2023年度 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査


 2023年度に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、58社(前年度比5.4%増)、件数は62件(同10.7%増)で、3年連続で社数、件数が前年を上回った。
 2008年度に集計を開始以降、2019年度の74社、78件をピークに、2020年度は48社、50件まで減少したが、緩やかながら3年連続で増勢に転じている。

 2023年度に不適切会計を開示した62件の内訳は、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」の30件(前年度比3.4%増)。次いで、従業員などによる着服横領が21件(同50.0%増)、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が11件(同15.3%減)だった。

 業種別の社数は、最多がサービス業の15社(同66.6%増)。以下、製造業の12社(同7.6%減)、卸売業が9社(同125.0%増)、小売業(同40.0%増)と情報通信業(同12.5%減)が各7社と続く。

 上場会社は、会計監査を担う監査法人が付かなければ上場廃止となってしまう。上場会社は監査法人との関係性が重要になっているが、一方で監査を請け負う顧客1社への報酬依存度が15%を超える状態が5年続くと、翌年からその企業の監査を担当できないルールが2023年5月に導入された。監査法人の交代で不適切会計を見逃してしまうケースも予想されるだけに、監査法人の監査機能がどこまで高まるかも注目される。

※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書の提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q−Boardを対象にした。 


開示企業数 2023年度は58社(62件)

 2023年度に不適切会計を開示した上場企業は58社で、ITbookホールディングス(株)(東証グロース)、(株)ラックランド(東証プライム)、(株)建設技術研究所(東証プライム)、東京産業(株)(東証プライム)の4社は、それぞれ2023年度内に2件、開示を行った。
 2024年3月26日、証券取引等監視委員会は移動体通信機器販売等の(株)サカイホールディングス(東証スタンダード)に対し、有価証券報告書等に虚偽を記載したことにあたるとして課徴金3,000万円の納付命令を勧告。金融庁はこれをうけ5月16日、サカイホールディングスに対し、課徴金納付を命じた。これは同社の連結子会社が売上の前倒しによる売掛金の過大計上および売上の架空計上の不適正な会計処理を行い、過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出したため。
 上場企業は2021年度までは海外子会社や関係会社で不適切会計の開示が多かったが、2023年度は国内外連結子会社などの役員や従業員による着服横領が目立った。

「不適切会計」開示数 年度推移

内容別 「誤り」が最多の30件

 内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で30件(構成比48.4%)。次いで、子会社・関係会社の役員、従業員の「着服横領」が21件(同33.9%)だった。
 「会社資金の私的流用」など、個人の不祥事も監査法人は厳格に監査している。「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」は11件(同17.7%)だった。
 証券取引等監視委員会は2024年1月23日、ITbookホールディングス(株)(東証グロース)が金融商品取引法の開示規制に違反したとして、1億929万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告。金融庁は同年3月15日、同社に課徴金納付を命じた。

「不適切会計」内容別

発生当事者別 「会社」が26社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の26社(構成比44.8%)だった。「会社」では会計処理手続きなどの誤りが目立った。次いで、「子会社・関係会社」は17社(同29.3%)で、売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立った。
 「従業員」は13社(同22.4%)で、外注費の水増し発注を行ったうえで、その一部をキックバックし私的流用するなどの着服横領が多かった。

不適切会計企業 発生当時者別

市場別 「東証プライム」が27社で最多

 市場別では、「東証プライム」が27社(構成比46.5%)で最も多かった。次いで、「東証スタンダード」が18社(同31.0%)、「東証グロース」が11社(同18.9%)と続く。
 2013年度までは新興市場が目立ったが、2015年度以降は国内外に子会社や関連会社を多く展開する旧東証1部が増加。2023年度も「東証プライム」が最多だった。

不適切会計企業 市場別

業種別 最多はサービス業の15社

 業種別では、「サービス業」の15社(構成比25.8%)が最も多かった。サービス業は、従業員の不適切取引などによる「着服横領」や連結子会社での過大請求などの「誤り」が増えた。
 次いで「製造業」の12社(同20.6%)。いずれも国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多かった。

不適切会計企業 業種別



 今年4月19日、証券取引等監視委員会は不動産業の(株)アルデプロ(東証スタンダード)に対し、売上を過大に計上して四半期報告書の虚偽記載を行った等の法令違反の事実が認められたとして2,100万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告した。
 不動産売買が循環取引の一部を構成し、循環取引に関し実態のない売上高、売上原価および営業利益を計上する会計処理を行い、2023年7月期第3四半期の四半期報告書で虚偽の開示をした。東京証券取引所は、アルデプロの内部管理体制等について改善の見込みがなくなったとして、アルデプロを3月22日付で整理銘柄に指定。その後、同年4月23日付で上場廃止となった。

 金融庁は2023年12月26日、業界準大手の太陽有限責任監査法人(東京都港区)に新たな契約締結を3カ月禁じる一部業務停止命令を出した。顧客の(株)ディー・ディー・エス(2023年8月上場廃止)が2022年8月、財務諸表の訂正報告書を東海財務局に提出する際、重大な虚偽が残っているにもかかわらず、監査を承認していた。太陽有限責任監査法人は近年、監査先を増やしており、業容の急拡大に伴う中で不祥事が生じた。大手から準大手などに監査法人が交代する上場企業が増えている。監査法人の交代理由の確認は、これまで以上に必要になっている。

 コロナ禍が落ち着き、企業活動は平時に戻ったが、2023年度は58社、62件の不適切会計が判明した。売上、利益拡大など業績優先の意識やステークホルダーに対する情報隠蔽など、不適切会計を根絶できない背景には様々な要因が隠れている。また、不適切会計が判明後の再発防止の仕組みづくりは容易ではない。上場企業は、改めてコンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)に対する取り組みを精査、地道に守ることが必要だ。