2020年に初期中咽頭がんを発症し、闘病生活を経験したお笑いコンビ・ペナルティのワッキーさん。がんの大元となる“原発”が不明の状況が続き、精神的に苦しい時期があったそうです。発覚当初から中咽頭がんの判明までの経緯を伺いました。

治療終了から3年半も後遺症は色濃く お笑いコンビ・ペナルティのワッキーさん少しだけふっくらした?パーマがお似合いのワッキーさん(ワッキーInstagram【@japan_wacky】より引用)

── 現在の体調はいかがですか?

ワッキーさん:治療が終わってから、約3年半経ちました。一応、がんは治ったという感じではあるんですが、後遺症は色濃く残っていて、日々戦っているところですね。

喉にずっと違和感があって、とにかく唾液が出づらいんです。唾液が出てこなくなると、喋りづらくなるし、大声を張り上げるのがツラい。早口もできなくなってきちゃうし、言葉もよく噛みます。「ルミネ the よしもと」の舞台は10分間ですが、今はその時間が精いっぱいですね。テレビなどのお仕事では、事情を伝えて水を持ち込ませてもらっています。

── 職業柄、声を張れないというのは、なかなか大変ですね…。

ワッキーさん:自分としては、“もう何でもできますよ!”というスタンスでいますし、意欲もあるんです。ただ、まだまだ喉が本調子ではないので、この状況とうまくつき合いながらやっていく方法を模索しているところですね。

舞台でネタをやっているときは、相手のセリフの間に、ギューッと唾液を絞り出すような作業をしたり。少しずつ、上手くやりすごすテクニックがついてきたなという感じではあります。

── ワッキーさんといえば、勢いのあるギャグが持ち味ですが、ちょっと芸風も変わってきますかね。

ワッキーさん:これまで、“どんなムチャぶりにもガムシャラに挑戦する”という感じでやってきましたが、今はちょっと難しいかな。ただ、さすがに50のおじさんですからね(笑)、もう少し落ち着いた感じに移行してもいい頃かもしれません。

後遺症のひとつである“味覚が鈍る”という点は、徐々に戻ってきているものの、まだ以前の6割くらい。順調に回復した場合でも100%戻るのは難しいらしく、9割がせいぜいだそうです。回復にかかる時間も個人差があって、僕は時間がかかっていますが、9割まで戻ることを信じて過ごしています。

48歳で首にしこり「がんが転移してる」と言われ頭が真っ白に

── あらためて、病気が発覚した当時の状況を聞かせてください。最初に異変に気づいたきっかけは、首のしこりだったそうですね。

ワッキーさん:48歳のときに、首の左側、のどぼとけの横あたりに、小さなしこりのようなものがあることに気づきました。“放っておけば治るだろう”と、あまり気にしていなかったのですが、1週間くらいしたら、もうひとつ増えていたんです。

硬さもなく、痛みもなかったのですが、しこりが2つになったので、“なんだか気持ち悪いな…”と思い、近所の耳鼻科に行ったら、「うちではよくわからないから」と、大学病院を紹介されました。そこで組織を取って調べたところ、「がんです」と言われたんです。

お笑いコンビ・ペナルティのワッキーさんがんが発覚し治療を始めた頃の一枚(ワッキーInstagram【@japan_wacky】より引用)

── ほかに自覚症状はあったのでしょうか?

ワッキーさん:いえ、まったく何も…。むしろ、すこぶる健康体でした。だって、タバコは吸わないし、お酒もたまに飲むくらいで、生活習慣だって健やかそのもの。当時はよく運動もしていて体力が自慢でしたから、がんだと言われても、“まさか自分が!?そんなわけがない”と思い、何度も聞き返しました。どこも痛くないし、便だって毎日きちんと出ていましたし。

── スポーツマンとして知られ、筋肉番組などでも活躍していたほどの体力自慢。しかも、生活習慣も健康的とあれば、なおさら驚かれたでしょうね。

ワッキーさん:あまりに予想外で最初は信じられませんでしたね。詳しく調べるために、PET検査という全身の精密検査をしたのですが、「首のしこりはがんが転移したもの」と言われ、ショックで頭が真っ白になりました。“転移”だなんて言われると、ものすごく怖いじゃないですか。

ただ、転移しているということは、親玉のがん=原発があるということ。お店で例えるなら、転移している首の2つのしこりが「支店」で、原発が「本店」。その本店を探すべく、ふたたび検査をしたのですが、結局、原発の場所が見つからなかったんです。

がんの親玉が見つからない…妻にも言えなかった1か月

── 原因がわからないと、さらに不安が増してしまいますよね。

ワッキーさん:そういうことが稀にあるらしく、「原発不明がん」というのだと知りました。仕事のことがあるので、一応マネージャーには伝えたものの、しばらく周りの誰にも言っていませんでした。

── 奥さんにも、ですか? なぜでしょう?

ワッキーさん:本来、最初に伝えなくてはいけない相手ですが、がんだと告げたらものすごく心配するだろうな、ショックを受けるんじゃないかと思って、1か月くらい言い出せなくて。しかも、まだ原発がどこにあるのかわかっていない状態だったので、かえって不安にさせるだけだろうと思ったんです。

でも、さすがにそろそろ言わなくちゃと、夕飯の支度をしていた嫁さんに、「じつは俺、がんだったんだよね」と伝えたら、「あ〜、そうなんだ〜。あんた最近ひとりでせこせこと病院に行ってたから、なんかおかしいなと思ってたんだよね〜。へえ〜」と。思ったよりも、あっけらかんとした様子に、「さすがうちの嫁さん、強いなあ」とちょっと感心しちゃいました。

── もしかしたら、ワッキーさんを気遣ってあえて気丈に振る舞っていらしたのでは?

ワッキーさん:どうなんでしょうね。もしかしたら、そういう気持ちも半分くらいあったかもしれないですけれど、僕から言わせれば、それがうちの嫁さんなので(笑)。もともとサバサバしたタイプで、キモがすわっているというか。でも、取り乱すこともなく、落ち着いてどっしりと受け止めてくれたので、僕自身、助けられました。

お笑いコンビ・ペナルティのワッキーさん娘さんが撮影したワッキーさん。センス抜群!(ワッキーInstagram【@japan_wacky】より引用)

── お子さんたちには伝えたのでしょうか。

ワッキーさん:伝えました。当時、下の子は小学1年生だったのでまだよくわかってなかったと思いますが、上は6年生なのできちんと説明しましたね。

がんという言葉は響きが強いので、不安にさせてしまうといけないと思い、「パパの病気は治るから心配しなくても大丈夫だよ!だってほら、こんな元気でしょ?」と。その後も、今までと変わりなく一緒に遊んだりしていたので、とくに不安そうな様子もなく、安心しました。

最後の触診で血を吐きながらも「中咽頭がん」とわかって

── その後、どの時点で中咽頭がんだと判明したのでしょう?

ワッキーさん:夫婦で相談して、「セカンドオピニオンを受けてみようか」ということになったんです。これまで診てくれた先生にセカンドオピニオンを切り出すのは、正直気が引けたのですが、「絶対にがん専門の病院に行ったほうがいいです」と親身になって、がんに詳しい先生を推薦してくれました。

そこから、がん専門病院に移り、再び精密検査をしたのですが、結局、そこでも原発が見つからなくて…。でも、主治医の先生が、「最後にもう1回だけ診てもいい?」と、喉の奥を切開して調べてくれました。 

思わずウエッとなるわ、血もドバっと出るわで、ちょっと苦しかったのですが、その1時間後、「原発が見つかりました!脇田さんのがんは、中咽頭がんです」と言われ、初めて喉のがんだと判明したんです。病名がわかるまで、結局1か月半くらいかかりましたね。

── “原発”が見つかって安心されたでしょうね。

ワッキーさん:原発が見つからないと、また転移して「支店」ができてしまう可能性が高いらしいので、ホッとしました。

結局、精密検査でも見つからないほど、がんが小さかったみたいです。でも、そんな高度な医療機器を使った検査でも見つけられなかったものを、最後の最後に、生身の人間が指先ひとつで発見した。医者魂のようなものを感じて、「ああ、すごいなあ」と思いましたね。

主治医の先生はもちろん、バトンをつないでくださった前の病院の先生にも、すごく感謝しています。

RPOFILE ワッキーさん

1972年生まれ、北海道出身。吉本興業所属のお笑い芸人「ペナルティ」のボケ担当。94年、高校・大学のサッカー部の先輩だったヒデと「ペナルティ」を結成。同年、銀座7丁目劇場のオーディションに合格し、デビュー。その後、テレビや舞台など幅広く活躍。2020年に初期の中咽頭がんを発症。21年3月に仕事復帰するも体調が戻らず、再び休養。同年12月に仕事を再開し、2023年6月に劇場に復帰。

取材・文/西尾英子 写真提供/ワッキー