パレスチナを支援する学生デモが全米に広がる中、各地で警察が強制排除に乗り出した。逮捕者は1500人を超えたが学生らは反発を強めている。

【映像】デモを行う学生らと警察が激しく衝突

 なぜアメリカは犠牲を払ってまで支援を続けるのか? なぜデモはここまで急拡大したのか? アメリカ社会とイスラエルの関係について、アメリカ現代政治外交が専門の前嶋和弘教授に聞いた。

━━学生デモはなぜここまでエスカレートしているのか?

「イスラエルによる攻撃が全く終わらないからだ。イスラエルにテロを起こしたハマスの行為は許されないものだが、それを何十倍にもして、一般の人々がどんどん亡くなるような形で返す行為を許せないということ。大学生は基本的に、『理想とは何か、平和とは何か』を学んでいる中で『これは正義ではない』と立ち上がっているのだろう」

━━なぜ大学側は強硬なスタンスをとっているのか?

「アメリカの大学は州立大学もかなり寄付に支えられている。学生の要求は『イスラエルからの寄付はやめてくれ』というダイベストメント、つまり投資を切ることだ。アメリカの企業は子会社にイスラエルのものを持っていたり、寄付するところも例えば財団などでは、日本でいうインデックスファンドのように様々な企業を集めているため、イスラエル関連の寄付をなかなか抜くことが難しい。大学としては寄付を受け続けざるを得ないということになる。一方、南部にあるデューク大学は『イスラエル関係の寄付を全部切る』と決めている。しかし、全米の大学はそのような分かりやすい学校ばかりではないのだ」

━━なぜ大学側は対話に応じないのか?

「例えばコロンビア大学ではハミルトン・ホールという大学の建物に学生が入り込んで占拠しているため、対話をするためには大学側も大きな譲歩をしなければならない。先ほどの寄付の話もあるので難しい状況だ。とはいえ、『大学』といってもひとつではなく、対話をさせようとしている教員側もいる。教員らが手をつないで警察が入ってくるのを阻止しようとした動きもあった。実は大学も完全にコントロールできておらず、経営側のトップと教員側で考えが異なる。『大学を守るためにどうすればよいのか? 経営側の見方もわからないわけではないがまずは学生を守り、対話をさせるべきだ』と。一方、長引くほど学生も過激化している部分もある。ニューヨークの警察は『プロのアジテーター(扇動者)が入っている』と話しており、真偽はわからないものの、もし本当であればなかなか問題は難しくなっていると思う」

━━学生との衝突はアメリカ国内でどのように伝えられ、受け止められているのか?

「トップニュースであり、非常に関心を集めている。この状況に立ち向かう学生を応援する意味もあり、警察が強行に学生を排除する動きに対して『これはまずい』という報道もある。一方で、『この学生の運動にシンパシーを持つことはイスラエル、そしてユダヤ人に対する偏見だ』と考える人たちもいる。アメリカにおいてユダヤ人は人口の2%程度だが、ユダヤ人に対してシンパシーを持ってる人たちは多い。キリスト教を熱心に信じている福音派は旧約聖書を読み『パレスチナの地はユダヤ人が持つべき』と解釈し、学生の強制排除に対して『よくやった』と溜飲を下げている人もいるのだ」

━━企業、そして政治の世界においてもアメリカ社会とイスラエル、ユダヤ人との結びつきは強いのか?

「ユダヤ人の人口は少ないが、ビジネスエリートや大学教員も多い。さらに、彼らを支えるキリスト教福音派の人々は自己申告で人口の20%〜25%ほどいる。その上、イスラエルという国家を承認したのもアメリカであり、その後も武器の支援も続けてきた。基本的にアメリカの武器支援先のトップはイスラエルだ。“イスラエルの問題はアメリカの国内問題”であり、我々が思ってる以上にアメリカ人のイスラエル支持はなかなか揺らがない」

━━ロシアのウクライナ侵攻とガザの虐殺、これに対するアメリカの対応は真逆に見えるが?

「本当に矛盾している。法を破ってロシアがウクライナに侵入した際、アメリカは激しく反発したわけだが、今回はハマスがイスラエルを攻撃したことが問題だとしても、イスラエルが何十倍にもしてやり返したことに対して本来ならばアメリカはイスラエルを止める立場のはずだ。だが、カッコ付きではあるが、“イスラエルはアメリカの国内問題”であり、キリスト教国家であるアメリカにとってみれば、イスラエルは中東の中で最も自分たちと同じ考え方を持ってる国であり、我々が考えている以上に強いシンパシーを持っている」

(『ABEMAヒルズ』より)