9日告示、26日投開票の静岡県知事選で、自民党本部は7日、県連が推薦を上申していた元副知事の大村慎一氏(60)を推薦する方針を固めた。立憲民主、国民民主両党が推薦する前浜松市長の鈴木康友氏(66)、共産党公認で同党県委員長の森大介氏(55)による与野党対決が鮮明になった。新顔3氏はリニア中央新幹線や浜松市の新県営野球場などへの姿勢を主な争点に、新しい県政の進め方を有権者に問う。

 「どうせ与野党対決と言われる。むしろ党本部推薦で、県連の隅々まで引き締まる」

 自民党本部が大村氏推薦を内定した7日、県連幹部はこう話した。告示を直前に城内実会長(衆院議員〈静岡7区〉)が党幹部に強く働きかけ、推薦を引き出したという。党は8日に正式に決定する方針だ。

 党内には当初、「与野党対決」への慎重な空気が流れ、県連内には「推薦は出さないほうがいい」との声が漏れ出ていた。派閥の裏金事件の影響で4月28日投開票の衆院補選は不戦敗を含めて3選挙区で全敗し、知事選で敗退すれば、岸田政権にはさらなる痛手になるからだ。

 加えて、県内では裏金事件で塩谷立衆院議員(比例東海)が離党、女性問題で宮沢博行衆院議員(同)が議員辞職した。県連内には知事選に向けて「大打撃」との声も出た。

 流れが変わったのは、大村氏の知名度が県内に浸透し始めたためだ。前浜松市長として知名度が高い鈴木氏とは当初の情勢分析では10ポイントほど支持が離れていたが、着実に縮まっていた。

 6日、静岡市で開かれた上川陽子外相(衆院議員〈静岡1区〉)の後援会が開いた集会では、大村氏があいさつに立ち、約1300人に支援を呼びかけた。党所属の国会議員や県議、静岡市議のほか、大村氏の擁立に動いた財界人も勢ぞろいした。

 「告示日あたりには追いつけるんじゃないか。あとは党本部が推薦を決断するかどうかだ」

 県連役員は自信をのぞかせ始めていた。(大海英史)

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 7日、鈴木氏の姿は東部・伊豆地域にあった。相次いで市町長を訪ねては、産業振興や防災の考えを説明し、支援を訴えた。

 鈴木氏は浜松市など西部地域が地盤だ。3日に3氏が訪れた浜松まつりの会場では、浜松市内の無職男性(83)が取材に「市政に尽くしてくれた」、自営業男性(64)が「康友氏に入れる」と答えるなど、鈴木氏支持の声が多かった。さらに、推薦する連合静岡の加盟労働組合を回り、組織票を固める。

 大村氏は出身地の静岡市など中部地域を地盤にしており、地域的には東部・伊豆での支持拡大が勝敗の分かれ目になり得るとの見方が強い。

 そこへ自民が大村氏推薦の方針を固めた。鈴木氏の選対幹部は「政党間(の争い)の色合いを帯びてきた。こちらのプラスになるかどうか。裏金問題をはじめ自民への批評を加えていかざるを得ない」と話す。

 一方、森氏はリニア中止と浜岡原発再稼働の反対を訴えている。川勝平太知事(75)の辞職でリニア着工や原発再稼働に不安を抱く民意をすくい上げるねらいだ。

 2日に静岡市内で開かれた公開討論会では「南南アルプスの自然環境と大井川流域の命の水を守ることを優先すべき」と述べ、独自色を鮮明にした。(田中美保、青山祥子)

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 静岡市在住で自営業の村上猛氏(73)と浜松市出身で会社社長の浜中都己(さとみ)氏(62)が7日、県庁でそれぞれ記者会見し、知事選に立候補すると表明した。ともに無所属。政治団体代表の横山正文氏(56)に加え、立候補予定者は6人となった。

 村上氏は会見で、リニア中央新幹線について「国のためになっているのか、根本から事業を精査したい」と述べた。

 浜中氏は「憲法に規定されている請願権を活用して、県民の要望に応える県政をつくりたい」と語った。(田中美保)