東京商工リサーチの調査によると、2023年度に倒産した農業関連企業は過去最多の82件。円安による肥料の値上がりなど、経費が上がった影響で倒産件数は高止まりとなっています。さらにロシアのウクライナ侵攻で、小麦の供給が止まる懸念も。

キャベツ農家の森さんは「もう、我慢を超えている」と胸の内を明かします。

もっと早く、どうにかならなかったのか

キャベツ農家 森嘉隆さん

約6万平方メートルの敷地に、キャベツや白菜などを栽培する森嘉隆さん。出荷に使う段ボールが値上がりしているといいます。2023年3月の明細書では1つあたり135円でしたが、2024年2月の明細書では150円に。約1割、値上がりしています。

キャベツ農家 森嘉隆さん:
「すべての価格が上がっとる。たかが数十円だ、数百円というけど、利益から全部落ちている。従業員に1人、若い人がいるけど、給料上げたくても上げられん」

「値上げしたい」一方、安いものが売れる悪循環

農家が価格転嫁できない構図に

生産コストが上がったとき、市場が高い価格で作物を仕入れ、消費者も高い価格で商品を買うのが理想です。しかし、実際の消費者は価格の安さを求めています。市場も安い値段で作物を仕入れることになり、農家は生産コストを転嫁する先がありません。「肥料は高くなる、売るものは安い。それじゃ、とてもじゃないけどやっていけんよね」

食料自給率(カロリーベース)

東京商工リサーチによると、2023年度に倒産した農業関連企業は過去最多の82件。円安による肥料の値上がりなどコスト上昇の影響で、倒産件数は高止まりとなっています。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって小麦の供給が止まる恐れもあります。

世界の食料自給率に目を向けると、アメリカやカナダ、オーストラリアの食料自給率は100%を超えています。EU諸国も高い水準に。一方、日本の食料自給率は38%と危機的状況に陥っています。

食料・農業・農村基本法の改正案

現状を打破しようと、4月19日の衆議院本会議では25年ぶりに農政の憲法ともいわれる「食料・農業・農村基本法」が改正されました。食料の安定的な供給に向け、国内農業の生産を増やすことや安定的な「輸入」を確保することが、新たな法案に付け加えられています。

法改正によって食料安定保障につながるのか。日本の農業政策に詳しい専門家に、話を聞きました。

東京大学 特任教授 鈴木宣弘さん

東京大学 特任教授 鈴木宣弘さん:
「今必要なのは、赤字で苦しんでいる農家を支えること。国内での生産を増やす自給率を向上させること。そして、いつでも国民の命が守れるように準備することです。その政策について、まったく出てきていません。これでは食料安全保障は達成できません。

世界情勢の悪化と国内農業の疲弊が続いていて、放置したらいざというときに国民に食べるものが供給できなくなります。すると、日本人は飢え死にする。信じられないようないびつな日本になりかねません」

メディアの責任問われる、国民の「農業無関心」

食料・農業・農村基本法について「知らない」と答えた人が84%

テレビ愛知がインターネットで439人に聞いたアンケートでは、改正法案について、84%の人が知らないという結果になりました。街の人に話を聞くと「知らない。さっぱり分からない」との返答が。さらに「国産と外国産を気にしたことはありますか」には、「気にしない、安いものを買う」といった回答が集まりました。

「農業の存在価値を重視すべきではないか」と話す森さん。こうした現状を伝える「メディアの責任」も問われています。