NHK大阪局が制作する土曜ドラマ「パーセント」が評判だ。地方のテレビ局を舞台に、新米制作者が障害者を主人公にしたドラマを制作する物語。劇中劇、そして本作そのものが、テレビ局が陥りがちな“上から目線”の“感動ポルノ”と異なる作品づくりを目指している。

 障害者を描く際に、ドラマはどこまでドキュメンタリーのように“リアル”に迫るべきなのか?そんな本質的なテーマを主人公たちが自問自答する姿に、テレビの意味を考えさせられる。【水島宏明・ジャーナリスト/上智大学文学部新聞学科教授】

テレビを“自己批判”するテレビドラマ

 第1話は5月11日に放送された。元代乃木坂46の伊藤万理華が演じる吉澤未来は、バラエティー班のアシスタント・プロデューサーとして、カフェを訪れた女性タレントがスイーツを試食する撮影の裏方をしている。店には手の指の一部が欠損している女性店員が働いていた。タレントにスイーツを手渡す場面の撮影に当たり、彼女は自分の手を見せ「これ渡すの…私で大丈夫ですか?」と未来に尋ねる。未来は思わず「(反対側の)こっちの手で出してもらって、後は撮り方とか編集でとかで映らないようにするんで…」とごまかしてしまう。

 傷ついた女性店員は健常者の男性店員に交代を申し出る。このやりとりを聞いていたタレントから、未来は「素人さんでも出演者なんやから、ちゃんとせなあかんよ」と注意を受ける。

 その後、社内募集に応募した企画が採用され、未来はドラマ班へ異動。それは、高校を舞台にした恋愛ドラマ「パーセント」で、スクールカーストに苦しむ劣等感の塊のような女子高生が、イケてる1軍男子と恋に落ちるという企画だった。

 だが、編成部長の藤谷光彦(橋本さとし)からは、主人公を障害者にする設定に改め、主演俳優も障害をもった当事者にするよう指示される。理由は局が推し進める「多様性月間」の一環のため。実際のテレビ局でも、例えば「SDGs月間」を定め「脱プラスチック」などを情報番組で呼びかけるケースも少なくない。そうしたテレビのご都合主義の現状を、醒めた目でやや批判的に描いた展開だ。

“感動ポルノ”として描こうとするテレビに反発するハルの言葉

 未来は脚本を書くために現場の様子を観察する「シナリオハンティング」に出向く。取材先の高校で出会ったのは、電動車イスの少女・宮島ハル(和合由依)だった。明るい笑顔でバスケットボールを楽しむ彼女の様子に目を奪われる。

 未来の企画書を見たハルは「この書き方、あまり好きじゃないです」ときっぱり。「『障害にめげず』とか『障害を乗り越えて』とか書いているけど、障害のある人が何かで壁を感じる時って、『社会』の方に問題がある。だから、それはその人が『乗りこえる』ことじゃない……みたいな考え方。いま高校生でも習う当たり前のことなんですけど」。そんな“当たり前”を理解できない、テレビの旧態依然とした姿勢にハルは強く反発したわけだ。

 ハルは障害者が多く参加する劇団で芝居をしている。未来は、主役としてドラマに出演してほしいと彼女に依頼するが、逆になぜ自分に依頼をするのか、問い質される。

「車イスっていうわかりやすい障害があるから?」
「障害を利用するみたいな使い方だったらお断りです」

 捨てゼリフを残し、ハルは去っていく。

障害者のクオータ制を提案した藤谷編成部長

 編成部長の藤谷は、企画がより「多様性」にふさわしくなるよう、出演者の割合に数値目標を設けようという一種のクオータ制を提案する。「たとえばやな、このパーセントというタイトルにちなんで、出演者の10%に障害者を起用する。これを大々的に打ち出すっていうのはどうや?イギリスのBBCでもこういう数値目標を掲げてやっとるやろう?それに倣って、ちゅうことで…」

 BBCのドラマが、街中のシーンでも「障害者がいる光景」を意識してもらえるよう、障害者を登場させていた話は知られている。

 そして藤谷部長はこう口をすべらしてしまう。

「あらゆる人に平等に機会を作ろうっていう話や。今回、君の企画が通ったんもそれと同じことや」

 ドラマの企画が通ったのは内容がよかったからだと思っていたが、“若い女性”の企画というジェンダーバランスへの配慮もあった。そう聞かされて未来は複雑な心境だった。

出演者も障害をもった人が多数 ヒロインは「片翼の小さな飛行機」のヒロイン

 障害者を起用するという点では、本作にも重なるものがある。NHKは「パーセント」の出演者をオーディションで募集し、「障害」「持病」のある人を条件とした。100人を超える応募があったという。

 最終的に未来と共にハルはドラマに出演することを了承するが、ハルを演じる和合由依も、2年前の東京パラリンピックの開会式で車イス姿の「片翼の小さな飛行機」を演じた若者だ。

恋人と「感動ポルノ」「上から目線」で激しい口論

 5月18日の第2話では、新任の編成部長・長谷部由美(水野美紀)から“根本的に人間を描くという意識が欠如している“と未来は厳しい指摘を受ける。

 未来は、恋人の町田龍太郎(岡山天音)と同棲している。龍太郎は学生映画で脚本賞を獲ったこともあり、才能は一目置かれながらも、就職せずにバーでバイトをするフリーターだ。

 未来の企画書を見た龍太郎の発言がきっかけで、2人は激しい口げんかをしてしまう。

(龍太郎)「『女性や障害者、マイノリティです。うちらは差別されてまーす』みたいなこと言われても、そんな説教されたないから、こっちは……」

(未来)「説教…?」

(龍太郎)「説教やろ。こんな『上から目線』でもの作って……。それはみんなテレビを見んようなるわ」

 こちらも一生懸命にドラマを作っている、障害のある素敵な俳優も多くいる、という未来の反論に対しても、

(龍太郎)「それ…、障害者やのに頑張っている…から素敵なんやろ?そんなの『感動ポルノ』や。やばいで、未来。テレビの世界につかりすぎて、感覚おかしなってるちゃう?」

 龍太郎が口にした「感動ポルノ」とは、障害者が「感動」のために消費される存在になっていることを痛烈に批判した、オーストラリア人ジャーナリストのステラ・ヤングの言葉だ。2016年、日本テレビの恒例番組「24時間テレビ 愛は地球を救う!」の裏番組としてNHKが「バリバラ」を生放送して大きな話題になった。日テレで「困難に見舞われてもけなげに頑張る存在」として描かれていた難病患者の女性が、NHKでは「本当の自分の姿とは違う」と本音を暴露したからだ。

 その後、未来がハルとの距離を縮めていく展開となる。自分の弱さや、龍太郎との口げんかの顛末などまで打ち明けるようになる。企画書は改善されていくものの、編成部長のOKは出ない。

「それはドキュメンタリーでもできることです。あなたが視聴者だとしてこれを観たい? やり直し!」

「カッコいいハルちゃんを見たい!」

 未来はついに龍太郎に頭を下げ、一緒にドラマを作ってくれるよう頼む。そこからハルを交えての3人での企画作りが始まる。

「私、カッコいいハルちゃんが見たい!車イスの主人公は自分に自信がないんじゃなくて、一人で生きていこうとしているって設定にしない?車イスで他人の手を借りなければいけない。そういうふうに見られるのが嫌で何でも一人でやる」

 という未来に、龍太郎も、

「そしたら設定、男女逆にせえへん?車イスの主人公を誰からも一目置かれる1軍女子ってことにして、男子の方をいけてへん、地味な3軍のやつにする。その男子はバスケ部なんけど、いじめられてて試合にも出られへん。そんな2人が恋に落ちる…」

 新たな企画書を持って、未来は社内プレゼンに臨む。障害者を主人公にし、出演者の10%は障害者を起用するということも決める。

「このドラマではこれまでドラマに登場することがなかった人たちを当事者が演じることで社会に問題を提起するとともに、彼らの日常を具体的に描くことを試みます」

「視聴者が憧れるような元気になるような、こんなふうにお互いを支え合いながら生きていく、愛する人がいたらいいなあと思えるそんなエンターテインメントをめざしたいと思っています」

 本作そのものにも通じる台詞である。

 未来の提案に、現実的に可能なのかという疑問の声も上がりかけるが、編成部長の「熱意のある若い女性プロデューサーがチャンレンジングな企画を立ち上げようとしている。これは多様性月間がまさに求めている形なのではないでしょうか」という声により、無事に企画は通過する。こうして5月25日の第三話からは、ドラマ制作がいよいよ本格的に始まる。

 未来を演じる伊藤万理華の自然体の演技、そして障害をもった俳優たちの等身大の演技もいい。

“感動ポルノ”にならない当事者にとってリアルな障害者のドラマとはどのようなものなのか。ドラマ内で描かれる劇中ドラマ「パーセント」も、きっとこれまでにない障害者像を届けてくれるはずだ。テレビの新しい表現にスタッフやキャストが挑戦する姿を見届けたい。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部