“ル・マン前哨戦”にも位置付けられるWEC世界耐久選手権のスパ・フランコルシャン戦の走行が、5月9日(木)から開始される。前戦イモラから3週間という短いインターバルで開催される2024シーズン第3戦は、エントリーの変更など、戦前から注目点の多いイベントとなっている。

 ベルギーの山間に位置するスパ・フランコルシャンは、急変しやすい“スパ・ウェザー”でもおなじみ。イモラでは天候が大きなファクターとなったことも記憶に新しいが、今回はどんなレースが展開されるのだろうか。

 そんな走行前日、水曜日のパドックから各種トピックスをお届けする。

■ハイパーカー5台がドライバー2名体制で参戦

 今週末のスパ・フランコルシャン6時間レースには合計37台がエントリーしているが、そのリストは先月のイモラでの第2戦から多くの変更が加えられた。

 19台のハイパーカーのうち5台が、ドライバー2名のみでレースに挑む。キャデラック・レーシングの2号車キャデラックVシリーズ.R、プジョー・トタルエナジーズの2台のプジョー9X8、ハーツ・チーム・JOTAの12号車ポルシェ963、そしてプロトン・コンペティションの99号車ポルシェ963という5台だ。

 WECのトップクラスにおいて、複数のチームがドライバー2名体制で走行するのは、2018年のシルバーストン6時間レース以来だ。このとき、レベリオン・レーシングの1号車(アンドレ・ロッテラー/ニール・ジャニ)、SMPレーシングの17号車(ステファン・サラザン/イゴール・オルジェフ)、バイコレス(オリバー・ウェブ/レネ・ビンダー)が、いずれも2名体制で出場した。

 このシルバーストンに続く富士スピードウェイでのレースでは、ドラゴンスピードがジェームス・アレンとベン・ハンリーのふたりで参戦した。このレース以降、前戦の2024年第2戦イモラまで、トップクラスのチームが2名のみでエントリーすることはなかった。

 なお、今回2名体制を採るチームのうちプジョーの2台はフォーミュラE・ベルリン大会との日程重複の影響を受けている。他にも、フォーミュラEを欠場してWECに参戦するドライバーも多くいることから、来季のカレンダーに日程重複がないようにすることについて、WECとフォーミュラEの代表者の間で協議が行われたことが分かっている。

■プジョーがリザーブを起用しない理由

 プジョーのテクニカルディレクター、オリビエ・ジャンソニーは、ジャン・エリック・ベルニュとストフェル・バンドーンを欠く中、リザーブドライバーのマルテ・ヤコブセンに9X8でのレースデビューの機会を与えないというプジョーの決定は、ル・マン24時間レースの準備に関係していると語った。

「我々は、我々のクルーの安定を求めており、ル・マンに向けドライバーたちの運転時間を最大限に確保したいと考えている。我々はテストでマルテに走行時間を与えており、それはすべて非常にポジティブなものだった。しかし現在はル・マンに向けて本格的に準備を進めており、たとえドライバーがふたりだけだったとしても、こういった繰り返しができることは我々にとって良いことだ」

 ヤコブセン自身は、プジョーの決定を理解していると述べている。このデンマーク人ドライバーは次のように語った。

「僕はレーシングドライバーであり、結局のところ、ステアリングホイールを両手で握ってレースカーに座っていたいと思っているけれど、(イモラでアップデートが投入された)新しいクルマでチームの環境を維持すること、そして最善を尽くしてル・マンへの準備をすることの重要性は理解している」

 1台のクルマあたりふたりのドライバーだけを走らせることがパフォーマンス上の利点をもたらすかどうかについて、ジャンソニーは次のように答えている。

「フリープラクティスでは、やりやすくなると予想している。運転時間を(3名体制時よりは)シェアする必要性がなくなるから、セットアップにより時間を割くことができる。ただし、レースでは実際のスティント数による。6スティントなら簡単だが、7スティントとなると頭を悩ませ、どうやってそれを実現するか検討する必要がある」

 なお、新たにステランティス・モータースポーツのジュニアドライバーに就任したニコ・ピノは、ユナイテッド・オートスポーツチームからLMGT3に参戦しているが、今年後半に9X8をテストする選択肢が生まれる可能性がある、とジャンソニーは認めた。

「現時点ではそのような計画はないが、すべてはオープンだ」とジャンソニー。

「我々にはテストの機会があるし、(バーレーンで)ルーキーテストもある」

 ピノは、月曜日に予定されているフォーミュラEルーキーテストのため、ベルリンに向かう5名のWECドライバーのうちの1人である。マセラティMSGに加わるピノは、ユナイテッド・オートスポーツの同僚であるグレゴワール・ソーシー(マクラーレン)のほか、BMWペアのシェルドン・ファン・デル・リンデ(ジャガー)とドリス・ファントール(エンビジョン)、AFコルセのロバート・シュワルツマン(DSペンスキー)と、コースを共有することになる。

■ボグスラフスキーが高熱で欠場

 アンドレア・カルダレッリ(ランボルギーニ・アイアン・リンクス)と宮田莉朋(アコーディスASPチーム)は、それぞれエドアルド・モルタラとケルビン・ファン・デル・リンデの代役として、昨年の富士6時間レース以来のWEC出場を迎える。

 また、水曜の夜になり、アコーディスASPの78号車レクサスRC F GT3での宮田のチームメイト、ティムール・ボグスラフスキーが体調不良であるとして、チームからドライバーの変更申請がなされていることが、審査委員会のレポートにより明らかとなった。

 このレポートによれば、シルバードライバーのボグスラフスキーは火曜から体調が優れず、「高熱があり、非常に衰弱している」とチームマネジャーが報告したという。参加受付後のドライバー変更申請となるが、スチュワードはこの件について不可抗力によるものであると判断し、参戦手続き等を順守することを条件に、クレメンス・シュミットへのエントリー変更を認めるとしている。

 33歳のオーストリア人であるシュミットは、GTワールドチャレンジ・ヨーロッパやADAC GTマスターズ、DTMドイツ・ツーリングカー選手権などのシリーズで、長い間GT3マシンをドライブしてきた。

 彼は2022年からDTMの常連となっており、今季はドール・モータースポーツのマクラーレン720S GT3 Evoでレースに出場する。

■第3戦後に再びスパを走るトヨタ

 トヨタGAZOO Racingは今週末、スパにおけるWEC8連勝を目指しており、その連勝は2017年から始まったものだ。トヨタ以外のメーカーがベルギーのサーキットで総合優勝したのは、2016年のアウディにまで遡る。

 また、トヨタのハイパーカープロジェクトリーダー、ジョン・リッチェンスは、ケルンを拠点とするチームが来月のル・マン24時間レースに先立ち、恒例の『シェイクダウン』のためにスパに戻ることを認めた。

 このブランドはここ数カ月でモーターランド・アラゴン、ポール・リカール、ポルティマオでの耐久テストをすでに完了しており、シリーズ最大のレースの前に他の走行計画はない。

■負傷したハプスブルク、ル・マンでの復帰を目指す

 第2戦イモラに続き、今回の第3戦スパも欠場中のアルピーヌA424のドライバー、フェルディナンド・ハプスブルクは、来月のル・マン24時間レースでの復帰を目指し、テストで負った怪我からの回復状況をソーシャルメディアに投稿した。

 その動画の中で彼はこう語った。「今週末、アルピーヌとともにスパに参加しないのはとても奇妙だ。僕の心は彼ら、そしてチームメイトのポール・ループ(・シャタン)とシャルル(・ミレッシ)、そしてもちろんジュール(ハプスブルクの代役、ジュール・グーノン)とともにある。レーシングカーに戻る機会があれば、クラッシュ前よりも100パーセント良くなるようにと努めている」。

■ウイングフット・アワード/ル・マン出場の星野敏に“特別許可”/帰ってきたブランドル

 TFスポーツのコルベットZ06 GT3.Rを駆るセバスチャン・バウドは、前戦イモラでのLMGT3クラスにおけるダブルスティントでの最速アベレージを記録したことにより、『グッドイヤー・ウイングフット・アワード』を受賞した。

 第4戦ル・マン24時間レースに参戦することがすでに発表されているDステーション・レーシングの星野敏は、777号車アストンマーティン・バンテージGT3のコクピットでの無線通信に日本語の通訳を使用する特別な許可が与えられた。

 これは、開幕前に同様の申請を行った小泉洋史(TFスポーツ)、木村武史(アコーディスASPチーム)が与えられた許可と同じものだ。WECの規定では、すべてのコミュニケーションは英語で行わなければならないと定められているが、彼ら3チームはWECコミッティーにリクエストのうえ、これを免除される決定を受けている。

 アレックス・ブランドルが、ユーロスポーツの放送チームの一員として、今週末WECのパドックに戻ってくる。この英国人ドライバーが最後にシリーズに出場したのは2022年のことで、このときはLMP2のインターユーロポル・コンペティションから出走していた。

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 WEC第3戦スパ走行初日となる5月9日木曜日には、11時30分(日本時間18時30分)からの90分と、17時30分(日本時間翌0時30分)からの90分、2回のフリープラクティスが行われる。