激怒症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか。突発性攻撃行動、レイジ・シンドローム、スプリンガー・レイジ・シンドロームなどと呼ばれることもありますが、日本ではまだ馴染みのない言葉だと思います。

一方で、動物行動学の分野では少しずつ研究が進んでいる疾患でもあります。

今回は犬猫の激怒症候群について解説します。

激怒症候群とは

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激怒症候群とは、何の前触れもなく、突然襲いかかる原因不明の攻撃行動を指します。

通常、動物が攻撃に転じる場合は何かしらのキッカケや威嚇などの前兆があるものですが、激怒症候群の動物にはこれらがありません。また、スプリンガー・レイジ・シンドロームという別名は、最初の症例がイングリッシュ・スプリンガー・スパニエルで確認されたことから名付けられました。

犬猫、ともに3歳齢未満の若齢で発症することが多く、犬では1歳齢未満での発症も報告されています。

原因

以前は突然の攻撃行動は異常行動と認識されていましたが、19世紀後半にイギリスの獣医師によってこの行動には脳神経系の異常が関わっているということが示唆されました。すなわち脳神経系の異常により、てんかんの発作で激しい攻撃行動が起こっている可能性が高いということですが、はっきりとした原因はいまだ解明されていません。

実際、てんかん発作中の動物に触れようとすると、飼い主であろうが激しく咬みつかれることがあります。意識を失い激しく痙攣を起こす大きな発作ではなく、意識が朦朧として見境なく攻撃してしまう小さな発作が起こっているという考え方です。

また、脳内のセロトニン濃度の低下も一因となっている可能性が示唆されています。ヒトの間欠爆発症/間欠爆発性障害もセロトニンの異常によるものと言われています。

発症が確認されている犬種としては、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、レトリーバー系、テリア系が報告されていて、このことから遺伝的な要因の関与が考えられています。

一方、猫での原因についての研究はまだまだ進んでいませんが、犬と同様の機序によって発症すると考えられています。好発する猫種については、まだわかっていません。

攻撃行動のキッカケ

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犬猫が攻撃行動を起こすキッカケとしては以下のようなものが考えられます。

  • 縄張りを守る:自分の寝床、食器周り、ケージ周辺などに他の犬や人が侵入することによる怒りです。

  • 優位性を示す:群れの中で自分の方が偉いという意識が強いと怒りの感情につながります。ジッと見つめる、手足を触るなどの行動をとった際に攻撃行動が見られることがあります。

  • かまって欲しい:欲求不満によるストレスによって部屋を荒らしたりすることがあります。

  • 恐怖:基本的に動物が恐怖を感じた時には「逃げる」行動をとりますが、これが限界に達した際に攻撃に転じることがあります。

  • 母性:子供を守ろうとする攻撃行動で、出産した子犬/子猫を抱きあげようとした際に咬みつかれることがあります。

愛犬や愛猫に咬まれてしまったとき、これらに該当しないか確認しましょう。激怒症候群の場合はこれらのいずれにも当てはまりません

また、咬まれた後、攻撃したことを覚えていないような様子が見られることも激怒症候群の特徴と言われています。これは意識がない状態(てんかん発作中)の攻撃であることを意味していますが、実際にその時に意識があるかどうかを確認することは難しいと思います。

さらに、これらの攻撃行動の前には威嚇(歯を剥き出す、唸り声をあげるなど)が見られることが多いので、激怒症候群との鑑別にもなります。

診断

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激怒症候群を問診や検査で直接診断することは困難です。CT/MRI検査で、てんかんを起こすような脳の異常の有無を確認することがあります。

また、脳波を見ることもあるそうですが、一般的な動物病院の設備では難しいかもしれません。明確な診断基準も確立されていないため、問診による状況の確認などによって推量するしかないのが現状です。

治療

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まだ治験は多くありませんが、激怒症候群の治療には抗てんかん薬の継続的な投与が行われています。また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の投与も効果があるとされています。

これらの薬剤には腎臓や肝臓に負担をかけるものもあるため、投与開始前には血液検査が必要となります。

行動治療は効果がある?

激怒症候群は脳神経系の異常によるものと考えられているため、しつけなどによる行動療法は効果がないとされています。

そのため、なぜ攻撃行動が起きたのか、どのようなタイミングで起こったのかなどを追求していくことは、攻撃行動改善のための今後の治療方針を大きく左右することとなります。

まとめ

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激怒症候群は近年になって研究が進んでいる比較的新しい疾患の概念です。

まだ解明されていないことも多く、浸透しているとも言えませんが、突然の攻撃は生活に支障をきたすことも考えられます。外国では激怒症候群と診断された場合に安楽死を選択することもあると言います。

正しい知識を持って、愛犬や愛猫との今後について、かかりつけの獣医師としっかりと相談をしていきましょう。