NHK出身の武田真一アナウンサー(56)と山里亮太(46)らがMCを務める日本テレビの情報番組「DayDay.」(月〜木曜:午前9時〜同11時10分、金曜:〜同10時25分)のスタートから1年が過ぎようとしている。朝の情報番組3本の事情はどう変わったのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

視聴率と1年前と比較

 日本テレビは昨年3月末に加藤浩次(54)がMCだった「スッキリ」(平日午前8時〜同10時25分)を終了させ、翌4月から「DayDay.」をスタートさせた。

 それにより、朝の情報番組3本の事情はどう変わったか。まず個人視聴率(4歳児以上の全体値)とコア視聴率(調査対象を13〜49歳に絞った個人視聴率)を1年前と比べてみたい。(ビデオリサーチ調べ、関東地区)

【2023年3月第1週(2月27日〜3月5日)】
〇テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」(平日午前8時〜同9時55分)
個人視聴率:平均5.10% 1位
コア視聴率:平均1.14% 3位

〇日本テレビ「スッキリ」(第1部 :平日午前8時〜同9時30分)
個人視聴率:平均2.62% 2位
コア視聴率:平均2.76% 1位

〇フジテレビ「めざまし8」(平日午前8時〜同9時50分)
個人視聴率:平均2.38% 3位
コア視聴率:平均1.44% 2位

 現在はこうなっている。

【2024年3月第1週(4日〜10日)】
〇「羽鳥慎一モーニングショー」
個人視聴率:平均5.72% 1位
コア視聴率:平均1.06% 3位

〇「DayDay.」(第1部 :平日午前9時〜同10時25分)
個人視聴率:平均2.32% 3位
コア視聴率:平均1.74% 1位

〇「めざまし8」
個人視聴率:2.36% 2位
コア視聴率:1.56% 2位

コア視聴率で最下位は「羽鳥慎一」

 羽鳥慎一アナ(52)がMCの「羽鳥慎一モーニングショー」は昨年まで4年連続で個人視聴率トップ。現在も高い数字を維持し、1年前の「DayDay.」のスタート直前より0.62ポイント伸ばした。

 ところが、コア視聴率は昨年も今年も最下位。1年前より数字を0.08ポイント落とした。50代以上の男女からの支持は突出しているものの、それより下の世代の個人視聴率は半分以下であるためだ。

 政治や行政など天下国家の問題を厚く扱うカラーは変わらず、強みであるものの、40代以下が敬遠する理由にもなっているようだ。40代以下も政治には関心が高いが、それより生活に身近な情報やエンタテインメント情報を求める傾向が見られる。

 3月15日の冒頭ではロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平(29)と妻の真美子さん(27)について特集した。次に北陸新幹線開通によって沸く福井県の絶景とグルメを紹介した。

CM価格はコア視聴率とほぼ比例

 民放がコア視聴率を重視しているのはプライム帯(午後7時〜同11時)ばかりではない。終日そう。まず、今のスポンサーは「何軒観ていたか」しか分からない世帯視聴率には全く関心がない。CMを入れるにあたって参考にするのは視聴者の数や年齢、性別が分かる個人視聴率のみ。NHKを含めた各局側も個人視聴率を標準にしている。

 民放の場合、個人視聴率の中でも特に重んじられているのがコア視聴率。この層は行動全般が活発で、スポンサーが歓迎するからである。CMの価格はコア視聴率とほぼ比例する。

 このため、テレ朝以外の局の番組制作者の間では「営業的に一番苦戦しているのは『羽鳥慎一モーニングショー』」というのが共通認識になっている。世間のイメージとは異なる。難しい時代だ。

明らかにコア視聴率狙いの「DayDay.」

「DayDay.」は明らかにコア視聴率狙いでつくられた番組だ。定年まで5年あり、若々しい印象の武田真一アナをNHKから迎え、コア層とぴったり重なる山里亮太と組ませた。

「爽快・情報エンタメトークショー!」と銘打ち、コア層の関心が高いエンタメとトレンドの情報を中心に据えた。政治と事件は相当大きなニュースでない限り、やらない。

 3月15日も「3人に1人が“推し活”中高年も夢中のワケ」という特集を冒頭で放送した。“推し活”とは好きな芸能人やスポーツ選手などを応援する活動である。次のコーナーでは嵐の櫻井翔(42)と比嘉愛未(37)をゲストに招き、「春のストール活用術」を放送した。40代以下に歓迎されそうな特集が続いた。

 その結果、コア視聴率は狙い通りに1位。だが、「スッキリ」時代より1ポイント以上落ちている。放送時間帯が「スッキリ」より1時間遅くなったことが1番の理由に違いないものの、この番組改編によって午前帯のコア視聴率の独走を目論んでいた日本テレビとしてはまだ物足りないのではないか。

専業主婦から共働きへ…視聴者層が変化

 谷原章介(51)がMCの「めざまし8」はスタートから丸3年。個人視聴率もコア視聴率も2位。「DayDay.」開始前よりコア視聴率を0.12ポイント伸ばした。

 こちらもコア重視の情報番組に違いなく、トレンドやエンタメの情報を取り上げるが、政治や事件も扱う。はしかの流行や高級時計レンタル詐欺も早くから厚く報じた。気象予報士・天達武史氏(46)が登場しての天気情報も多い。

 3月15日の放送でも冒頭で「今週末は東京20度超 全国的に4月並み」と、天気情報を伝えた。

「DayDay.」開始前より各番組の個性の違いが目立つようになった。そうでなくても朝の情報番組は変貌が求められている。まず、フレックスタイム制の普及により、朝の情報番組の終了後、あるいは途中で出勤する人が増えた。このため、天気や交通事情など生活情報の重みが増した。

 変貌が求められている理由はそれだけではない。視聴者層が一変したからだ。1980年には専業主婦世帯が約1114万もあり、共働き世帯は約614万に過ぎず、専業主婦世帯が朝の情報番組のメインターゲットだった。だが、2022年には専業主婦世帯が539万、共働き世帯は1262万になり、完全に逆転。出勤前の人や休日の人を意識しない朝の情報番組は観てもらえない。(数字は総務省調べ)

昭和と今、MCの「大きな違い」とは

 内容と同じく朝の情報番組の視聴率に大きく関わるのはMCだ。「MCなんて誰がやったって同じ」という声もあるが、それは違う。信頼される人、好かれる人は確実に存在し、視聴者は無意識のうちにそのMCの番組にチャンネルを合わせる。

 新聞と同じである。たとえ書いてあるニュースがほぼ一緒であろうが、人は自然と信頼する新聞、好きな新聞を選ぶ。

 昭和期の情報番組のMCと現在のMCでは大きな違いがある。フジ「小川宏ショー」(1965〜82年)の故・小川宏さんらはほかの仕事をやらなかった。MCが取材に行ったり、対談をしたりすることが多かったためだが、番組専属となることによって、視聴者との距離感を縮める狙いもあった。

 今は逆にMCがほかの仕事をやり、その仕事で得たものを情報番組にフィードバックする。

 羽鳥慎一アナの場合、日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン(木曜午後8時)にレギュラー出演中。それだけではなく、同「24時間テレビ 愛は地球を救う」など定期的に放送される7つの特番のMCや司会を務めている。そこで得た情報や知識を「羽鳥慎一モーニングショー」で折に触れて口にしている。

今のMCには強靱な体力が必要

「DayDay.」の武田アナのレギュラー番組は目下のところ、この番組だけだが、昨年10月放送のTBS系「プレバト!!」(木曜午後7時)に登場したり、同11月に放送されたテレビ朝日系の「ポツンと一軒家」(日曜午後7時58分)にゲスト出演したり。活動範囲が広い。

 熊本県出身であるため、同8月と同12月には熊本県民テレビ(日本テレビ系)の特番「ただいま熊本!武田真一ふるさと巡り旅」に出演。震災から7年の郷里を訪ね歩いた。また、地元紙「熊本日日新聞」で連載「武田真一のおしゃべり多様性」を執筆中。郷土愛の強さをうかがわせる。

 山里の売れっ子ぶりは知られている通り。TBS「東大王」(水曜午後8時)など6本のレギュラー番組がある。

 谷原はNHKの総合音楽番組「うたコン」(火曜午後7時57分)の司会に就いてから丸8年。ほかに2番組の司会を務めている。

 本業の俳優活動も積極的に行っている。4月1日からはカナダのベストセラー小説を原作とする舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」(東京・日本青年館ホール)で元宝塚の花總まり(51)とダブル主演する。夫婦愛を問うファンタジー作品である。名古屋公演もある。

 かつて朝の情報番組のMCが専属だったのは体力面での問題もあったから。午前4〜5時起きなので、ほかの仕事をするのは難しかった。ほかの仕事もする今の時代のMCは強靱な体力も求められている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部