(29日、プロ野球 東京ヤクルトスワローズ9―0読売ジャイアンツ)

 昨季に続き、今季も前日までチーム防御率最下位のヤクルトにとっては救世主。このベネズエラ生まれの右腕ミゲル・ヤフーレがいなかったら、と思うとぞっとする。リーグトップの4勝目を、「マダックス」と呼ばれる100球未満(94球)での完封で飾った。味方の大量点に守られて、完投も完封も来日初だ。ここ2試合連続で救援陣が打たれ、逆転での1点差負けを喫していただけに、その価値は高い。

 大リーグ・ブレーブスなどで活躍したマダックスを子供の頃から見ていた、という。「そんな投手の名前のつく記録を達成できたのはうれしい。初めての経験です」と素直に喜んだ。

 カットボール、チェンジアップ、ツーシーム、スプリット……。球種が多いのが特長だ。いずれも低めへ配してゴロの山を築く。前回のDeNA戦(21日)は、その制球が乱れて二回途中でKOされた。「前回は先頭打者の度会(隆輝)に死球を与えたことで足を気にして集中力を欠き、ストライクゾーンを見失っていた。今日はゾーンを攻めていけた」。「敗因」の冷静な分析力と修正力が光る。

 子供のような笑顔と赤いほっぺから、伊藤智仁投手コーチがつけたあだ名が某菓子メーカーのマスコット「ペコちゃん」。本人も気に入っているようで、この日のヒーローインタビューでは自ら日本語で「ペコちゃんです。がんばります」とあいさつした。

 高津監督の評価もずっと高い。「日本の野球をしっかり理解しようとしている。まじめで常に明るく、ポジティブ」。その点では攻撃で力みなぎるホセ・オスナやドミンゴ・サンタナとも共通するところだという。

 日本で明るくプレーできる理由をヤフーレはこう語ったことがある。「大リーグでは失敗するとすぐにマイナー行きが頭をよぎった。日本でも2軍落ちはあるかもしれないけれど、米国時代ほどの心配はないから」

 大リーグでは2020年にヤンキースでデビューしたものの、その後のパイレーツと合わせて19試合に登板し、わずかに1勝。昨季はジャイアンツ傘下の3Aなどでプレーした。スカウトした奥村政之・国際グループ担当部長は契約締結時に「球種も豊富でクイックモーションでもできる。日本の野球に早く対応できそう」と話していた。今のところ、その予想を上回る活躍と言えるかもしれない。

 5月1日に26歳になる。その直前に自らを祝う快投だった。(堀川貴弘)