飛ばないボールでこそ“アーチスト”の本領

 プロ野球西武の中村剛也内野手(40)が5月7日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)で今季5号を放って通算476本塁打とし、歴代10位の「鉄人」金本知憲(元広島、阪神)に並んだ。平成、令和にわたって活躍する「アーチスト」。13日現在で通算1790安打と2000安打には遠いものの、869本塁打の王貞治(元巨人)を筆頭にNPBで過去8人しか達成していない500本塁打の大記録を射程に捉えている。かねて特例での名球会入りを望む声が上がっていた中、今季あるレジェンドの記録を超えたことで、特例適用に障害がなくなったとみる向きが多くなっている。

 中村はチームの主砲だった山川穂高内野手(ソフトバンク)が抜けた今季、25試合に出場し、本塁打数はチームトップと不惑を迎えてもなお健在であることを示している。球界全体で本塁打が昨季比で約3割減るなどボールが飛ばなくなったとされるシーズンで、その影響をものともしない打棒だ。

 さる元NPB球団監督によると、低反発球が導入された2011年に48本塁打を放ち、2位だった松田宣浩(元ソフトバンク)の25本塁打に、ほぼ倍の大差をつけた当時を彷彿させるという。

「あのシーズンは、他球団で中村だけ違反バットを使っているのではないかと言われるほどで、中村自身もシーズン後に“自分だけで高反発球でした”と冗談めかしていました。本塁打量産の要因には、ボールの反発係数に左右されない右手の押し込みなどでスタンドに運ぶ高い技術があるのでしょうが、投高打低が進んだシーズンで生粋のホームランバッターの本領を発揮していました。年齢を重ねて衰えたとはいえ、今季のような展開は中村にとっては望むところでしょう」

 鉄人超えの次のターゲットは、大杉勝男(元ヤクルト)の通算486本塁打である。

「今の状態を見る限りは今季中に達成の可能性は十分にあります。達成すれば、来季中に大台(500本塁打)が現実味を帯びてくると思います」(同元監督)

2000安打より500本塁打に現実味

 その一方、2000安打までは210本も残っており、可能性はあるとはいえ、生涯打率が2割5分そこそこの中村には本塁打より難度が高そうだ。

「ホームランか三振かという打撃スタイルは変わることはないでしょう。近年は年齢的なもので、けがによる故障離脱が多く、今季以降もフルシーズンでの出場は望めないので、引退時にどちらの達成が現実的かと聞かれれば、2000安打ではなく500本塁打だと答えますね」(同)

 2000安打の達成者は過去55人だ。本塁打数のランキングでは、既に中村の上には9人しかいない。希少性の優劣は明らかで、しかも「野球の華」とされる特別な打撃部門の記録だけに、特例での名球会入りに異論は少ないだろう。

 これまで特例入会が認められたのは、ともに日米通算で「100勝、100ホールド、100セーブ」の上原浩治(元巨人など)と「245セーブ、164ホールド」の藤川球児(元阪神など)の元両投手のみだ。22年末の理事会で会員の4分の3の賛成を得て承認に至っている。

 この時の理事会では山本浩二氏から古田敦也氏に理事長が交代し、執行部は大幅に若返った。その新執行部の目玉が上原と藤川の特例適用だった。

投手への“特例適用”は積極的だが

「名球会の会員は打者に偏っており、投手の会員を増やしたい事情がありました。上原と藤川は現役時代に巨人、阪神という人気球団に所属し、知名度が抜群です。引退後の活動は解説者にとどまらず、SNSで積極的に発言するなどファンへの発信力は高いものがあります。ステータスに陰りが見える名球会の存在感を高めるためには最適な人材で、他にも特例適用に値する記録を持っている元選手はいましたが、“大人の事情”が絡んで選出を果たしたと言えます」(遊軍記者)

 名球会の入会条件は2000安打のほかは200勝と250セーブだ。メジャーを含めた日米合算でも条件は満たせる。現在は打者48人に対し、投手は17人で、依然「打高投低」の傾向にある。

 現役ではダルビッシュ有投手(パドレス)が200勝にあと1勝と王手をかけ、田中将大投手(楽天)があと3勝に迫っているものの、「特に200勝の難度は2000安打より高いとされています。今後も打者が続々と名球会入りするでしょうが、投手は分業制が確立された上、登板間隔は中6日が基本となり、登板数自体が一昔前より少なくなっただけに、200勝は難しくなっています。今後も投手には積極的に検討されていくであろう特例適用ですが、打者である中村に対しては微妙なところはあったでしょう」(前出の元監督)

“田淵超え”で障害なし?

 しかし、中村はここに来て大きなハードルを乗り越えたという。6日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)で昭和の元祖アーチスト、田淵幸一(元阪神など)の474本塁打を抜いたことがそれだ。

「それまでホームランランキングで中村の上にいたメンバーでは、田淵さんだけが(通算1532安打で)唯一、名球会入りの資格を得ていませんでした。ともに2000安打に届いていない状態で、中村が田淵さんの本塁数を下回っている限りは、中村の特例入会を認めると、田淵さんまで入れないと整合性が取れなくなります。記録で厳密に入会の規定を設定していた名球会で、過去に遡って入会を認めることは権威に関わることです。それが今季、中村が田淵さんのホームランを超えたことで障害がなくなりました。2000安打に届かず、ここまでホームランを量産する打者はそう簡単に現れてこないでしょう。そういう意味で中村以外に打者で特例を乱発する心配は要りません。中村に特例適用する素地は整ったと思っています」(同前)

 通算251勝の東尾修氏は昨年末の名球会のYouTubeチャンネルで、500本塁打達成を念頭に中村の特例入会について「あり得ますよ。お待ちしています。ウェルカム」と前向きな発言をした。500本塁打到達ならもちろん、未達で引退したとしても打者初の特例入会の資格は満たしたと思われるのだが……。

デイリー新潮編集部