7試合でスタメンマスク



6年目の今季、一軍定着を狙う岸田

 ヤクルトに同一カード3連敗を喫し、勝率5割から仕切り直しとなった巨人。3ゲーム差で追いかける首位・阪神との3連戦が5月3日から行われる中で、注目されるのが捕手の起用法だ。

 近年は大城卓三が正捕手としてシーズンの大半で先発マスクをかぶっていたが、阿部慎之助監督が就任した今年は変化が。捕手のスタメンを見ると、大城がチーム最多の14試合に出場しているが、小林誠司が8試合、岸田行倫が7試合出場している。

 捕手の併用制が球界のトレンドになっているが、「正捕手を固定するべき」という指摘もあり、意見はさまざまだ。球団OBの堀内恒夫氏は週刊ベースボールのコラムで、持論を語っている。

「要するに絶対的な正捕手がいればほかの捕手に入り込む余地はないということ。例えば、森(森祇晶)さんが正捕手の時代にはいくらエースといえども、捕手を名指しで指名するなどということはまずあり得なかった。それだけに、いまの巨人に絶対的な正捕手がいないということを白日の下にさらけ出している。14年にドラフト1位で迎え入れた小林も、その年に35歳を迎えたベテラン・阿部の後継者として正捕手としての道を歩む予定だった。ところが、大城の打力に魅了されたのか、原辰徳前監督は“正捕手の階段”を着実に上がり続ける小林から梯子を外してしまった」

「あらためて今季の巨人に唯一、死角があるとすれば、スタメン捕手を1人に固定できずにいるということ。ブレずに開幕当初に起用していた大城で突き進むのか。相性を重視しながら小林にマスクをかぶらせるのか。または“第3の男”岸田にチャンスを与えるのか。さらに今オフのドラフトで、アマチュア球界の大物捕手を連れて来るのか」

バランス型捕手として


 大城は「強打の捕手」として知られ、小林はリードや配球に定評がある「守備型捕手」だ。そして、岸田は強打と守備能力を兼ね備えた「バランス型の捕手」と言える。今季は山崎伊織、赤星優志が先発登板する際にマスクをかぶる機会が多い。大胆かつ繊細に。変化球が高めに浮いた際はジェスチャーでフォームが乱れていることを指摘。コースや高さを分かりやすく伝え、投手の良さを引き出す。

 打撃でも勝負強さが光る。4月30日のヤクルト戦(東京ドーム)では1点差を追いかける4回二死一、三塁でエルビン・ロドリゲスのチェンジアップを中堅にはじき返す逆転の2点適時三塁打。塁上で一塁ベンチに向けて両手を突き上げた。10試合出場で打率.381をマーク。小技もきっちりこなし、下位打線で核になっている。

 他球団のスコアラーは、「捕手の能力でいえば、トップクラスだと思います。ファームで出場しているときからいい選手だなあと思っていました。足りないのは経験でしょう。まだ27歳と捕手としてこれから脂が乗りきる時期になってくる」と高い評価を口にする。

盛り上げ役で終わらない


 手痛いミスも今後の教訓にしなければいけない。4月24日の中日戦(東京ドーム)。同点の7回に一死三塁から赤星が代打・大島洋平をカウント2−1から空振させた直後、岸田は三塁走者の代走・ 尾田剛樹のリードが大きいと判断して牽制球を投げたが、送球は尾田を直撃して二塁ベースのほうへ。この間に尾田が本塁に生還し、決勝点となった。牽制の判断は間違っていないが、試合終盤の拮抗した展開では1つのミスが命取りになる。

 大城と同期入団だが、学年は4歳下になる。「将来の正捕手」と嘱望されたが、大城に水を開けられる形に。だが、爪痕は残している。昨季は自己最多の46試合に出場して打率.250、2本塁打、3打点。勝負の夏場以降にスタメンマスクをかぶる機会が増えた。代打で出場した6月30日の阪神戦(東京ドーム)では同点の延長10回に逆方向の右翼へサヨナラアーチ。「正直ネクストでめちゃくちゃ緊張していて、打席に行く前に阿部さんに『ホームラン打ってこい』と言われて、思い切ってスイングした結果がこういう形になって本当にうれしいです」とお立ち台で声をはずませ、スタンドの巨人ファンから大歓声が注がれた。

 明るい性格でムードメーカーの一面を持つ岸田だが、今年は盛り上げ役で終わるつもりはない。「第3の捕手」を卒業し、正捕手を狙う。

写真=BBM