WEC世界耐久選手権のハイパーカークラスに参戦するTOYOTA GAZOO Racingのテクニカルディレクター、デビッド・フローリーは、第2戦イモラのドライコンディションでフェラーリ499Pが示したペースを考慮すると、レースでの勝利に「過度に興奮」するべきではないと語っている。

 マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリースのトヨタ7号車チームは、4月21日にイタリアのイモラ・サーキットで開催されたシーズン第2戦の6時間レースで、雨によるチャンスを最大限に活かして戦略的優位に立ち、レース前には難しいと思われていた勝利をつかみ取った。

 フェラーリは残り2時間ほどのところ雨が降り出すまで、ホームレースでの勝利に近づいているように見えたが、ウエットタイヤへの交換がトヨタGR010ハイブリッドの2台よりも4周遅れたことで、逆転を許すこととなった。

 その後トップに立った可夢偉は、再びスリックタイヤを履いた最後の1時間、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの6号車ポルシェ963のケビン・エストーレを相手にバトルを展開し、燃料をセーブしながら辛くも勝利を収めた。

「我々は最速の存在ではなかったがレースに勝てたので、戦略やチームの実行という点では、楽しいものだった」とフローリーは振り返る。

「我々は(戦略に関して)自分たちの仕事を果たし、チームは完璧に実行した。可夢偉はレース終盤でも見事にトップを維持した」

「過度に興奮するべきではないと思う。なぜなら、純粋なペースではなく、戦略上の判断によって決まったレースだからだ。純粋なペースと最速ラップタイムを見ると、フェラーリはまだ我々よりもコンマ4秒速い。これは、我々が満足できることではない」

 素の速さだけでなく、フェラーリは499Pの最初のシーズンとなった昨年に大きな弱点のひとつであったタイヤ摩耗の問題を克服したように見えた、とフローリーは指摘する。

 これはイモラでのレース序盤に見られた光景で、ファクトリーのフェラーリ2台がミシュランタイヤをトリプルスティント(3スティント連続使用)したのに対し、トヨタは2回目のストップで両車の右側のタイヤを交換し、次のストップで左側のタイヤを交換することを選択した。

「(タイヤの摩耗という点では)我々はポルシェよりも少し優れていたと思うが、この面ではフェラーリは非常に強かった」とフローリー。

「私が思うに、彼ら(フェラーリ)は、戦略以外の部分ではすべてで強かった!」

「一般に、タイヤのデグラデーションは、我々皆が最適化しようとトライしているものだ。驚きだったのは、フェラーリがこの面ではかなり強そうに見えたことだ。ポルシェもそれほど劇的ではなかったと思うが、我々よりは少し優れていた」

「レース序盤でリスクを負いたくなかったので、(タイヤの使用スティントを)引き延ばして使うことはしなかった。だけど、明らかに、右側タイヤのトリプルスティントは、簡単に達成できるものではないと思う」

■「BMWはトップスピードが優れている」とフローリー

 レースの最終ラップとなった205周目には、アントニオ・フォコの50号車フェラーリがトヨタ勢の2台目、ブレンドン・ハートレーの8号車をパスし、フェラーリ499P勢最上位となる4位を奪った。

 セバスチャン・ブエミ、平川亮とともに8号車をシェアするハートレーはレース後、トラックが再び乾き、スリックタイヤを履いた最終スティント中にコースアウトする瞬間が2度あったにもかかわらず、フォコを寄せ付けないようにするために自分にできることはほとんどなかったと感じたと語った。トップの可夢偉と同様に、燃料スプラッシュのための追加のピットストップを避けるため、積極的な燃料セーブを行っていたからだ。

「フォコは最終ラップで25km/h以上のペースで来ていた」とハートレーは語った。

「もしかしたらもっとうまくできたかもしれない。僕はすでに(タンブレロで、燃料セーブのために)アクセルを戻していたし、どこか別の場所でセーブすることもできたかもしれないが、彼は1周あたり1.5秒の違いで僕に迫ってきた。 最終コーナーでは、トラフィックもあった」

「それは僕にとって最高の瞬間ではなかった。だけど、僕のスティントは悪くなかったと思う。そして最後に多くのエネルギーを節約する必要が生じた」

 レース序盤ではブエミが20号車BMW MハイブリッドV8の後ろでスタックして姉妹車に差を付けられる場面もあったが、2時間目のピットストップで一気に前に出た。

 トヨタはブエミがBMWを追い抜こうとして危険を冒すことを望まなかったとフローリーは述べ、追い越すチャンスはほとんどなかったと語った。

「BMWは我々よりトップスピードが優れていた」とフローリー。

「フェラーリについては話したくない。彼らは別の惑星にいるが、我々としては前に出ようとトライした。ただ、コース上では愚かなリスクを冒さない限り、それは不可能だった」

「それは、我々がここでやりたいことではない。我々はチャンピオンシップを勝ち取るためにここにいる。そしてチャンピオンシップに勝つためには一貫性を保ち、ミスをしない必要がある」