10組いれば、20人の思いがこめられているであろう夫婦関係。夫婦は必ずしも一枚岩ではないし、常に意見が一致していればいいというわけでもない。違いをわかり合いつつうまくやっている夫婦もいるだろう。だが、一方が一方にすべて「決めつける」ような発言をしているなら、やはりうまくはいかないはずだ。

■強権発動するわけではないけれど
独身時代は、おっとりしてどこか浮世離れした感のある彼がおもしろかったと、マミさん(38歳)は言う。だが結婚して6年、その印象は「家族と向き合わない人」に変わった。

「共働きだし、それぞれの世界を大事にしながら、ふたりの生活も楽しむ。そんなことを話して結婚したんです。でも結婚してみたら、彼には『一緒に家庭を作っていく』気持ちが抜けていると気づきました」

家事をやらないわけではないのだが、たとえば夫がマミさんの留守中に掃除をしたとしても、それを伝えてくれないのだという。洗濯や料理は見た目でわかるが、掃除機をかけたかどうか、トイレ掃除をしたかどうかは一見しただけではわかりづらいこともある。

■夫との会話に感じる違和感の正体
「お互いに義務感を覚えるのは嫌なので、当番制にはしていないんです。だから夫が掃除機をかけたあと、私がまたかけてしまうこともあって……。言ってよと伝えてあるんですが、伝えてくれない。たいしたことじゃないけど、なんだかモヤッとすることが多々ありました」

それは会話をしているときも、ときどき感じていた。結婚当初、この先、妊娠することも考えてマミさんは歯の治療を続けていたのだが、彼女が歯のことを話すたび、夫は自分の歯の話や、審美治療をしてかえって健康を損ねた人の話を始める。

どうしていちいち、歯の治療をディスるようなことを言うのかと聞くと、夫は目を丸くしている。まったくそういう意図はないらしい。

「つまり、“歯”というイメージから自分が思いつくことを話すだけなんですよ。私の歯の治療に興味があるわけでもないし、話を発展させようと考えているわけでもない。頭に浮かんだ歯にまつわる別の話をしているだけ。一見、会話が成立しているように見えるけど、実はまったく成立していないパターンですね」

それは子どもが産まれてから、より強く感じるようになった夫への違和感だ。

■「こいつ、発達障害だよ」と軽く言う夫
現在、ふたりの間に産まれた長男は4歳になる。落ち着きがなかったり、なかなか話を理解できなかったりと、「このままでいいのかな」と思うことが多々あり、マミさんはかかりつけの医者によく相談している。3歳になったころ大学病院で診断を仰いだこともあるが、今のところ心配はいらないと言われたそうだ。

「活発でやんちゃだけど、保育園では特に問題行動があるわけでもないようです。なんとなく息子の反応に違和感を覚えることはあるんですが、今後も細かく観察していこうと思っています」

夫にも逐一、報告はしていたが、あるときボール遊びで夫が思っているようなリアクションをしなかった息子に対し、夫は「こいつ、発達障害だよ」と軽く言った。

「ちょっと待ってよと思いました。医師の判断がくだったのならともかく、父親が軽く言うようなことじゃないでしょ、と。発達障害なら、それはそれで受け止めて対処していくしかない。ただ、判断されてもいないのに、息子の性格を『やんちゃなヤツだな』というのと同じように発達障害だよと決めつけるのはどうかな、と。

そう言ったら夫は『ダメなの?』って。ダメとかそういう話じゃないんですが、ある意味でレッテルを貼るような言葉はどうなのかなと思うよと言ったら、ふうんと不思議そうな顔をしていました」

息子が理解できるわけでもないだろうし、別に言ってもいいじゃん、自分の子なんだからと夫は言った。息子だって人格をもったひとりの人間、親であろうがそういうことは決めつけてはいけないと思うとマミさんは伝えた。

「『マミは僕の言動をいつもいけないって言う』と夫はふてくされていました。うーん、どう言ったらわかってもらえるんだろうと私は、さらにモヤモヤしてしまって。夫の両親はごく普通の親切な人たちなんですよ。だから義両親にも相談したんですが、『あの子はどうも人の気持ちを考えないところがあって』とすまなそうに言われました。

でも夫は、会社ではそれなりに仕事をしているようだし同僚や先輩からもけっこう頼られている。悪意ある発言をするわけでもない。こんな夫にモヤモヤしているのは私が狭量だからなのか、あるいは私のほうがおかしいのか、と常に考えてしまうんです」

■友人からも指摘される「ちょっと変わった」夫
マミさんの学生時代からの親友は、ときどき遊びに来て夫にも会っている。その親友がつい先日、「今さら言うのも何だけど、マミのダンナさん、ちょっと変わってるよね」と言った。自分だけが感じているわけではないのだと、胸をなで下ろすような気持ちになったそうだ。

「この人がいなければ、息子とふたりでもうちょっと居心地のいい場所を作れるのではないかと思う半面、今後、息子にとって父親がもっと必要になるかもと思ったり。

でも息子の心をすくい取れるような人ではないから、いないほうが害にならないかもとか、結構夫排除の方向にいっている自分がいます。そう考える自分に嫌悪感もあって……。なんだかすっきりしない日々です」

マミさんはそう言って、どんよりした表情で下を向いた。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(フリーライター)