1ドル150円台半ばという記録的な円安水準が続く中、ネットでは「日本が貧しい国になった」と悲観する声が聞こえる。7日、経団連の十倉雅和会長は「いくらなんでも150円超えは安すぎるのではないか」と危機感をあらわにした。

【映像】「3万円がこれだけ…」ハワイ旅行を前に落胆する旅行客

 一方、業績を伸ばす業界もある。例えば自動車メーカーで、トヨタは営業利益が国内上場企業で初となる5兆円超えを記録している。そして、意外にも農業だ。日本農業は生産から販売までを一気通貫で展開し、海外への輸出に力を入れているが、2021年から2023年の輸出関連売上は約3倍(9億円→25.6億円)に増えた。

 日本の円安と“儲かる農業”について、『ABEMA Prime』で議論した。

■「日本のおいしさと効率性で国際競争力を担保できる」

 日本農業CEOの内藤祥平氏は、日本の農業はガラパゴスで、ブルーオーシャンだと見ている。「基盤にあるのは、日本はおいしいものを作っているということ。これまでどうしても割高感があったが、一気通貫で削れるところはしっかり削り、グローバルに供給できる安定的なロットを出すという改善を一つひとつしていった」と説明。

 主力商品はリンゴで、売上の8割を占める。「意外かもしれないが、リンゴは1年間貯蔵して売り続けられ、規模を出してビジネスを大きくしていくには非常に扱いやすい。実は、日本人はみんな知っている『ふじ』は、世界で一番作られている。いろいろおいしいものが出てきているので、国際競争力が非常にある品目だ」。他にも、シャインマスカットやイチゴなど、高品質な果実は海外で需要があるという。

 輸出先のターゲットは東南アジア。経済成長中の国が多く、今後も需要拡大が見込めること。トロピカルフルーツが主要な緯度の国ではリンゴは人気で、日本と同じような果実があることから、欧米より売り込みやすいということだ。

「需要が伸びていない国内だと、衰退産業のゲームになってしまう。規模が拡大しても、売り先がなければ単価が落ちてしまう。我々はアジアの新しい需要を開拓し、投資をして拡大していく。品質では一番おいしいものを作る人には勝てないけれども、日本のおいしさと効率性を融合させることで、国際競争力を担保できる」

■竹中平蔵氏「農業を成長産業にせよ」

 第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏は、今の円安は農業に「追い風にはなっていない」との見方を示す。「G7諸国の中で農産品・食料品の輸出が比較的少ないイギリスですら、GDP比の10%ぐらいだ。日本はまだ2%ぐらいで、やはり国内市場が中心。結局、肥料や電気料金の値上がりのほうが大きく、円安の恩恵を受けきれていないと思う」。

 逆に言えば可能性もあるとし、「オランダは国土面積も人口も九州ぐらいしかないが、農産品・食料品の輸出額はアメリカに次いで世界2位だ。巨大なプラント工場を作り、AIなども活用して、高生産性にしていることからすると、日本もできないことはないのではないか」との見方を示す。

 経済学者で慶応大学名助教授の竹中平蔵氏は、2008年に『農業を成長産業にせよ!』(ダイヤモンド・オンライン 2008年11月5日)と述べている。農業が弱いままでは「若者が流出→農村の高齢化」の悪循環が起こってしまうため、「小規模の家族型経営」から大規模に農業を展開する「起業家」の登場が必要だとしているが、その考えは今も変わらないという。

「これからますます原産地証明が必要になるし、輸出のインフラを作らなくてはいけない。新しいものを輸出するためには、地方で作ったものを新幹線で運んでそのまま飛行機で海外へ持っていくとか、貨物の部分も整備しなくてはならない。チャンスも必ずあるので、そういったことができるかどうかが重要だ」

 内藤氏は「日本が生み出したシャインマスカットもデコポンも、なんでも海外に流出しているのは悔しいことだ」としつつ、「1つ言えるのは、30年前も20年前も良いものを生み出し続けていること。ここから知財をちゃんと保護して輸出産業化に取り組めば、10年後20年後もまだまだチャンスはあるのではないか」と語った。

■農業参入要件の緩和必要?

 農地を所有できる「農地所有適格法人」には、以下の要件が必要となる。株式会社(未公開)・農事組合法人・持分会社、農業を主たる事業とする(売上の半分以上)、農業関係者が総議決権の半分以上、役員の半分以上が常時農業に従事、役員らが1人以上農作業に従事。永濱氏は「これらは変えていかないといけない」と、緩和の必要性を示す。

「海外並に日本が農産品を輸出するためには、ある程度の大企業が参入していかないと厳しい。農地の取得について、兵庫県養父市の特区で耕作放棄地の有効活用を行い成果が出たが、与党の慎重論で全国展開が延長されてしまっている。ここは本腰を入れていかないと、本当の意味での農業輸出国にはなれないと思う」

 内藤氏は、「アメリカのほうが水田が大きく効率化も進んでいるが、水不足で収量がグッと落ち、一昨年は生産原価が日本と同じ水準にまで上がっていた。日本の農地は過小評価されてしまっているが、拡大をしてどんどん世界に売っていきたい時、100%やりづらいということでもない。“農地の小さい人が悪、大きい人が善”ではなく、棲み分けて“ここは大きく外貨を稼ぎにいく”というバランスがとれればいい」と述べる。

 竹中氏は「今は為替の名目レートだけ見ているが、本当は実質実効為替レートを見なければいけない。驚くべきことに、過去30年で日本の通貨は60%減価しているわけだ。日本の経常収支は25兆円だが、貿易は赤字。また、デジタル収支の赤字も6兆円ぐらいあって、これからさらにGAFAに吸い取られていく。海外に勝てるような農業を作っていくためには、まさにIT化だ。養父市の例は、我々が提唱して安倍さんと菅さんが実現してくれたもの。これはやろうと思えば他の所でもできるので、ぜひ地元で声を上げ、首長さんが議会を説得して、チャレンジしてはいかがか」と推奨した。(『ABEMA Prime』より)