◇渋谷真コラム「龍の背に乗って」

◇29日 中日11−1DeNA(バンテリンドーム)

 木下が生え抜き1号を打ち、細川がプロ初のグランドスラムをたたき込む。なぜ前の日に1本出ない。明日のために何点か…。いや、それは言うまい。今季最多となる11得点。そんなド派手な猛攻は何とも地味な内野安打から始まった。

 3回。先頭の村松が一塁にゴロを打った。ベースより後ろで守っていた佐野は待って捕った。おそらくは自分で踏むと決めつけたジャクソンを村松は抜き去って、梅木一塁塁審の両手を広げさせた。

 「いけると思いました。去年も佐野さんに同じような打球を打って内野安打になったのが頭をよぎったし、ジャクソンが軽く走っているようにも見えたので」

 続く松葉はバスターエンドランでの遊ゴロ、岡林は三振。ベースカバーのわずかな遅れがなければ、少なくともこの回は三者凡退で終えていたことになる。

 カリステの先制打は痛烈ながら二塁・牧の正面へのライナーだった。これを捕り損ね、中田の打球は数歩後退し、あわてて前進した右翼・度会の前にポトリと落ちる。どれもアウトになるはずの打球であり、全てがヒットになった。一挙4点。野球は怖く、そして紙一重なのだ。

 今季15安打中7本。村松はリーグの内野安打王である。早くも昨季の8本(57安打)に迫る数は偶然ではない。

 「今年の僕は内野安打を大事にしています。去年なら『もっといい打球を打たなきゃ』と思っていたけど、ポジティブにとらえているんです。走力を上げるトレーニングもしてきたので」

 きっかけは1月の自主トレで、トレーナーから聞いたイチローの話だった。「あんなすごい人でも、内野安打を抜けば打率はすごく下がるんだって」。210安打を打った1994年は打率3割8分5厘。33本もあった内野安打が、仮に凡打なら6分も打率は下がる。今季の村松は打率2割8分8厘。ほぼ半数を占める内野安打が、彼を支えている。相手の隙は村松の好機。幸運ではなく、磨いた走力でたぐり寄せたあのヒットから猛攻は始まったのだ。