「EVは本当にエコなのか?」という論争があります。その際によく指摘される理由のひとつが、EVの車体重量です。なぜ、EVは重くなりがちなのでしょうか。

EVの重さは環境に悪い?

 アメリカでの販売失速、メルセデスベンツの2030年の完全電動化の見直し、アップルの計画棚あげなど、2024年に入ってから電気自動車(EV)に対して逆風が吹いています。

 本来、環境負荷が低いといわれてきたEVですが、本格的にEVシフトが注目されだしてからは「EVは本当にエコなのか?」という論争も起き、その理由のひとつとしてEVの車体重量がエンジン車に比べて重いことが指摘されることがあります。ではなぜ、EVは重量が重くなりがちで、その重さが環境負荷の原因となるのでしょうか。

  EVが重くなる主原因は、クルマそのものを動かすバッテリーが重いことが影響しています。2021年9月にNPOアジア金型産業フォーラムが後援会で明らかにした内容によると、「車両重量は同クラスの車格でも平均して約240〜460kg重い」とのことです。

 一般的にEVはエンジン車に比べ、部品点数は少なくなっていますが、そのかわりEVとしての航続距離を維持するためにバッテリーが大型化し重くなっています。

 このバッテリーに関しても、リチウムやニッケルなどの天然資源を大量に採掘し製造する過程でCO2を大量に排出しており、走行時のCO2排出量と比べても無視できない量という指摘もあります。しかしそれ以上に、車体の重量そのものが、路面やタイヤの消耗を早めるという点が問題視されています。

結果的に道路整備やタイヤ交換が頻繁になる

 国土交通省の発表によると高速道路の場合、最大で軸重(重量)の12乗に比例するそうです。つまり重さが2倍あれば4096倍も負担が大きくなる計算です。

 また、タイヤの摩耗に関してはアメリカの「マイアミ・ヘラルド」がエンジン車に比べて4〜5倍摩耗のスピードが早いと報じたこともあります。日本国内でも、タイヤの摩耗を検証した記事はいくつかありますが、最低でも1.5倍程度はエンジン車よりは摩耗し易いようです。そのため、タイヤの交換が増えるため、燃料以外の別の場所で、環境負荷が高いといわれています。

 さらに、EVの重量に関して、アメリカの運輸安全委員会(NTSB)が2023年に、歩行者など道路利用者の重傷および死亡リスクを高めていると懸念を表明したことも。ほかにも、ネブラスカ大学リンカーン校では2023年10月にEVを使用したガードレールへの衝突実験も実施しており、その結果によると、EVが道路脇の柵に衝突した場合の衝撃エネルギーは、エンジン車などと比べ20%から50%増加する可能性があるとのことです。

 EVに関しては一部の部品などで軽量化が試みられているようですが、多くの場合、強度と軽量化を実現できる新しい材料や工法の開発が必要ということで、当面はEVがエンジン車よりは重い状況は続くと予想されます。