田宮、開幕スタメン当確記事に心躍る

 2024年プロ野球開幕だ。今、海浜幕張駅前、プレナ幕張のサンマルクカフェにてこれを書いている。気が逸(はや)ってしょうがないのだ。プロ野球のお正月だ。新庄監督の3年目シーズンだ。一年の計は開幕戦にあり。家にいても落ち着かないので、めちゃくちゃ早く現地入りしてしまった。で、こうして野球コラムを書き始めてしまった。現時点ではスタメンも発表されてないし、書き始めてしまっていいわけがないのだが、自分が抑えられない。まぁ、コラム後半はフツーに観戦後のレビューを載せるので、前半はプレビューにお付き合いいただきたい。
 
 ていうか、田宮裕涼はスタメンだろうかどうだろうか。新庄監督の選手起用はどうなっているだろう。もうあと2時間もすれば情報公開されるのだから、ここで「だろうかどうだろうか」言ってる意味はないのだが、いやー、言わせてくださいよ。この開幕戦は伊藤大海のピッチングも楽しみだし、野村佑希のロッテキラーぶり、新外国人スティーブンソン、レイエスの適応力なども楽しみなのだが、ある意味、いちばん気になってるのが田宮裕涼の「開幕スタメンマスク」なのだ。こんな早い時間に海浜幕張まで飛んできてしまった理由の6、7割は「田宮を思ってそわそわ」じゃないかと自己分析している。
 
 田宮裕涼は6年目の23歳、花の甲子園組が話題をさらった2018年ドラフトの6位指名だ。吉田輝星、野村佑希、万波中正、柿木蓮と人気者が揃ったなか、ただひとり無名の高卒ルーキーだった。最初、僕は田宮が肩身の狭い思いをするんじゃないかと心配したのだ。
 
 新人合同自主トレの光景。甲子園組には輝星を中心にメディアが殺到している。田宮のところにはほとんど誰も寄りつかない。そんな感じが2、3年は続いたろうか。妬んだり、ひねくれてしまってもおかしくない状況(とにかく輝星フィーバーはすごかった)だったと思う。だけど、田宮はまっすぐ伸びていった。性格が明るく、ひたむきだ。また同期がみんないいヤツで、仲が良かった。甲子園組かどうかなんて誰も気にしていない。
 
 鎌ケ谷の青春。輝星がオリックスにトレードされ、万波&野村が主力打者に育ち、柿木が育成から再チャレンジというなかでも、同期の絆は変わらない。
 
 田宮は入団時から女性ファンに人気があった。童顔でかわいい。そしてマジメさが立ち居振る舞いにあらわれる。僕のようなおじさんも田宮の鉄砲肩に注目した。素晴らしい強肩捕手だ。ただスローイングがいいだけじゃなく、捕ってからが早い。左打者なので、持ち前の俊足も生かせそうだ。面白いワカゾーだなぁと、鎌スタへ行くたびに定点観測的にウォッチした。
 
 で、田宮裕涼は「鎌スタドリーム」になったのだ。鎌ケ谷のファンは老いも若きも田宮が大好きだった。1軍にコールアップされて、手を叩いて喜んだ。いつしかその強肩は下の名前を取って「裕涼ビーム」と名づけられた。ノートを取りながらコーチ&投手の話を聞く熱心さが評判となり、バッティングの良さも相まって信頼を築いてゆく。そして、2024年開幕、もしかすると「開幕スタメンマスク」かというチャンスをつかんだ。スポーツ紙が続々と「当確」の記事を出したのは、田宮の人柄が記者さんに愛されてるからだ。
 
 言っておくが、これはすごいことなのだ。僕が期待感でべらぼうに早く海浜幕張入りしてしまうくらいすごいことなのだ。ファイターズには1軍級の好捕手が揃ってる。伏見寅威、マルティネス、清水優心、郡司裕也、進藤勇也。本当に誰が開幕スタメンでもおかしくない。ていうか田宮より格上で、年俸だって沢山もらってる選手が多い。それを押しのけて田宮が夢の舞台へ上がる(のかもしれない)。大活躍する(のかもしれない)。落ち着いてなどいられるか。ZOZOマリンは鎌スタからいちばん近い1軍球場だ。まさに「鎌スタドリーム」。その姿を見届けにきた。

攻守で大活躍の開幕戦

 試合後です。興奮冷めやりません。すごい。田宮裕涼やりました。『開幕スタメンマスク」を勝ち取っただけじゃない。大仕事をやってのけた。伊藤大海の開幕勝利を引き出し、先制タイムリー、送りバント、盗塁と走攻守三拍子揃った自らの持ち味を100パー生かした。感動です。まさに「鎌スタドリーム」。ちょっと順番に語らせてください。
 
 まず「開幕スタメンマスク」のいちばんの仕事はリードなのだ。初の開幕投手を務めた伊藤大海は緊張のためか、初回非常にテンポが悪かった。ロッテ小島和哉がストライク先行で、あっさりハムの攻撃を退けるのに対し、伊藤は追い込んでから球数を要した。ファウルで粘られ、1つのアウトを取るのに汲々とした。「初の開幕投手&初の開幕捕手」のバッテリーなのだ。あそこで崩れてしまう可能性だって十分あった。
 
 だけど、苦労しながら初回を何とか0で抑え、次の回からはテンポアップさせた。初回のモタモタ具合では5回もたなかったと思う。球数がグッと減り、6回101球、被安打4、無失点の好投を引っ張り出したのだ。殊勲の第一はこの好リード。
 
 評判の「裕涼ビーム」は発揮する場面がなかった。ロッテが盗塁を企図しなかった。これは(走者自体、少なかったのだが)田宮の強肩が聞こえていて、抑止力になったと思う。つまりリードだけじゃなく、見えない形で伊藤を助けていた。
 
 打の殊勲シーンにも触れておこう。3回無死一、三塁からセンターへ先制タイムリーだ。これは出来過ぎ。見ていて泣けてきた。これまで培(つちか)ってきたものを故郷の大舞台で示して見せた。培ったものという意味では、1球でサクッと決めた送りバントや、見事な盗塁も同様だろう。
 
この日は水野達稀、奈良間大己、田宮裕涼と下位打線が仕事をした。みんな1軍当落線ギリギリでもがいてスタメンを勝ち取った選手らだ。むしろレイエスの来日初ホームランの方が「豪華景品」というかオマケ感があった。
 
 田宮、これから長いシーズン色々あるだろうけど、粘り強くがんばれ。胸熱だよ。君を見てきてよかった。