高い人気を誇ります。日本にも欧州のキャンピングカーメーカーの架装車が輸入されています。しかし、その場合、ベースとなるデュカトは、右ハンドル車であっても海外仕様車であるため、ユーザーにはメンテナンスや保証などの面で手が出しにくい状況もありました。もちろん、国内で架装されるデュカトのキャンピングカーも同様でした。

 その状況を大きく変化させたのが、2022年2月、フィアットなどが属するステランティスジャパンによる正規輸入開始のアナウンスです。その主な狙いは、キャンピングカーのベース車として、日本のキャンピングカーメーカーへの供給を行うことでした。

 これにより日本の法規対応はもちろんのこと、日本の道路に最適化された先進の安全運転支援機能や日本向けナビゲーションシステムの標準化といった機能向上や、3年10万キロの新車保証の適用、そして日本での交換部品ストックによるパーツ入手のし易さなど、ユーザーに多くのメリットを生みました。

そのサイズは「超巨大」 思っている以上に!?

 正規導入が開始されて間もない2023年のジャパンキャンピングカーショーでは、デュカトの国内製キャンピングカーは少なめで、海外製のものが中心でしたが、今年の同ショーでは国内製のラインアップが充実していました。もちろん、従来の主力だった欧州の人気キャンピングカーメーカー製のものも健在ですが、より住み分けが明確となった印象です。

 そのひとつがボディ構造です。国内製キャンピングカーが、正規輸入される商用バンベースのバンコンバージョンに対して、海外メーカー製のものは、専用キャビンにより室内空間を拡大させたキャブコンバージョンが主流となったこと。これは国内メーカーが正規輸入車であるバンをベースとすることで、手厚い保証などユーザーメリットを重視した結果でしょう。

 このため、海外製のものは、付加価値が高いものに集約されたといえます。同時に、本来の役目である商用バンとしての素性を活かし、ビジネスユーザーの獲得にも力を入れる動きがあります。

 バンベースのボディでも、広々とした居住空間を持つキャンピングカーへと転身可能なデュカトは、積載容量にも優れています。日本仕様には、3つサイズ違いのものが導入されています。最大ボディサイズとなるグレード「L3H3」は、全長5995mm×全幅2050mm×全高2765mmと超巨大。キャビンスペースのサイズだけでも、全長3540mm×全幅2000mm(※最大寸法)×全高2210mmもあり、最大寸法の中に、軽スーパーハイトワゴンがすっぽり収まるほどの大きさなのです。このため、昨年の展示では、4輪バギーを搭載した状態で展示されたものありました。

 ただボディの全幅が2050mmとなると、日本の街中での機動性では、ハイエースやキャラバンといった国産バンには敵いません。そこでイタリア生まれのスタイリッシュなスタイルと広々したラゲッジスペースを活かし、移動式のショールームや作業室としても注目されています。

欧州製・巨大ボディで受け止める! そんなニーズとは?

 会場で見つけたのは、2台のビジネス向けモデル。日本での使い勝手を考慮してか、ベースは導入仕様ではショートホイールベースとなる「L2H2」がベース。それでも全長は5410mmあります。

 ひとつはイタリア・デロンギが手掛ける業務用大型全自動コーヒーマシン「エバシス」を取り扱うパスファインダー社の移動ショールームです。車両内部は、キッチンとコーヒーマシンが設置されていて、様々な場所に出向き、コーヒーの試飲やコーヒーマシンのデモンストレーションが行えるようになっています。

 もうひとつは、上記の移動ショールームを手掛けた「トイファクリー」のデモカー。ドイツの「bott」による車載用キャビネット(棚類)を搭載し、自転車メンテナンスカーに仕立ててありました。

 車内設置を前提に設計されたキャビネットだけに、メンテンナンスで必要なパーツや工具を効率よく収めながら、しっかりと作業スペースも確保されています。肝となる車載設備を手掛けたbott社は、このような車載用キャビネットに加え、工場設備やワークステーションなどを手掛ける1930年創業の老舗メーカーで、欧州を中心に展開しています。

 このようにデュカトは、新たな活躍の場も模索されていますが、もちろん、課題もあります。

 そのひとつが、正規ディーラー体制です。デュカトの販売やメンテナンスの窓口になるフィアットプロフェッショナルディーラーは、全国5社5店舗に限られており、整備拠点も協力工場を合わせて全7拠点にすぎません。その背景には、同じフィアットの乗用車を取り扱うフィアットディーラーの整備工場では、デュカトをメンテンナンスできる大型リフトなどが設置されていない、あるいは設置が難しいなどの現状があります。現在もデュカトの新車ディーラーを担うのは、国内キャンピングカーメーカーの5社のみとなっています。

 新車販売会社からすれば、デュカトを取り扱うフィアットプロフェッショナルの新車ディーラーの基準を満たすために必要な投資を考慮すると、バンの新車販売とメンテナンスだけではビジネスとして厳しいと見る向きもあるのでしょう。もっとも、デュカトベースのキャンピングカーは高級車であり、ビジネスカーとしてみても、サイズの違いなどあれどハイエースやキャラバンと比べると高価です。そのため、よりこだわりの強い個人や会社向けの特別なクルマであることは共通していますが、日本車にはないスタイルや大きさ、機能などを武器に、その活躍の場を広げていくでしょう。