ベビーカーに乗っている4歳の娘は彼女の方を見向きもしないが、エイミー・カーソンさんは全然気にも留めていない。娘のアイサちゃんを外で遊ばせた後、カーソンさんは車を使わずに歩くと決めていて、騒がしい生活からしばし離れるようにしている。この15分間の静かな散歩が大きな違いを生むのだ。

「外で遊んだ後のアイサには、こうした静かな時間が本当にいいんです」とカーソンさんは言う。「ベビーカーに深く体を預けて、まわりの景色が流れていくのを眺めている方が、車で移動した後よりも落ち着いています。車だと、ついお喋りをしたり音楽を聴いたりしますから」

 親なら誰しも、にぎやかな家庭生活の中では沈黙は金だ、と言うだろう。しかし、沈黙は子どもの心の健康にもいいという。

 静寂は、感情を引き起こす外からの刺激をやわらげる働きをもつ。言い換えれば、気が散る雑音がないと、子どもの脳は周囲の世界への理解をより深められる。

 実際に、複数の研究で、静寂は幸福感を与えるホルモンであるオキシトシンの量を増やす可能性が示されている。その結果、ストレスを減らし、思考の集中や整理、全体的な落ち着きが促され、脳が感情を制御する方法を学ぶという。

「子どもには、戦略的かつ安全に複雑な社会から距離を置き、一歩下がったところで、自分とは何者なのかという物語を描く機会が必要だ」と、米南カリフォルニア大学の教育・心理学・神経科学の教授メアリー・ヘレン・イモルディーノ・ヤン氏は言う。

 もちろん、子どもと沈黙は必ずしも相性がいいわけではない。米バージニア大学と米ハーバード大学の合同研究チームが発表した大学生に対する研究によれば、完全な静寂の中で15分間座っているより、むしろ軽い電気ショックを受ける人の方が多かった。

「生活は、とりわけ子どものいる生活は、さまざまな感情と動きに満ちています」と、屋外学習に力を入れた早期教育プログラム「ティンカーガーテン」の共同創始者で最高学習責任者であるメーガン・フィッツジェラルド氏は語る。「子ども相手の仕事をしたことがある人なら、じっとしてなさいとか、静かにしなさいとか言っても、しょせん無理な話だと分かっています」

 幸い、沈黙の効果を得るのに、子どもを部屋の隅に座らせて声も出さないように強いる必要はない。専門家によれば、パズルやお絵かきなどの静かな遊びを通して、静かな時間を作るのも効果があるという。

 同様に、ぼうっとした時間にも、子どもは思考を休められる。自然の音やハミングといった落ち着いた音に耳を傾けるのも、子どもを集中に向かわせる。

 要は、音の少ない場を作って、子どもの生活に毎日静かなひとときを取り入れることは、子どものメンタルヘルスにマルチビタミンを与えるようなものだ。

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