◇本城雅人コラム「ぱかぱか日和」

 ダイヤモンドSを制し、前走は天皇賞・春の前哨戦である阪神大賞典を勝った。人気は菊花賞馬のドゥレッツァと競ったが、菱田騎手はテーオーロイヤルが一番強いと信じて乗った。

 31歳、デビュー13年目にして初めて制したG1勝利は、師匠、岡田稲男調教師の初JRA・G1勝利でもある。減量が取れたらフリーになるのが当たり前の時代、ずっと岡田厩舎所属で戦い続けてきた男にしかできない、最高の仕事だった。

 デビュー2年目はJRA52勝、3年目は同64勝、同じ年代の騎手でもトップクラスのスタートを切りながらも、次第に勝ち星は減った。けがもあったし、うまく乗れずに乗り代わりも幾度も経験した。誰もが通る道である。それでも彼はここから伸びると、そのきらりと光る才能に気づいている人はいた。

 その一人が数々のG1馬を育てた松田博資元調教師である。まだそこまで有力馬が集まっていなかった川田騎手を見い出し、ハープスターなどでG1を勝った松田博元調教師が、調教師キャリアの終盤によく乗せたのが菱田騎手。マツパクさんは厳しい、G1騎手になった後の川田騎手にでもミスすれば叱る。菱田騎手も相当鍛えられたはずだ。そのマツパクさんの言葉で記憶に残っているのが「強い馬は強い競馬をすればいい」。今日のテーオーロイヤルがまさにそうだった。

 そして岡田稲男調教師。調教師免許取得は2002年(開業は翌年)だから、菱田騎手のデビューの10年前、長い道のりだった。

 人当たりがよく、馬主を大事にする人。クラブの良血馬、セレクトセールの高額馬は入ってはいないが、たくさんの有名馬主さんが預けている。みんなが岡田師の考えを理解し、まな弟子や勝ち星に恵まれていない他の騎手を乗せることを認めている人ばかりだ。苦労しながら頑張る師弟の姿を見てきたたくさんの人が祝福している。今年の天皇賞・春は人情があふれていた。(作家)