「トロフィーはミュージアムに35個もあるから、きっと大丈夫なのよ」そんな風に私が結論づけていたのは月曜日、先週末の34節でリーガ優勝が確定したレアル・マドリーへのトロフィー授与が来週火曜、サンティアゴ・ベルナベウでのアラベス戦の日になると知った時のことでした。いやあ、最初はアウェイではあるものの、次節土曜のグラナダ戦でと、スペイン・サッカー協会に通達されていたみたいなんですけどね。それをクラブが、まさに降格決定の可能性が限りなく高く、実際、決まれば、悲しみのどん底に浸っているであろうヌエボ・ロス・カルメネスのファンの前で、選手たちがトロフィーを掲げて、優勝を祝うのもどうかと変更を頼んだところ、協会はそれを受諾。
ただし、今週末はすでに全面改装がほぼ完了したベルナベウで初コンサートが開催予定。よって、スタジアムでのお祝いはできないものの、午前11時にリーガ優勝報告のマドリッド州庁舎、市庁舎への表敬訪問、続いて午後1時から、恒例の祝賀行事があると聞いていたため、市内をオープンデッキバスでパレードする時やシベレス噴水広場の特設ステージに上がる時、トロフェーが手元になかったら、ちょっと格好がつかないんじゃないかと思ったんですけどね。そこはスペイン1部リーグ最多優勝回数を誇るマドリーとあって、近年、トロフィーのデザインが変わったなんて話も聞かないため、2021-22シーズンのやつでも持って行けば、沿道から見るファンにも気がつかれないのでは?
まあ、そんなことはともかく、先週末のマドリッド勢の試合を順にお伝えしていくことにすると、金曜にはヘタフェがコリセウムでアスレティックと対戦。前節にはアルメリアにアウェイで勝って、相手の2部降格と引き換えに1部残留確定を手に入れたボルダラス監督のチームだったんですが、それでもう、安心しちゃったんですかね。5月5日のスペインの母の日にちなんで、選手たちが自身の母親や妻を伴って入場するイベントは微笑ましかったものの、前半27分には、ニコ・ウィリアムスのパスから、イニャキ・ウィリアムスにエリア前から撃たれて、golazo(ゴラソ/スーパーゴール)で失点。
後半6分にも兄弟の連携プレーが炸裂し、今度はカウンターから、ニコがドリブルで上がり、最後はイニャキが決めて、0-2とされてしまったんですが、実はその後、アスレティックは9人なったにも関わらず、ヘタフェは1点も取れなかったんですよ。そう、13分にはジェライがハンドで、34分にはパレデスがイエローカード2枚で退場して、おまけに38分にはルイス・ミジャのクロスがエリア内でラウール・ガルシアの腕に当たり、いえ、その時、バルベルデ監督が抗議で退席処分となったのはあまり関係ありませんでしたけどね。
PKまでもらったヘタフェだったにも関わらず、この日のGKウナイ・シモンが絶好調だったのが運の尽き。「Durante la semana tira penaltis, no falla prácticamente ninguno/ドゥランテ・ラ・セマーナ・ティラ・ペナルティス、ノー・ファジャ・プラクティカメンテ・ニングーノ(週中、練習でPKを蹴っているが、実質的に1本も失敗しない)」(ボルダラス監督)という、グリーンウッドがPKを弾かれてしまったのなんてもう、おまけのようなもんだったかと。
だってえ、この試合、ヘタフェはシュートを29本も放ち、うち9本は枠内だったのに全部、止められているんですよ。後半ロスタイムの9分間など、アスレティックをエリア内に囲い込んで攻めていたんですが、そのまま、0-2で試合は終了。ボルダラス監督が、「ボルハ(ヒザの靭帯断裂)やウナル(1月にボーンマスに移籍)がいたら、負けなかっただろう」と言い訳するのもわかりますが、これじゃ、せっかく前節の直接対決で勝ち点差を6に広げた兄貴分、アトレティコへの援護射撃にも何にもなりませんって。
いえまあ、ただでさえ、CB不足のバルベルデ監督のチームから、最後に残っていたジェライとパレデスを次節出場停止にしてくれたのは有難いですけどね。どちらにしろ、10位では、7位のコンフェレンスリーグ出場圏を目指す意欲も薄かったか、6差だったベティスとの差が9に開いても構わなかったようですが、次節のカディス戦ではアルメリアに続き、再びヘタフェが相手に引導を渡す役目を果たすことになりそうなのは奇遇。でもねえ、すでに2部降格が決まったチームと対戦するのが弟分仲間に楽勝をプレゼントすることになったかというと、まったくそんなことはなく、ええ、日曜の夜試合でラージョはアルメリアの前に撃沈しちゃったんですよ。
というのもあと1勝すれば残留確定に王手の懸かったイニゴ・ペレス監督のチームだったんですが、エスタディオ・バジェカスでの試合では、うーん、キックオフと同時に雨が凄い勢いで降り始めたのも気を散らしたんですかね。今季初先発のファルカオを筆頭に、序盤からシュートを5、6本撃って、優勢に進めていた前半30分、チャバリアがスローインを古巣訪問となったエンバルバに送ってしまうという、大ポカが発生。そのボールが1月までヘタフェにいたチョコ・ロサーノに繋がり、GKディミトリエフスキが破られてしまったのはともかく、まさかラージョまで、撃っても撃っても入らない病にかかっていたとは!
実際、こちらも前後半合わせて計27本(うち枠内10本)のシュートを放ちながら、残留の争いから解放されたGKマクシミアーノが今季最高のパフォーマンスを披露。途中出場したRdT(ラウール・デ・トマス)も止められ、最後のプレーではベベの直接FKも弾かれて、そのまま0-1で負けてしまったんですが、幸い前日、兄貴分がカディスに勝ってくれたため、17位との勝ち点8差は変わりませんでしたからね。もうここまでくると、日照り続きのFW陣がいきなり目を覚ますとは思えませんし、あとは残り4試合が3試合に、そして2試合となって、タイムアップで残留が確定するのをラージョは待つしかないのかも。
え、それでマドリーがリーガ優勝を確定する元となった、そのカディス戦はどんな試合だったんだって?いやあ、これまた、前節レアル・ソシエダ戦同様、CL準決勝バイエルン戦を考えての大規模ローテーション試合で、アンチェロッティ監督が先週火曜の1stレグから、リピートした選手はナチョだけだったんですけどね。そんな中、注目を集めていたのはGKクルトワの実戦復帰で、ええ、彼は昨夏のプレシーズンにヒザの靭帯を断裂。復帰目前だった3月には反対側のヒザの半月板を痛めて手術という不運があったせいで、今まで戻って来られなかったんですが、ようやく屋根の閉まったサンティアゴ・ベルナベウのピッチで驚異的な音響効果を実感できることに。
いやもう、その凄まじさといったら、8階のプレス席はスピーカーが近いのか、試合中はいいんですが、BGMが流れるキックオフ前やハーフタイム中など、大音量に頭が痛くなる程で、私など、次回は絶対に耳栓を持っていこうと決意したぐらいだったんですけどね。試合の方はカディスが最初から、勝利を諦めていたようだったにも関わらず、前半はミリトン、ギュレル、ホセルらのシュートはあったものの、スコアは動かないままに。
それが後半になっていきなり盛り上がったからビックリで、始まりは4分、ドリブルで上がってきたクリス・ラモスの1対1のシュートをクルトワがparadon(パラドン/スーパーセーブ)。ブランクがあっても衰えない神通力を見せつけた直後、ブライムがエリア前からのシュートでGKレデスマを破ってくれたんですよ。更に20分にはアンチェロッティ監督が、「Quería piernas frescas y, sobre todo, ganar el partido/ケリア・ピエルナス・フレスカス・イ、ソブレ・トードー、ガナール・エル・パルティードー(フレッシュな足が欲しかったのと、とにかく勝ちたかった)」という理由でギュレルをベリンガムに交代。その彼が、ピッチに入って3分後にはブライムのアシストで今季リーガ18得点目を挙げ、2点差になったとなれば、もう勝負はついたってもんです。
その後、ブライムに代わって入ったビニシウスもミリトンにrabona(ラボナ/利き足を軸足の後ろに回して蹴る技)でクロスを挙げ、残念ながら、そのヘッドはレデスマに弾かれてしまったものの、大喝采を浴びていましたしね。そのまま2-0で終わってもファンは満足したかと思いますが、ロスタイム3分にはビニシウスのスルーパスで上がったナチョがエリア内から、ホセルにラストパスを送り、マドリーは3点目もゲット。3-0の完勝でカディスの儚い望みを打ち砕き、選手たちも応援団の前で飛び跳ねて、勝利を祝っていたんですが…。
何せ、この時の状態ではまだ、優勝確定までに勝ち点1が足りませんでしたからね。次の時間帯のジローナ戦でバルサが勝った場合、次節持ち越しの可能性もあったため、それ以上、ピッチで大々的なお祝いもできなかったのは仕方なかったかと。一応、選手たちはまさかの際に備え、誰1人、ミックスゾーンに姿を現わさず、ロッカールームで試合を見ていたんですが、いやあ、そのまさかが起こるとは!
そう、早い時間のクリステンセンの先制点をドブビクのヘッドで帳消しにされながら、前半ロスタイムにはレバンドフスキのPKゴールで1-2とリードして終えたバルサだったものの、後半に全てが崩壊。20分過ぎにはポルトゥとミゲール・グティエレスの連続ゴールで逆転されると、更に再びポルトゥに止めを刺され、4-2で負けたとなれば、いえ、その頃にはすでにシベレス噴水広場は、市当局が交通止めをしなかったため、歩道にしかいられないにも関わらず、何千人ものマドリーファンで溢れ返っていたんですけどね。
ジローナが来季のCL出場権を確定し、バルサを抜いて2位に上がった後、レアル・マドリーTVでのアンチェロッティ監督のコメントで、私もシベレスでの祝賀イベントが日曜にあることを知ったんですが、ベルナベルのパルコ(貴賓席)前ホールで内輪の優勝祝いをした選手たちが、その時も喜びの頂点にいられるかは微妙。というのも、この水曜午後9時(日本時間翌午前4時)にはバイエルン戦2ndレグが控えているからで、ええ、1stレグは2-2のドローと、まったくイーブンでの対戦になりますからね。
ただ、マドリーは1981年にCL決勝で負けて以来、8回連続で優勝しているため、この準決勝の関門を越えさえすれば、たとえ、相手がPSGになろうが、ドルトムントになろうが、ウェンブリーでの一発勝負でDecimoquinta(デシモキンタ/15回目のCL優勝のこと)を達成するのは堅い気がするんですけどね。1stレグでのバイエルンが予想以上に手ごわかったのも事実。すでにレバークーゼンの優勝が決まっているブンデスリーガでは同じ土曜、6人スタメンローテーションして、シュツットガルトに3-1と負けていましたが、ベルナベウでの対戦はどうなることやら。このビッグマッチ、ハリー・ケーンやザネ、ムシアラ、ナブリからマドリーのゴールを守るのは、カディス戦で休養したGKルーニンの役目になりますが、CL決勝でのクルトワとのポジション争いも見据えて、頑張ってくれることを期待しています。
そして土曜の夜はアトレティコもマジョルカに挑んだんですが、いやあ、もう近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で彼らのアウェイ戦を見るのは今季、ほとんど苦行と化していたため、午後9時のキックオフ直後はスマホでTVのスポーツニュースを見ながら、シベレスが賑わう様子に気を取られていた私も悪いんですけどね。ふと気づくと、開始5分にはアトレティコが先制ゴールを挙げていて、それもアスピリクエタのスローインをナスタシッチがヘッドクリアしたボールを拾ったリケルメの技ありの一発だったから、意表を突かれたの何のって。
そう、ゴールを背にしていたのをヒールキックでボールを後ろに送り、振り向き様、蹴ったところ、敵DF2人の間を通って、GKライコビッチを破ったんですが、これはもしかして、前節アスレティック戦前日に居残りシュート練習。まんまと3点目のオウンゴールを引き起こしたサムエル・リノの二匹目のドジョウを狙って、コレア、バリオスと一緒に特訓した甲斐があった?
とはいえ、この日のアトレティコのゴールはこれだけで、いえまあ、後半にはコレアからラストパスをもらったジョレンテがコントロールに失敗し、撃ち上げてしまう惜しいチャンスもあったにはあったんですけどね。グリーズマンが出場停止、モラタもここ16試合でたった1得点だけの日照りまくりとあって、それ以上は望むべくもなかったんですが、違ったのは選手たちの心構え。後でリケルメも「Sabíamos que teníamos que tomárnoslo como una final por los malos resultados fuera/サビアモス・ケ・テニアモス・ケ・トマールノスロ・コモ・ウナ・フィナル・ポル・ロス・マロス・レスルタードス・フエラ(アウェイでの悪い結果のせいで、ボクらは決勝のようにこの試合に挑まないといけなかった)」と言っていたように、しっかり守った彼らは最後まで失点せず、0-1で勝利をものにできたんですよ。
うーん、この試合の前日、今季16試合の半分が黒星という、超悲惨なアウェイ弱者ぶりの原因を尋ねられたシメオネ監督が、「Sé lo que pasa pero no te lo puedo decir/セ・ロ・ケ・パサ・ペロ・ノー・テ・ロ・プエド・デシール(何が起きているのかはわかっているが、言うことはできない)」と答えているのを聞いて、原因がわかっているなら、何で手を打たないのかと、私も呆れていたぐらいだったんですけどね。確かにこの日はグリーズマン不在で5-4-1という後ろに比重を置いたシステムを使い、ここ2年、ムリキのゴールで負けていたサン・モイシュでの試合で守備に穴を開けなかったのは立派ですが、全てのタイトルの可能性を失った後になって、選手たちがようやく改心するって…。
何にせよ、もうアトレティコには4位を死守して、ここ12年間、連続出場しているCLに来季も出ることしか、目標がないんですが、この日曜の次節はマジカル・メトロポリターノでプレーできますからね。相手もビジャレアルに勝ったことで、ラージョ同様、あとはグラナダ、カディスが落ちるのを待つばかりと、ほぼほぼ残留が確定しているセルタとあって、あまり心配しないで済むのは助かりますが…その日はマドリーのシベレス祝賀イベントの日とあって、カディス戦、バレンシア戦をプレーする弟分共々、彼らがどんなにいい試合をしても、あまりマスコミに取り上げられてもらえなさそうなのは淋しいですよね。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
リーガ優勝は決まったけど…/原ゆみこのマドリッド
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