女性お笑いコンビ・尼神インターが解散を発表。人気コンビだっただけに突然の解散は業界に衝撃を与えた。ボケの誠子は近年、美容に力を入れた発信を行っていることが話題になっていたが、なぜ女性芸人は「美人化」の道を選ばざるを得ないのか――。【冨士海ネコ/ライター】

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 渚さんと誠子さんによる女性お笑いコンビ・尼神インターが解散。理由はやりたいことの方向性の違いとのことだったが、近年話題になっていたのは誠子さんの「美人化」である。双子の実妹は誠子さんと違う派手なギャル系の容姿で、姉の誠子さんをブス呼ばわりする様子に心を痛めた視聴者は多かったはずだ。誠子さんがどんどん垢抜けていく様子は応援されていたが、芸人としての露出が減っていくことに、疑問の声も上がっていた。

 女性芸人の「美人化」は、定期的に話題になる。2021年のアジアンの解散騒動では、「吉本ぶちゃいくランキング」殿堂入りのツッコミ・隅田美保さんが注目を集めた。婚活のための休業という報道も話題を呼んだが、お酒で仕事に穴をあけるようになったという背景もあったという。当初は相方の馬場園梓さんに同情する声も多かったが、「ブスいじり」へのストレスを抱えていたと隅田さんがのちに語ったことで、馬場園さんにも批判の矢は向いた。

 最近は「3時のヒロイン」メンバーの美容整形も反響が大きかった。昨年はゆめっちさんが、鼻やフェイスラインをアップデートしたとカミングアウト。体調不良を訴え休業していたが、その間に行ったという。前年にはかなでさんも二重まぶたに整形したことを明かしている。

 女性芸人が美容に力を入れると、好意的に受け止めるファンもいる一方で、「お笑いに真剣みが足りない」とたたかれることも多い。それは女優業や雑誌モデルなど、美人ならではの職業と思われている仕事を受ける時でも同様だ。特にコンビやトリオだと、浮かれて他のメンバーに迷惑をかけるなという同調圧力がかかる。

 だからだろうか、ここ最近のテレビで重宝される女性芸人は、みな「ピン」ばかり。ヒコロヒーさんやフワちゃんらを筆頭に、Aマッソの加納さんや3時のヒロインの福田麻貴さんなど、コンビやトリオの女性芸人が単独で登場するケースも目立つ。

女性芸人MCはいつも「井戸端会議」方式? 「型にはめられたくない」アラサー女性芸人たちの反抗心

 テレビで活躍する女性芸人の名前を検索すると、結構な確率で「かわいい」というワードがレコメンド表示される。ちなみに男性芸人だと「ライブ」や賞レースネタの名前が出てくることが多く、明らかな違いを感じる。

 最も、その違いを歯がゆく思っているのは女性芸人たち本人だろう。先日はハイツ友の会の解散が、「(主に男性の)顔ファンが嫌だったのでは」と臆測を呼んだ。ネタは面白いのに、美人であるばかりに見た目だけが先行してしまってもったいないという声も多く上がった。

 一方で、賞レースを制するのは男性ばかりという実態もあり、「そもそも女性芸人は面白さでは一段劣る」という偏見も根強い。そのせいか、女性芸人はMCに抜てきされても、単独MCは少ないように思う。必ず女性複数で回す、「井戸端会議」方式ばかりではないだろうか。

 典型的なのはヒコロヒーさんだ。元日向坂46の齊藤京子さんとダブルMCの「キョコロヒー」(テレビ朝日)や、水野美紀さんや鷲見玲奈さんらと回す「ドーナツトーク」(TBS系)。蛙亭のイワクラさんと吉住さんは「イワクラと吉住の番組」(テレビ朝日)。「トークィーンズ」(フジテレビ系)ではいとうあさこさんも指原莉乃さんと並んで名前がクレジットされている。福田麻貴さんは旧知の加納さんやラランド・サーヤさんと「トゲトゲTV」(テレビ朝日)をやっていた。芸人本人の話芸というよりは、他の女性との化学反応の面白さを狙うという意図が見える。

 美人だと顔ファンに粘着され、かといって垢抜けると「ブスのくせに気取りやがって」と嘲笑される。でもお笑いを頑張っても、従来のバラエティーでは単独で実力を評価してくれるところはなかなかない。それなら、外の場所で活躍できる可能性を広げたい。女性芸人たちが美容や女優業等にチャレンジするのは、お笑いが嫌になったからではなく、むしろ芸人としての影響力を高めたいからのように思うのだ。

 福田麻貴さんはドラマ「婚活1000本ノック」(フジテレビ)で主演を務め、ヒコロヒーさんや加納さんは小説も執筆。いずれも高い評価を得ている。丸山礼さんやバービーさんの美容知識の豊かさも有名なだけに、誠子さんが「美人化」で狙いたい市場も分かる。「女性芸人って面白くない割にお笑い以外のことにうつつを抜かしがち」。そういうイメージに、「型にはめないで」と怒り、全力で抗っている若手は増えているのではないだろうか。

女性芸人のセカンドキャリアは「ママ」しかない? 海外流出する才能ある女性芸人たちに見る「ロールモデルの少なさ」

 一般企業でも、若い女性たちは「ロールモデルとなる先輩女性がいない」という。現在アラサー前後の女性たちも、その問題に直面しているのではないだろうか。

 上沼恵美子さんのような飛び抜けた存在を除き、30代で結婚・出産を経た女性芸人たちはだいたい「ママ」キャラにシフトしていく。ワイドショーで「主婦目線」で語るコメンテーターや通販コーナーのガヤになる。優れた観察眼で「嫌な女」の再現ネタが上手だった横澤夏子さんや柳原可奈子さんも、今では芸人というよりママタレという印象が強い。ブスの自虐ネタと同様に、女性をけなすようなネタに白い目が向けられるようになったことも大きいだろう。

 セカンドキャリアを語る以前に、ファーストキャリアの土台を固めるのも難しい女性芸人ではあるが、最近では海外に希望を見いだす人も増えた。すでに渡辺直美さんという成功例はいるが、今月からフワちゃんは海外に拠点を置くという。ダイエットや女優業が話題になったゆりやんレトリィバァさんも、今年中の海外移住を宣言している。オアシズの光浦靖子さんのカナダ留学も、共感と憧れを集めたようだ。

 美容や恋愛を語るトーク番組ばかりにまとめて放り込むくせに、いざ美人になると怒られる。生き方の多様化は叫ばれる一方で、女性芸人の生き方の多様化には厳しい現実。このままでは女性芸人の芽を摘むだけでなく、優秀な人材の海外流出という“笑えない”状況になってしまうのではと思うばかりだ。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部