沿岸に生える海藻類が魚、貝類によって食べつくされてしまう「磯焼け」。生態系や漁獲量に与える影響を懸念し、水産会社のくぼたマリンファーム(佐原)では、原因の一つである大量繁殖したウニの商品化に取り組んでいる。「葉山ウニ」として売り出し、地域ブランドのの確立と漁業が抱える課題解決をめざす。

ウニが大量発生する主な原因は、気候変動による海水温の上昇。これによる繁殖で海洋環境の破壊につながると言われている。主にムラサキウニやアカウニがあたるが、身が痩せているため商品化が難しく、駆除・廃棄の手間やコストが各地の漁師らを悩ませている。

こうした状況に課題意識を持っていた同社代表の窪田千春さんは、湘南漁協葉山支所の協力で廃棄ウニの養殖事業に着手。沿岸部で集めた個体を洋上のいけすに沈め、餌を与えながら3カ月ほどかけて生育している。

餌にこだわり

ウニは餌によってその味が大きく変わると言われる。窪田さんはキャベツやかまぼこといった飼料の試行錯誤を重ね、最終的に真名瀬港で採れる規格外の昆布やワカメを独自の配合で与えることに。身が膨らみ、旨味の濃い個体の養殖に成功した。天然の餌にこだわり、添加物未使用の「葉山ウニ」としてブランド化。地域の名物として売り出していく構えで、今年8月の販売開始を目指す。

廃棄殻も活用

同社ではいわゆる「塩水ウニ」として個体の身部分をパッケージに詰め販売するが、生産の過程で発生する殻の廃棄法にも工夫する。

一つは殻を海中の水深15mほどの定点に沈める方法。バクテリアによる自然分解を促し、発生したプランクトンを食べる魚が多く集まることで人工の漁礁を形成する一助とする。そのほか、陸上で細かく砕き、ミネラル分を豊富に含んだ肥料として横須賀市内の農家に提供することで、資源を無駄にしないビジネスモデルを構築した。

歌手からの転身

窪田さんは福井県出身の64歳。六本木の飲食店などを中心にミュージシャンとして活動を43年間続けてきた。2022年の夏、ウニによる磯焼けと「キャベツウニ」に関する特集をテレビ番組で観た際、「自分も挑戦したい」と一念発起。自宅の水槽で研究を兼ねた生育を始め、昨年6月に横須賀に移住した。

相模湾沿岸にある9つの漁協に飛び込みで事業提案をするも、ほとんどの組合で門前払い。それでも粘り強く訪問を重ねた結果、同所がいけすでの作業を特別委託をしてくれることに。事業に賛同する漁師からも養殖に必要な器具や餌となる海藻の提供を受けた。

さらに、かながわ信用金庫粟田支店と日本政策金融公庫横浜支店が創業資金を協調融資。当初窪田さんは自宅など陸上での養殖を想定していたものの、事業コストが高額になるため、横須賀商工会議所の助言や漁港・漁師の協力で海面養殖の方式を採用した。販売当初は近隣の市場に卸売を行い、その後飲食店への直接販売や一般向けの通信販売も検討していく。窪田さんは「安心して食べられる”ほんもののウニ”を多くの人に届けられたら」と意気込む。