2023年末に商品改良を受けたレクサスのコンパクトSUV「UX」シリーズ。その最大の注目は、ネーミングまで変更されたハイブリッドモデルでしょう。システム最高出力がアップするなどハイブリッドシステムが刷新された「UX300h」は、どんな魅力を備えているのでしょう? 公道でチェックしてみました。
最新の「UX300h」は“エンジンの存在感”がさらに希薄に
先の商品改良によって登場したレクサス「UX300h」の試乗を終え、筆者(工藤貴宏)は正直、自分を恥じたい気分になりました。
試乗するまで「マイナーチェンジだからたいして変わっていないんでしょ」と軽はずみに予想していたのですが、実はその中身、特にハイブリッド機構が、別のクルマといってもいいくらい劇的に進化していたからです。
レクサス「UX」シリーズは、2023年秋に「LBX」がデビューするまで、レクサスのSUVで最もコンパクトなモデルでした。
従来モデルの「UX」シリーズにはガソリンエンジン車、ハイブリッド車、そしてBEV(電気自動車)という3種のパワートレインが設定されていましたが、先の商品改良で純エンジン車が廃止され、ハイブリッド車とBEVだけという電動モデル専用車となりました。
合わせて、先の商品改良を機に、「UX」シリーズのハイブリッドモデルは「UX250h」から「UX300h」へとネーミングも変わりました。
そんな「UX300h」は、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドカーですが、乗ってみてとにもかくにも驚かされたのは、“エンジンの存在感”が希薄なこと。モーターの力が強いフルハイブリッドゆえ、停止状態はもちろんのこと発進時もエンジンを始動させないのは当然ですが、予想と全く異なるのは、そこから加速して速度が上がっていったとき。
通常のハイブリッドカーならエンジンが始動するような状況になっても、「UX300h」はほとんどエンジンがかからないのです。ハイブリッドカーの常識を超えるほどエンジンを始動させずモーターだけで粘り、100km/hになってもエンジンを止めたままモーターだけで走るのです。
冗談抜きに「あれ、ハイブリッドじゃなくBEVに乗っているのかな?」と思ったほど。そう錯覚するほどに、「UX300h」の走りはスムーズで静かで快適です。
もちろん、そのまま運転を続けていたら「やはりこのクルマにはエンジンが載っているんだな」と気づきます。ただし、エンジンが始動してもそのことに気づかないくらい、エンジンの存在感が希薄なのはお見事。静かでスムーズで、細かい振動だって伝わってこない「UX300h」のエンジンは、まさに縁の下の力持ちといってもいいでしょう。
こうした「UX300h」の乗り味は、最新のトヨタ「プリウス」以上で、「プリウス」のPHEV(プラグインハイブリッド車)に近い感覚。エンジンの存在感の希薄さはトヨタやレクサスのハイブリッドカーの中でも最上級で、エンジンが始動するとその音が耳に届く「センチュリー」のセダンよりも格上といえるほどです。
●ハイブリッドシステムがトヨタの最新世代へと進化
「UX300h」のドライブフィールは、まるで全領域をモーターだけで走行するBEVのようです。では、「UX300h」の走り味は、なぜこのような乗り味になったのでしょう? その答えはハイブリッドシステムの刷新にあります。
「UX250h」時代のハイブリッドシステムはトヨタで“第4世代”と呼ばれるもので、先代「プリウス」と同じタイプでした。
しかし「UX300h」となった新型は、ハイブリッドシステムが“第5世代”と呼ばれるものへと進化。モーターやインバーターなどハイブリッド関連のメカニズムがすべて、新型「プリウス」と同じ世代のものになったのです。
しかし、「UX300h」のドライブフィールは、現行「プリウス」のそれとはまた別の感覚です。音や振動などをさらに低減させ、エンジンの存在感をさらになくした進化版だと感じました。
ウソでも誇張でもなく、加速中にエンジンがいつ始動したのか全然分からない「UX300h」の走りは、まさにBEVと錯覚するようなフィーリングなのです。
それにしても、マイナーチェンジなのに進化幅がこれほど大きいなんて、完全に予想外でした。新しい「UX300h」は、「いいクルマをつくろう。どんどんよくしていこう」というレクサスの貪欲な精神を、見事に具現したモデルといえるでしょう。
4WD仕様はコーナリングフィールも格段に向上
その上で、「UX300h」はドライバビリティも大きく向上しています。
例えば加速時は、アクセルペダルを踏み込んでも反応が鈍く感じる従来のハイブリッド車とは異なり、「UX300h」はモーターがうまく作用し、ダイレクトな加速感を実現しています。
その理由は、システム最高出力が従来の135kWから146kWにパワーアップしているからといった理由もありますが、実はそんな単純な話ではありません。実は、ドライバーの操作に対して、「UX300h」はその意図をクルマ側がくみ取り、しっかりと反応してくれるのです。
コーナリング時の印象も同様です。走行安定性を高めるべくボディ補強を施し、さらに4WDモデルではリアモーターの出力が5kWから30kWへと大きくアップ。加えて、コーナリング中のアクセルオン時に駆動トルクを後輪へと積極的に送る制御とすることで、旋回フィールも向上しているのです。
従来の4WDは、すべりやすい路面での発進性を高める程度の役割しか担っていませんでした。しかし、新型のそれは舗装路でのハンドリング向上にも役立っているのです。
加速がスムーズで快適、かつ力強くなり、加速もコーナリングもクルマとドライバーとの一体感が大きく増しているのが、新しい「UX300h」のドライブフィールです。
●安全性や使い勝手もしっかりアップデート
出力がアップしたと聞くと「燃費が悪くなったのでは?」と心配する人もいることでしょう。しかし、その心配には及びません。
従来の「UX250h」はWLTCモード燃費が22.8km/L(FF車)だったのに対し、「UX300h」は26.3km/Lへと逆に良化しているほど。ちなみに4WD車も、21.6km/Lから25.2km/Lへ向上しています。
加えて新型は、こうした走りの進化だけでなく、交差点衝突回避支援が加わるなど先進安全機能が向上し、1500Wと大容量のAC100V電源を新設定。さらには、メーターの12.3インチフル液晶化など、安全性や使い勝手もしっかりと進化しています。
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というわけで、先の商品改良で誕生した「UX300h」は、「たいして変わっていないのでは?」という筆者の事前の印象を打ち破り、「見た目は変わっていないけれど、運転してみると全く別のクルマ」へと進化していました。
レクサスのコンパクトSUVといえば、最新モデルの「LBX」に注目が集まっていますが、さらに走りの余裕が欲しい人には、「UX300h」も要チェックの1台といえるでしょう。