知的障害+自閉スペクトラム症の長女とイヤイヤ期の次女の育児に奮闘しながら、自閉症育児の悲喜こもごもを発信しているにれ(@nire.oekaki)さん。子どもの成長への不安や悩みを赤裸々に描いていて、大きな反響を呼んでいる。
にれさんが新たに描き下ろした漫画とエッセイを加えた電子書籍「今日もまゆみは飛び跳ねる〜自閉症のわが子とともに〜」が発売された。

ウォーカープラスではこの電子書籍の中から特に印象的な漫画を、にれさんのエッセイと共にご紹介。日々思い悩みながらもなんとか前に進むママと、確かに成長していく娘の姿を描く、共感必至エピソードをお届けします。

■無理のない範囲で、あきらめないこと
白状します。まゆみの特性が現れてくる前は、恥ずかしながら「おしゃれママによるステキな子育て」を夢見ていました。私自身はおしゃれとは程遠い人間なので純度100%の妄想なのですが、「お花摘みをする娘をにっこりと見守る、ロングスカートに日傘のママ」のような姿に憧れがありました。

あれから数年。今では立派な「道路へ飛び出そうとする娘を般若の顔で引き留める、履き古したスニーカーの瞬発力重視ママ」になりました。子どもの安全が守れるならそれでいいと思っていますが、元からズボラな私が身なりに無頓着でいると「あそこのお母さんは娘さんに障害があるから身だしなみも整えられない」なんて、私のだらしなさがまゆみのせいにされてしまうかもしれません。

それを避けるためにパンツスタイルで叶うおめかしをしたり、ヒラヒラのロングスカートは無理でも脚さばきのよいジャンパースカートをはくなどして「お疲れ感」の軽減に努めているのですが、案外これが手放したはずの自分のおしゃれ欲求を満たす結果になっていることに気づきました。

子どもに障害/特性があると何でもないような行動にも制限がかかり、つい物事をあきらめてしまうことが多くあります。心底しんどい渦中にいたときはとても身だしなみに気を使うことなどできなかったので、少し余裕が生まれたからこその変化なのだと思いますが、毎朝着る服を選ぶうちに「最初からあきらめず、できる範囲で叶えていこう」と思うようになりました。

おしゃれに限らず、「ラーメン食べたいな」「あの本、読みたいな」…そんな小さな望みを叶えて、親からただの個人へ戻る瞬間が自分の心のケアにもつながる気がします。

「最初からあきらめない」のは親だけのことではなく、子どもについても同様です。「うちの子には難しそう」とあきらめずに、障害が分かる前に「こうしてあげたい」と思い描いていたことには気軽にトライしてみたら、意外と楽しい結果が待っているかもしれません。ダメならダメでもいいんです。一緒にやったことが大切な思い出になります。

わが家の例でいうと、私はまゆみの髪を可愛らしく結ってあげられる日をずっとずっと楽しみにしていました。しかしまゆみの髪は伸びるのが遅く、結べるほど伸びたのはちょうど診断のついた頃……意思疎通が難しく、動き回るまゆみの髪を結ぶなんて無理だとあきらめていました。

けれど、ある日何となくトライしてみたのです。じっとしてくれないので、歩くまゆみを追いかけながら結んだ、渾身の二つ結び。「可愛くできた!」と拍手している間にまゆみがヘアゴムを取ってぐちゃぐちゃにしてしまいました。結果はダメでしたが、一瞬でも髪を結んだ姿が見られたら後のことは「まゆみらしいな」と笑えてきて、抱えていた「ヘアアレンジしたいけど、してあげられない」という気持ちにケリがつきました。自分のこと以上に手をかけて可愛くしてあげたい思いは変わらないので、今はまゆみのボブヘアをツヤツヤにとかしてあげるのが日課になっています。

「今日はこれで!」と上品なお花のワンピースを着せても、ふと見ると蛍光ピンクのTシャツに真っ赤なズボンのお目目チカチカコーデに早変わりしているまゆみ。がっくりしますが、着たいものを着るのはいいことだとなるべくはまゆみの意思を尊重しています。

いつかそんなまゆみの髪の毛をフィッシュボーンに編み込んで、彼女が「かわいい!」と喜んでくれる日が来たら最高なのですが。