70歳を過ぎてから和紙アートに目覚め、本物そっくりの〝フェイクフード〟を作る男性がいます。SNSや作品展でたくさんの人を楽しませている「メガネのおじいちゃん」(@meganenooo)こと西滝(にしたき)一彦さん(78)=大阪府在住。「フォロワーさんからの『いいね』や『コメント』がうれしい。『よく見たら紙やないの』と面白がってもらいたいです」と話します。(withnews編集部・河原夏季)

原材料は「和紙」

スーパーのお弁当、菓子パン、カニ、サケ、きつねそば……。2月に大阪市阿倍野区で開かれた作品展には、おいしそうな〝食べ物〟が並んでいました。

いずれも原材料が「和紙」のフェイクフードです。

作品展を訪れた会社員の女性(30)は、「X(旧Twitter)で見て『おいしそう』と思っていました。和紙なのに質感がすごいし、いい趣味ですよね。楽しんで作っていらっしゃるんだろうなと思いました」と話します。

作者の西滝さんは、2019年から「メガネのおじいちゃん」としてSNSで発信してきました。これまでに作ったフェイクフードは750種類以上。「保管場所に困るくらい」と笑います。

妻へのいたずらがきっかけで

フェイクフードを作るきっかけとなったのは、20年ほど前。58歳で住宅会社を退職した後、「暇つぶし」で段ボールの飛行機や貯金箱、バッグを作っていました。

そんなある日、「ほんのいたずら心」から妻が職場に持っていくおやつのクッキーに、段ボールで作った〝ニセモノ〟を忍ばせました。

妻には「もう少しで食べるところやった」と叱られましたが、人を驚かせる楽しさを感じたといいます。

学生時代からデザインに関心があり、武蔵野美術大学で学びましたが、和紙と出合って本格的に作品を作るようになったのは70歳を過ぎてから。

ちぎり絵を楽しんでいた姉が、あるとき「あんた、いらへんか?」と大量の和紙を送ってくれました。西滝さんは「こんなにたくさんの種類があるんや」と和紙の奥深さに気づいたといいます。

茶色い紙を見て「ハンバーグの柄に似ている」、黄色い紙は「卵焼きに似ている」と感じ、自己流で食べ物を作るようになりました。

スーパーや雑誌、テレビで「ネタ集め」

和紙で作るのは、誰もが知っている身近な食べ物です。生活の中から「ネタ集め」をしています。

「週3日、妻と一緒にスーパーに行って、食材を見ながらこれやったらできるかなと考える」という西滝さん。トレーや空き袋も、食品が入っていたものをリサイクルして展示に使用します。

料理雑誌やテレビの料理番組もネタの宝庫で、気になったものは写真に撮ってためておくそうです。

自宅には70種類ほどの和紙がありますが、それでも足りなかったら買い足したり、雑誌や新聞広告をちぎったりして「材料」にしています。

「私は和紙を貼ったり丸めたりしているだけ。本当に〝紙様〟のおかげなんですよ」

最近の自信作は「ワタリガニ」。通常、作品は3時間ほどで作りますが、ワタリガニの色を表現するために何度も和紙を重ねたりはがしたりして調整し、10時間かけて完成させたといいます。

「いいね」やコメントがモチベーション

はじめの頃は作品を妻や孫に見せて楽しんでいましたが、置き場に困るようになり写真に撮っては捨てていたそうです。

「こんなに作っているんだから、SNSにあげたらいいんじゃない?」。長男で画家の直人さん(51)が提案し、2019年から直人さんサポートのもとSNSに投稿しました。

2020年、Twitter(現X)に「#RTで私を有名にしてください」のハッシュタグとともに「70歳を過ぎてから暇つぶしで始めたおじいちゃんの工作です」と投稿すると、2万を超える「いいね」がつき、「本物みたいで見てたらお腹が空いてきました」「温かみがあって凄く素敵」といったコメントが寄せられました。

今ではXだけでなく、Instagram(@meganenoo)やTikTok(@meganenoo)でも発信しています。

「樹脂粘土やフェルトでフェイクフードを作る人は見るけど、和紙はあまりライバルがいないのかも」と話す西滝さん。「フォロワーさんからの『いいね』やコメントがうれしい」とモチベーションにもなっています。

「食品サンプルを作っているわけではないので、一瞬驚いてくれたらいいし、『よく見たら紙やないの』と面白がってもらいたい。元気なうちは続けていきます」