「この日曜も試合があるのよね」そんな風に私が思い出していたのは金曜日、6月半ばのネーションズリーグ・ファイナルフォーに備えたスペイン代表招集リスト発表とデ・ラ・フエンテ監督の会見をネット中継で見たせいもあり、もう完全に今季が終わったような気分になっていた時のことでした。いやあ、代表についてはまた後日、お話しすることにしますが、今週はそれ以外にもシーズン終了感満載のイベントが多数開催。リーガ優勝が何試合も前に決定していたバルサなど、これから1年半の全面改装工事期間に入るカンプ・ノウとのお別れセレモニーに続き、水木と連続して、今季限りで退団するブスケツ、ジョルディ・アルバのお別れセレモニーがあったんですけどね。

一方、バルサの宿敵のレアル・マドリーでは最近、サウジアラビアのアル・ヒラルから年棒1億ユーロ(約150億円)の2年契約オファーを受け、移籍するかもしれないと噂されているベンゼマが木曜にマルカのレジェンド授賞式に出席。司会者のしつこい質問に「話しているのはネットの中だけ。La realidad no es Internet/ラ・レアリダッド・ノー・エス・インテルネット(現実はネットにはない)」と答えたことから、残留の線が強いのではという推測も聞かれるように。

それでも女児のファンから、直球で「Te vas a quedar en el Real Madrid?/テ・バス・ア・ケダール・エン・エル・レアル・マドリッド(レアル・マドリーに残るの?)」と尋ねられた際、「Por el momento estoy aquí/ポル・エル・モメントー・エストイ・アキー(今のところ、自分はここにいる)。毎日を楽しんで、いい練習をしてるし,まだ試合もある」と答えて揚げ足を取られ、「今のところ」と言っているのが怪しいという意見もなきにしろあらず。まあ、どっちにしろ、アンチェロティ監督続投の決まった後、スポーツ紙のマドリーページにはこの夏の選手の出入り以外、話題がないとなれば、何でも針小棒大に報じられるのは仕方なかったかと。

加えてお隣さんも先週末、3位以上を確定したと思いきや、最終節を待たずにヒメネスが水曜にヒザの半月板の内視鏡手術を受け、一足先にバケーション入り。木曜にもカラスコが鼻を手術と、うーん、丁度、サビッチ、レマル、マルコス・ジョレンテが負傷のリハビリを終えて、チームに戻って来たからというのもあるんでしょうね。その日にはマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でセッション後、コロナ禍以降、初めてとなるバーベキューで、シーズン慰労ランチ会を開いていたなんて聞くと、もう日曜の試合が終わった途端、選手全員がリゾート地に旅立つ光景が目に浮かんでこない?

え、それどころではなかったのが、セビージャのSeptima(セプティマ/7回目のEL優勝のこと)祝勝行事じゃなかったかって?その通りで、木曜にブダペストから帰還したその足で彼らはオープンデッキバスに乗ると、市内を延々4時間パレード。プエルタ・デ・ヘレス(セビージャファンがお祝いする定番スポット)、市役所、カテドラルと名所をもれなく回った後、午後11時過ぎに始まったサンチェス・ピスファンでの祝賀イベントが夜半過ぎまで続くって、前夜も午前零時まで、ローマとの決勝をプレーしていた選手たちの途方もない体力に感心するばかりですが、ええ、これで来季のCL出場権もゲットできましたしね。

日曜はレアル・ソシエダがホームのレアル・アレナで盛大に前節アトレティコ戦での4位確定、10年ぶりのCL復帰を勝利で祝うのにまったく異存はないということでしょうが、ちなみに水曜のセビージャのEL決勝がどんな試合だったのか、ちょっとお伝えしておくことにすると。実は私も今季、彼らのEL決勝トーナメントを近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で観戦するのは初めてだったんですが、やはり決勝ともなると皆、見ておこうと思うんでしょうかね。店内も普段のセビージャの試合では考えられないような賑わい方だったんですが、やっぱり彼ら、この大会の神様に後押しされていたよう。

だってえ、ローマのモウリーニョ監督が「20~30分ぐらいならプレーできる」と試合前日にブラフを張っていた負傷明けのディバラが先発し、前半35分にはセンターでラキティッチがボールを奪われたのをキッカケにマンチーニがスルーパス。これに応じた彼にエリア内からシュートを決められ、先制点を取られながら、オリベル・トーレス、ブライアン・ヒルから、スソ、ラメラに攻撃力増強した後半9分にはヘスス・ナバスのクロスをエン・ネシリの前でマンシーニがオウンゴールして、同点に追いついてしまったんですよ。

29分にはオカンポスがイバニェスにエリア内で倒され、PKをもらいかけたんですが、残念ながら、これはVAR(ビデオ審判)のモニターチェックでなしに。GKボノがベロッティのvolea(ボレア/ボレーシュート)をparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いだ後、ロスタイムのスソ、ラメラ、フェルナンドのトリプルチャンスも決まらすに延長戦に突入です。「La prórroga no se ha jugado casi nada/ラ・プロロガ・ノー・セ・ア・フガードー・カシー・ナーダ(延長戦はほとんどプレーしなかった)。ずっとボールが止まっていたし、ケガ人やら、選手交代やら…」(メンディリバル監督)という30分を、ていうか、大量ロスタイムのせいで40分以上もあったのを1-1のままやり過ごし、いよいよPK戦が始まったところ…。

圧倒的にセビージャが強かったんです!そう、第1キッカーはオカンポス、クリステンセンと両チームとも成功したものの、第2キッカーのラメラがGKルイ・パトリシオを破った後、マンチーニをボノが弾き、次のラキティッチは成功。すると、この試合、何度も接触戦で地面に倒れ、最後は唇を縫うケガを負っていたイバニェスのPKもボノが少しだけ触れてポストを直撃したから、ビックリしたの何のって。いやあ、その光景には昨年11月のW杯16強対決、PK戦でスペインのサラビア(当時はPSG)がポストに当て、カルロス・ソレル(PSG)、ブスケツと連続してボノに弾かれて敗退した悪夢がデジャブのように浮かんでくることに。

うーん、メンディリバル監督によると、「Montiel iba a ser el quinto pero luego se han cambiado el orden/モンティエル・イバ・ア・セル・エル・キント・ペロ・ルエゴ・セ・アン・カンビアードー・エル・オルデン(モンティエルは最初、5番目だったんだが、それから順番を変えた)」そうなんですけどね。この彼がまた、W杯決勝フランス戦で最後のPKを決めて、アルゼンチンに優勝をもたらした英雄だったんですが、第4キッカーの一撃はルイ・パトリシオに弾かれてしまったんですよ。それがGKの足がラインより前にあったとし、主審がやり直しを命じてくれたのが渡りに船となり、2度目のトライで成功。セビージャのEL戴冠もゲットしてしまうんですから、これぞまさにチャンピオンの幸運(PK戦スコア4-1)?

え、記者会見では6回目にして初めてヨーロッパの大会の決勝で負けたモウリーニョ監督も「セビージャは偉大なチーム、それが現実だ。ウチにはない選手層があって、経験もある」と言っていた通り、「ボクはこういう瞬間を何度も生きていて、entendí que hay que tener mucha calma para afrontar estos momentos/エンテンディ・ケ・アイ・ケ・テネール・ムーチャ・カルマ・パラ・アフロンタール・エストス・モメントス(こういう時には落ち着きを保たないといけないことを理解していた)」(ボノ)という、W杯準決勝進出モロッコのGK、更に王者アルゼンチンのラメラ、アクニャ、パプ・ゴメスの3人がいるセビージャの方が元々、勝ち馬だったんじゃないのかって?

いやまあ、それでもローマには優勝チームの同僚、ディバラがいましたし、大体、アクニャは準決勝ユベントス戦2ndレグでイエローカード2枚による無念の退場となり、この試合は出場停止でしたからね。パプもベンチ観戦だったんですが、何より、このチームにはラキティッチ、ヘスス・ナバスといったELのベテランに加え、2020年のコロナ禍無観客決勝でインテルを制したエン・ネシリ、オパンポス、フェルナンド、スソら、Sexta(セクスタ/6回目のEL優勝のこと)組もいたのは大きかったかと。おかげで試合後はまだ、来季の続投が決まっておらず、「Sería la leche no poder seguir/セリア・ラ・レッチェ・ノー・ポデール・セギール(これで続けられなかったら、最高だろう)」と皮肉を言っていたメンディリバル監督も翌日、祝賀イベントの席でカストロ会長から新契約のオファーをもらうことができましたっけ。

まあ、そんな幸せなセビージャの話はこれぐらいにして、一応、この最終節に挑むマドリッド勢のカードも紹介しておくと、前節同様、キックオフ時間にunificacion(ウニシカシオン/統一)がかかった日曜は午後6時30分(日本時間翌午前1時30分)と午後9時(日本時間翌午前4時)の前後半に分かれていて、マドリー、アトレティコ、ラージョの3チームは早い方のスタートに。ホームゲームはサンティアゴ・ベルナベウにアスレティックを迎えるマドリーだけなんですが、アンチェロッティ監督のチームの目標はお隣さんとの勝ち点差1を守って、2位をキープすることだけなのに対して、ビルバオ勢はゴールアベレージ差で上回るオサスナを抜いて、コンフェレンスリーグ出場権獲得を熱望していますからね。

ただちょっと、この7位争いは複雑で、勝ち点1差下にはオサスナと直接対決となるジローナ、何も懸かっていないマジョルカと対戦するラージョ、そしてレアル・ソシエダ戦の後、何かの偶然で7位になってしまうと、スペインのコンフェレンスリーグ枠がなくなるというセビージャがいますからね。おまけに丁度、ネグレイラ事件(スペインの審判委員会副委員長に20年余り多額の報酬を払い、有利なジャッジを受けようとしたと疑われている)を調査中のUEFA倫理委員会が来季のバルサをCL出禁にするかもしれないという報道も。

これが現実となると、またヨーロッパの大会の出場順位がズレて、訳のわからないことになるため、6月12日にUEFAのCL出場チームリストが出るまで、確たることは私もわからないんですが、ベンゼマを始め、メスタジャでの人種差別的野次が大騒ぎになった後、ヒザの負傷で休んでいたビニシウス、マドリーと契約延長をせず、PSGに移籍する可能性が濃厚になったアセンシオが復帰。ベルナベウのファンの前で有終の美を飾りたいマドリーとあって、ケガで欠場者を多く抱えるアスレティックが勝ち点を稼ぐのは難しいかもしれません。

そしてラージョは今季限りで別れを告げるイラオラ監督最後の試合に臨み、アトレティコはすでに5位が確定したビジャレアルと対戦するんですが、シメオネ監督のチームは来季、チェルシーを率いるポチェッティーノ監督がジョアン・フェリクスを戦力外としたため、夏の補強計画がスタンドバイ状態に。というのもジョアンは絶対にシメオネ監督の下には戻りたくなく、かといって今、クラブが望む移籍金1億ユーロ以上どころか、オファーそのものがまったく来てないから。そのせいで選手獲得に幾ら使えるのかのメドが立たないとはいえ、まあその辺はリーガが終わってから、おいおい考えていけばいいですからね。

今は私もアトレティコの選手たちがエルチェ戦やエスパニョール戦のような、一足早い夏休み気分にならず、まっとうに最終戦をプレーしてもらいたいだけですが、やっぱり目を離せないのは日曜後半戦、前節エスパニョールの降格が決定した後、残り1つとなった2部行きの切符を引かないために争っている6チームの一つ、弟分のヘタフェでしょうか。いえ、彼らはここ2試合、ベティス、オサスナに連勝したおかげで降格圏外の14位に逃れ、ホセ・ソリージャで顔を合わす18位のバジャドリーとも勝ち点差2あるんですけどね。実は前回、降格した2016年も17位で最終節に挑み、最後のガラガラドボンで19位に落ちて、1部を去ることになったという黒歴史が。

それだけにその翌シーズン途中からチームを率い、昇格プレーオフで最短Uターンを達成したボルダラス監督も気を引き締めているはずですが、さて。ただ、水曜に売り出された300枚のアウェイチケットを求め、コリセウム・アルフォンソ・ペレスの前に徹夜組の行列もできる程、ファンも気合を入れているだけでなく、クラブも試合当日に無料バスを出してくれるんですが、何せバジャドリーもすでにチケットがソールドアウト。多勢に無勢となるのは避けられませんが、2年前、兄貴分のアトレティコがコロナ禍でファンの声援がまったくない中、彼の地で優勝を遂げたのを見習って、残留確定要件の引分け以上を勝ち取ってほしいかと。きっとエースのエネス・ウナルも水曜にヒザの靭帯の手術を受けたインスブルックから、ヘタフェを応援しているはずですよ。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。