国土交通省は、今後の不足が懸念される航空整備士の確保に向け、国家資格の業務範囲を拡大するなど整備士制度を見直す方針を固めた。航空需要の拡大が見込まれる中、整備士のなり手は急激に減少しており、対策を急ぐ必要があると判断した。来年度早期に関係省令の改正を目指す。

 国内の主要航空会社では6000人の整備士資格者が働く。50歳以上が4割を占め、10年ほどで大量退職期を迎える。全体の6割超は全国九つの航空専門学校出身だが、2017年に600人だった入学者はコロナ禍を通じて減少し、23年と24年は各280人と半減した。将来的に整備士不足による減便・欠航が生じる恐れもある。

 国交省はこうした状況を受け、運航の合間に空港で保守や軽微な修理を行う「ライン整備」について、型式別に取得が必要な国家資格を共通化し、どの型式の機体も扱えるようにする。例えば、ボーイング787型機を扱う資格を持つ整備士は、エアバスA350型機のタイヤ交換も可能になる。

 ライン整備を担う「航空運航整備士」資格の業務範囲も、大幅に拡大する。現状はライン整備の作業項目の6割程度をカバーしているが、ブレーキ系統の調整など残る4割の大半も作業を認める。これにより、上位資格の「航空整備士」が不在でも、ライン整備を完結できるようにする。航空運航整備士の型式区分も、併せて撤廃する。

 いずれも、修理作業の標準化や整備マニュアルの充実といった、近年の航空機整備の実情を踏まえた。

 このほか、1等航空整備士は2970時間、1等航空運航整備士は1260時間など、法令で定めている整備士養成施設での教育時間について、能力に応じて大幅に短縮可能な養成方法も選べるようにする。

 国交省は2月、外部有識者や航空関係団体を交えた検討会を設置し、議論を進めてきた。年度内に詳細を詰め、来年度早期の実施を目指す。

航空需要増加と安全対策

 国土交通省が航空整備士の制度改正を決めたのは、将来にわたって、安定した運航と「空の安全」を確保するためだ。

 国際航空運送協会(IATA)は、日本の航空需要が2040年に19年比で1・5倍に増えると見込む。一方で、足元では事故や重大インシデント、安全上のトラブルが続く。地方空港でも航空燃料の供給不足が表面化し、国際線の新規就航や増便の断念が相次いだ。

 こうした現状を踏まえると、安全運航の基幹となる航空整備士について、不足による問題が顕在化する前に対策を打つ意義は大きい。同様の課題を抱える欧州などに比べても、業務範囲拡大の規模などの点で一歩も二歩も進んだ内容だ。

 ただ、資格の共通化を含め、航空会社内での教育・習熟が重要になる。昨秋には航空大手で複数の不適切整備が判明した。国交省の監督責任もいっそう重くなる。(社会部 森田啓文)

 ◆航空整備士=航空法で定められた国家資格。運航間の保守や軽微な修理を担う「航空運航整備士」(養成期間約2〜3年)と、それに加えてドックでの小・大修理もできる「航空整備士」(同5年)などがある。大型機を扱う「1等」資格は型式(ボーイング787型など)ごとに取得する必要がある。