さらなる進化を目指す大砲



リーグトップの本塁打を放っている細川

 大敗を喫したが、中日ファンは希望の光を見ただろう。

 5月1日のDeNA戦(バンテリン)。先発の涌井秀章が1回持たず9失点KOを喫したが、敗色濃厚の展開でも集中力を切らすことはなかった。12点差を追いかける4回に、細川成也がリーグ単独トップの7号ソロ。石田健大の低めの直球を振り抜くと、高々と舞い上がった打球は左中間スタンドに飛び込み、中日ファンのボルテージが一気に上がった。

 DeNAから現役ドラフトで移籍した昨年は打率.253、24本塁打、78打点をマーク。背番号が0から55に変更となり、注目度が1年前と大きく変わったが、地に足がついていた。週刊ベースボールのインタビューで、「昨年に限らず、ベイスターズにいるころから毎年(契約が)怪しいというか、今年ダメならという瀬戸際にいました。その中で移籍してきて、その1年目で結果を残すことができたので、今はこれで終わりにならないようにと、そういう気持ちでいっぱいです」と決意を口にしていた。

 25歳の和製大砲が目指すのはさらなる進化だ。体をまとう筋肉の鎧がさらに大きくなり、打球の飛距離がさらに伸びている。衝撃的な一打は4月27日の広島戦(バンテリン)で飛び出した。3点差を追いかける8回二死一塁で、益田武尚の149キロ直球をはじき返した打球は、バンテリンドーム右翼席の中段付近へ。広いバンテリンドームで逆方向へ、しかも中段まで飛ばす選手はなかなかいない。細川は今年のオープン戦でもバンテリンドームの5階席に飛び込む特大アーチを2発打っている。大谷翔平(ドジャース)が昨年バンテリンで行われた侍ジャパンの強化試合で、打撃練習の際に5階席へ打球を放って話題を呼んだが、細川は実戦で叩きこんでいるのだ。

外国人打者に匹敵する飛距離



圧倒的パワーで逆方向へも難なくスタインドインさせたウッズ

 他球団のスコアラーは、「5階席に飛ばした2本のアーチもそうですし、バンテリンの逆方向にあんな飛ばす選手は見たことがない。飛距離で言えばタイロン・ウッズ(元横浜、中日)、日本人選手では大谷に引けを取らない水準です。本塁打を打つだけでなく、今季は三振が減って確実性が増している。昨年以上に怖い打者であることは間違いないですね」と警戒を強める。

 近年は岡本和真(巨人)、村上宗隆(ヤクルト)と球界を代表するホームランアーチストがタイトルを獲得してきた中、広いバンテリンを本拠地にする細川が本塁打王に輝くことは大きな価値がある。ナゴヤ球場から1997年に本拠地を移転してから本塁打王を獲得した中日の選手はウッズ、トニ・ブランコ、アレックス・ゲレーロの3選手のみ。ウッズは2006年にシーズン球団最多記録の47本塁打をマーク。144打点で打撃2冠に輝き、リーグ優勝に貢献した。強みは広角に長打を飛ばすことだった。47本の打球方向の内訳を見ると、左翼が17本、中堅が10本、右翼が20本。逆方向へのアーチが最も多く、失速せずにスタンドに突き刺さる打球が印象的だった。

広い本拠地で本塁打を打つ難しさ


 バンテリンドームに本拠地を移転以降、本塁打王を獲得した日本人選手はいない。セパ両リーグで本塁打王に輝き、通算403本塁打をマークした元中日の山崎武司は、広い球場で本塁打を打つ難しさについて週刊ベースボールの取材で以下のように語っている。

「ナゴヤ球場の最後の年に本塁打王を獲ったんです(1996年)。ナゴヤドームになって、これは苦戦するだろうなと思いましたし、本塁打も確実に減るなと。ナゴヤ球場は当てればスタンドに入りましたけど、ナゴヤドームは振っても入らない。自分の打撃を変えるつもりはなかったですけど、今よりもっと振らないと入らない、もっと強いスイングをしないと入らない、そう思っているうちに本来の形が知らず知らず崩れていくんですよね。フルスイングではなくオーバースイングになってしまうというか、これはホームラン打者にはよくある話ですけど」

 パワーと技術を兼ね備え、成熟の時を迎えている細川は何本のアーチを積み重ねられるか。中日ファンのロマンを乗せ、チームを勝利に導く一打を打ち続ける。

写真=BBM