無傷5連勝で防御率メジャーNo.1に…かつて取材した記者が感じる「メタ認知」の高さ

 米大リーグのカブス・今永昇太投手が1日(日本時間2日)、敵地メッツ戦で7回3安打無失点、7奪三振の快投を演じ、無傷のデビュー5連勝を飾った。防御率0.78でMLB全体トップに浮上。これまでメジャーの壁に跳ね返された選手は少なくないが、高校、大学、NPBとステージが上がっても活躍し続けられる理由は何か。今永の大学時代をはじめ、多くのアスリートを取材してきた編集部記者は、技術だけではない“伸びるアスリート”の内面に共通項を見出した。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 今永昇太は「投げる哲学者」と呼ばれる。

 DeNA入団1年目から「援護がないという言い訳は防御率0点台の投手だけが言える」など数々の名言を残し、その異名が次第に定着。しかし、メディアが多用しやすいキャッチーなフレーズの本質をひも解くと、今永を他の選手と最も隔てるものは、思考の客観性にあると思う。最近の言葉で言えば、メタ認知だ。

 大学時代に初めて彼を取材して以来、感じていたのは、自分を“もう一人の自分”が俯瞰しているような語り口と考え方。

 DeNAに入団当初、投手陣がバント練習をする打撃ゲージで一人、なぜか投球をカットする練習を繰り返していた。理由を聞くと明快。「僕が投手の立場として、相手の投手に打席で一番やられたら嫌なのが、ファウルで球数が増えること。だから、練習しています」

 お立ち台で「最高です!」と判で押したようなセリフを使う選手が少なくないが、今永はとにかく印象的なフレーズが多い。「僕が野球を見る立場では、選手の言葉が『うれしい』『悔しい』だけじゃ選手に興味が持てない。だから、言葉に温度をつけたいんです」

 その思考は、競技力を伸ばすという視点にも置き換えられる。

 全国的には無名の北筑高(福岡)出身。強豪・駒大を経て、ドラフト1位でプロ入り、そしてメジャーへ。カテゴリーが上がるごとに、武器としていたスペックだけでは通用しなくなる。多くのアスリートはそれを「壁」と表現し、乗り越えられた者だけが生き残り、そうでない者が去っていくがスポーツの常。

 今永は高校1年生の頃の自分を「ただ左で投げるだけの投手」と言った。そこから、その時その時の組織やステージで自分の何が通用し、何が足りないのか。生き残るために何が求められるのか。“もう一人の自分”が自分を分析し、戦略を立てる。その能力が人一倍高いから、キャリアを切り開くことができた。

 メジャーでも空振りが取れる回転率の高いストレートなどの技術、それを支えるフィジカルの進化はもちろんのこと、特有の思考がカテゴリーごとに立ちはだかる壁を乗り越えられる理由とも無関係ではない。

カブス入団会見の第一声で引用した球団応援歌

 それは、筆者がこれまで取材してきた“伸びるアスリート”の共通項にも感じる。

 今永と同じ時期、東都大学と同じ神宮を拠点とする東京六大学で取材した高梨雄平(当時早大)はプロ入りを狙った社会人野球で戦力外寸前、「自分がここからプロに入る唯一の方法」を計算し、球界で希少な左のサイドスローにドラフト半年前で転向。今や巨人に欠かせぬ中継ぎとして1億円プレーヤーに。

 実際にインタビューした選手でも、スピードスケートの小平奈緒、ラグビーの稲垣啓太ら、一流と言われ、特に言葉に力を持つアスリートにも似た感性を感じた。

 1月に行われたカブスの入団会見。今永は第一声、球団の応援歌「Go Cubs go」の歌詞を引用して「Hey, Chicago!」と呼びかけ、喝采を受けた。これも新入りの日本人が、アメリカの記者やファンにどう振る舞えば喜ばれるか、客観視してのものだろう。会社員になっても間違いなく出世していたと思う。

 もちろん、ファンが一番喜ぶのはピッチングで勝利をもたらし続けること。新人王、そして投手のさまざまなタイトル獲得を期待したくなる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)