写真左から、林 知亜季監督、主演の藤原季節さん、プロデューサーの毎熊克哉さん。

特別上映の舞台挨拶にて。左から、柾賢志さん、義山真司さん、藤原季節さん、佐藤考哲さん、毎熊克哉さん、林 知亜季監督。

 藤原季節さん主演の自主映画『東京ランドマーク』は、昨年デビュー10周年にテアトル新宿で開催された「藤原季節特集」上映で初めて一般に披露された。その後、TAMA映画祭で特別上映され、年末には関西で。そして5月18日からの新宿K’s cinemaでの公開を皮切りに全国で順次公開される。

 2018年に撮った手作りの映画が広がっていくまでには様々な思いがあったという。主演・藤原季節さん、林 知亜季監督、Engawa Films Projectプロデューサー・毎熊克哉さんのトークの後篇。


「人の心を打つ」という映画の一番大事な部分が詰まっている


『東京ランドマーク』より。

――映画『東京ランドマーク』は、毎熊さんが直接劇場に連絡をして上映の交渉もしているそうですね。

毎熊 自主配給ですからね(笑)。初めてやることばかりで、手探り状態です。今回、桜子の父親役で出演していただいた大西信満さんに伺ったのですが、昔、荒戸源次郎さんの映画では、自分たちでフィルム缶を抱えて駆け回っていたそうです。

 僕らはフィルムではないですけど、こうして劇場の方々とやりとりさせてもらっているのは、いい経験をさせてもらっているなと感じています。映画に携わっている自分たちは、映画館がなければ居場所がないのだなと改めて思いましたね。


プロデューサーの毎熊克哉さん。

藤原 本当にそうですね。

毎熊 僕も俳優としてはいろんな映画に関わらせてもらっていますけど、ほぼ友達のような距離感の人たちと映画を作って、それを劇場で上映する人機会はなかなかないですし、この先もないかもしれないなと思うんです。

 もともと僕は、出ることよりも映画を作りたかった人間なので、語弊があるかもしれませんが、僕個人が俳優として評価されることよりも、(『東京ランドマーク』を観客に届けられることは)嬉しい気持ちなんですよね。


主演の藤原季節さん。

 去年、テアトル新宿で上映された時も、たくさんのお客さんに観ていただいて、ものすごく嬉しかったけれど、今では僕よりも、毎熊くんたちの方が、この映画を大事に思って世に広めようとしてくれている感じがします(笑)。

毎熊 「出演もしていないのに、なぜ友達の映画をそんなに応援しているの?」と時々聞かれますけど、友達だから手伝っているわけではないんですよね。Engawa Films Projectの一員として腹を括ってちゃんとお客さんに届けなくてはと思いましたし、何よりこの作品にすごく惹かれたからなんです。

 演技が上手いとか脚本がいいとか撮影がすごいとか、そんなことを飛び越えて、粗削りかもしれないけれど、「人の心を打つ」という映画の一番大事な部分が詰まっていると感じました。

「自分の居場所はあるのだろうか」って、誰しもどこかに抱えている感覚じゃないかなと


林知亜季監督。

 実は去年、テアトル新宿で上映したバージョンから、ほんの少し編集を変えています。普段はそういうことはしませんが、自分では見えていなかったものを客観的視点から毎熊くんは見ている。多くのお客さんに観てもらうことを考えてくれている。それなら、言うことを聞いてみようかなと。

――説明的な部分が削ぎ落とされて、場面と場面の間にあったであろう出来事や、言葉にならない感情を観客が自由に想像できる余白があります。2回拝見しましたが、1回目は稔とタケの優しい関係が見えるバイクのシーン、2回目は歩道橋でのミノルの電話の後の笑顔にグッときました。


『東京ランドマーク』より。

 2回目がいいとよく言われますね。

毎熊 2回目がいいのは、(1回観ているので受け取る)情報が少ないからですね。70分の最小限の映像で表現しています。どこに焦点を当てて観るかで、きっと受け取り方も変わる。映画館で観るべき、映画らしい映画だと思います。

藤原 プロデューサーの視点ですね!

 上映するからには、長い期間、観ていただける息の長い映画になっていったらいいなと思いますね。ちなみに、チラシの表にある「ここに居場所はあるのだろうか」というコピーは毎熊くんが考えたんですよ。

藤原 そうだったんですか? あまりにハマりすぎてビビりました。俺のことじゃんって(笑)。

毎熊 季節のことを昔からよく知っているから、この所在ない表情のアップを使うならこの言葉だ! と思いました。(藤原が)自分のことを認めてあげられない、居場所がないと感じていることを知っていましたし、僕自身もそう感じたことはありました。

藤原 「自分の居場所はあるのだろうか」って、誰しもどこかに抱えている感覚じゃないかなと思います。僕はずっと自分のことを根無し草のように感じていて、今でもそう思うことがあります。でも、見渡したら10年前に知り合った林さんや毎熊さんたちがまだ隣にいてくれた。僕の居場所はすでにあって、それに気づくのに10年という年月が必要だったんだなと改めて思いました。


『東京ランドマーク』より。

『東京ランドマーク』より。

藤原 映画の中で稔とタケと桜子が共有する強烈な時間は、一生の宝物になります。孤独を抱える人が映画館で『東京ランドマーク』を観て、ふと共感してくれる瞬間があったら嬉しい。Engawa Films Projectの人たちが作ってくれた「映画」という居場所をお客さんと共有できたら、そして友達のように感じてもらえたらいいなあと思っています。

3人が考える「俳優にとって大事なこと」


写真左から、林 知亜季監督、藤原季節さん、毎熊克哉さん。

――林監督は、いい俳優の条件って何だと思いますか?

 そうですね……自分の状況をちゃんと受け入れられる人かなあ。それは最低条件のように思いますね。言い訳せずに自分を見つめることは大事ですよね。(オファーが来ないことを)事務所のせいにしたりしているとロクな演技はできないと思うから。

藤原 心当たりがあるから怖いな(笑)。

 きっとそういう時期は誰にもあるんだと思います。でも、そんなことを言っていても仕方がないと途中で気づくわけでしょう? (自分を見つめる作業をし続けてきた)毎熊くんや季節は、チャラチャラした浅い人の役はもうできないと思いますよ。やっても、それだけでは終わらない、何かが映ってしまうんじゃないかな。

――毎熊さんも藤原さんも、セリフのない場面でも魅力的だなと感じます。表情や佇まいから観客はいろんなものを感じ取ることができますよね?

 そうなんです。やっぱりそういうものを感じさせる役者さんに惹かれるし、撮りたくなりますね。

――藤原さん、毎熊さんは、俳優にとって大事なことは何だと思いますか?


写真左から、毎熊克哉さん、藤原季節さん、林 知亜季監督。

藤原 (しばらく考えて)純粋なままでいられるかどうかじゃないですか? 毎熊さんも僕も映画少年だったんですよ。毎熊さんは確か『E.T.』が好きだったんですよね?

毎熊 映画に興味を持つきっかけになったのが『E.T.』だったかな。

藤原 僕は子供の頃、ジャッキー・チェンが好きでした。映画好きであることは当時も今も変わってなくて。表現することに対して、純粋な気持ちを失わない。そのために何を信じて、何を守れるかが大事なのではないかなと思います。

――でも、俳優さんって、作品や役柄によっては精神的にもボロボロになる、魂を削る大変なお仕事ですよね?

藤原 そうですね。ただ、映画を観にきてくださる方も、みなさん身を削っておられると思います。どの世界に生きていても大変だし、現実世界の方が風当たりは強いかもしれない。僕たちが物語の中で心が傷だらけになるというのも、現実にそれに近いことが起きていて、その状況をお借りしてやらせてもらっているだけなので、たいしたことないですよ!


林 知亜季監督。

 (藤原に)その答えは、いつから考えていたの?

藤原 いつからって、事前に質問とかいただいてないですよ(笑)。

毎熊 本当に季節の言う通りだと思います。いろいろなことが起きるので、(俳優は)迷子になりやすい仕事でもあると思います。仕事がない時はもっと仕事をしたいと思うでしょうし、忙しすぎるとなんのためにやっているのかわからなくなりそうになる。アンバランスな中でどう重心を取るのかが大事なのかなと。目先のことに囚われちゃうと転げ落ちそうになるので。

藤原 確かに。

毎熊 僕だったら、映画を作りたいとか、『東京ランドマーク』のようなタイプの作品もやりたいとか、自分は何が好きで、何のためにやってきたのかを忘れなければ、転んだとしてもまたすぐに戻ってこられるのかなと思います。そうしたら、失敗も怖くなくなりますし。

――これからプロデュース業もやっていくのですか?

毎熊 それはまだわからないですけど、俳優は基本的に(オファーを)待つ仕事だと思うんですね。なので、10のうち2くらいは、自分から動き出すものがあってもいいのかなと考えています。

 季節は、自分で企画・構成する朗読のイベントをずっとやり続けていて、どんどんお客さんを増やしている。すごいなと尊敬しています。僕も40〜50代にかけては、自発的に動いて形に残すということをやっていけたらと思いますね。


藤原季節さん。

藤原 毎熊さんがプロデュースして、僕が主演をやるとか? 名作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のマット・デイモンとケイシー・アフレックみたいに(笑)。

毎熊 季節が企画するものに僕を呼んでもらっても?

藤原 いいかもしれない。夢のある話ですね!

藤原季節(ふじわら・きせつ)

1993年生まれ、北海道出身。俳優。小劇場での活動を経て2013年より俳優としてのキャリアをスタート。翌年の映画『人狼ゲーム ビーストサイド』を皮切りに、『ケンとカズ』(16年)『全員死刑』(17年)『止められるか、俺たちを』(18年)などに出演。2020年には、主演を務めた『佐々木、イン、マイマイン』がスマッシュヒットを記録し、『his』(20年)とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。映画『辰巳』が現在公開中。著書に『めぐるきせつ』(ワニブックス)。

毎熊克哉(まいぐま・かつや)

1987年生まれ、広島県出身。俳優。主演を務めた2016年公開の映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017の新人男優賞、第31回高崎映画祭の最優秀新進男優賞を受賞。最近の主な出演映画に『愛なのに』『猫は逃げた』『冬薔薇』『妖怪シェアハウス─白馬の王子様じゃないん怪─』『ビリーバーズ』(全て22年)、『そして僕は途方に暮れる』『世界の終わりから』(23年)、ドラマに大河ドラマ『光る君へ』(24年 NHK)など。現在『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京)に出演中。

林 知亜季(はやし・ともあき)

1984年生まれ、神奈川県出身。映画監督。高校時代の3年間、アメリカのニューヨーク州で過ごす。帰国後、演劇のワークショップに参加。知り合った仲間とEngawa Films Projectを立ち上げ、映像制作を始める。Engawa Films Projectの撮影、監督を主に担当。2012年、短編映画『VOEL』がショートショート フィルムフェスティバルに入選する。15年にはパリで1年間ドキュメンタリーやファッションPVなどを制作。『東京ランドマーク』は、初の長編映画となる。

文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖