新年度も1カ月以上が過ぎ、5月の大型連休も終わった。古くから“5月病”という言葉が知られているように、この時期には新しい仕事環境へのストレスから憂鬱になったり、場合によってはそのまま退職してしまうケースも少なくない。そうした中、急速に注目を集めつつあるのが「退職代行サービス」だ。

(takasuu/gettyimages)

「4月だけで1397名(うち新卒208名)の退職を確定させました。
大企業が一社潰れる数値です。
5月以降の予約も101件となり、GW明けの退職者は更に加速します。
賛否両論あるかとは思いますが、日本の退職は悪という風潮が少しでも和らぎ、退職代行の存在で労働者の立場を少しでも向上させることができればと思います」

 4月30日、退職代行サービス業者の一つ「モームリ」はX(旧Twitter)でこのように語った。退職者の割合は新卒が比較的高いものの、幅広い世代から利用されている実態も見えてくる。

なぜ、退職を業者に代行してもらう必要があるのか

 「自分の退職の意思くらい、自分で伝えるべきだ」

 「社会人の癖に、どこまで甘え切っているんだ」 

 そうした声も当然出てくるであろうし、妥当な批判でもある。ただし、その是非にはときに「状況次第」と言える面もあるのではないか。

 たとえば、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれるような、企業あるいは現場のモラルと遵法意識が低く、労働者が危機的立場に置かれている──。契約と極端に異なる労働環境を平然と強いる、ハラスメントが横行している、本人の退職意向を無視する、あるいはそれらによって心身に深刻なダメージをもたらす状況、本人が正常に退職を伝えられないほど追い詰められているなどの実態があった場合、状況を打開し救済する可能性にも繋がる。

 2019年、まさに『退職代行』(SB新書)をタイトルに書籍を執筆した小澤亜季子弁護士も、書中で突然死した実弟の事例を記している。

 大学卒業後に就職し、およそ半年で突然他界した彼が生前使っていたスマートフォンには「仕事 辞めたい」「仕事 辞め方」などのキーワード検索をした履歴が残されていたという。

 それまで仕事が趣味のワーカホリックであったという小澤弁護士は、この件をきっかけに「もし生前に退職代行サービスを見つけていたら、仕事を辞められていたら、弟はまだ生きていたかもしれない」と、「働く」ということや「会社」に対する考え方が大きく変化したと述べている。

 その心境には、いわゆる「就職氷河期世代」にあたる筆者の経験からも一定の同意をする。筆者が大学を卒業した20年以上前、03年春の大卒就職内定率は55.1%だった。「夢は正社員」が大袈裟ではないほど極端な採用側の「買い手市場」であり、就職活動では企業へのエントリーシートさえ通らず、100社以上に応募してもテンプレート的に不採用を伝える「お祈りメール」だらけという事態も全く珍しくなかった。