愛されるB級グルメ

 梅田名物のジューススタンド、駅の中で一人焼肉、乗務員と同じご飯が食べられる食堂…阪急・京阪・阪神・近鉄・南海の関西の大手私鉄五社には、いずれもユニークな“駅グルメ”がある。ガイドブックにもミシュランにも載らないが、愛されるB級グルメをピックアップする。【大宮高史/ライター】

 今年3月、京阪電鉄のターミナル京橋駅の京都方面ホームに開業したコンビニ「もより市」で伝統のグルメが復活した。扉もなく、商品を陳列するスタンドがあるだけの昔ながらの駅の売店だが、ここの名物が半世紀近くの歴史を持つフランクフルト。1日の販売本数は700本以上に及ぶという。京阪電車を待つ間に食べたくなるグルメだ。味はケチャップをつけなくても食べられるように、濃い目にしているとのこと。

 1975年頃から京橋駅で販売が始まっていたというフランクフルトは、ホームの売店「アンスリー」に引き継がれて定着していた。

「アンスリー」は、京阪・阪神・南海が共同で3社の沿線に展開していた売店だ。だが、21年から業態の再編で京阪沿線の店舗は、食品に強みを持つ「もより市」に再編されてしまう。京橋駅の店舗も閉店が決まってフランクフルトの行方が心配されたが、そこはぬかりなく京阪も「もより市」での販売継続を発表。3月12日で一旦閉店したものの、18日には同駅に「もより市」がオープンし、わずか6日ぶりではあるが名物の“復活劇”となった。

 値段は1本140円と物価高の時世でも良心的なまま。京阪沿線出身の漫才コンビ・中川家も絶賛する、ちょっとこってりした味わいには、舌鼓が止まらなくなる。

甘ったるい濃厚ジュース

 甘ったるいくらい濃厚なジュースを味わいたければ大阪・梅田へ。JR大阪駅に接続する阪神電鉄のターミナル、大阪梅田駅の阪神百貨店方面への改札を出ると、目と鼻の先にあるのが、フルーツたっぷりのミックスジュースを販売するジューススタンドだ。

 オレンジ・バナナ・桃などをミックスした味わいとコクで、梅田を行き来するサラリーマン、学生、買い物客や甲子園への観客の喉を潤し続けている。この店舗は阪神電鉄や百貨店の系列ではなく、ジュースや外食店舗を運営する株式会社サカイが経営しており、近年は阪急梅田駅やJR新大阪駅にも店舗を開いた。「大阪といえばミックスジュース」のブランド作りに一役買っている。

 関西名物「蓬莱の豚まん」を仕事や学校の帰りに、ちょっと寄り道して買える駅がある。阪急電鉄の京都線・宝塚線・神戸線が集結する十三駅で、宝塚線宝塚方面ホームと神戸線梅田方面ホームの間に「551蓬莱」がある。他の店舗同様に店内で手作りしており、ホヤホヤの豚まんも、豚まん同様の名物アイスキャンデーも味わえる。

 乗り換えのために改札を出なくとも多くの人が行き来する十三駅ゆえに立地は抜群で、特に神戸線から宝塚線に乗り換えようとする客には豚まんの香りがたまらない。新大阪や梅田では下手をすると行列に並ばないと買えない蓬莱の豚まんを、気軽に買える阪急沿線の人々がちょっと羨ましくなる。

 梅田・京橋・十三と“キタ”エリアだけでなく“ミナミ”にもユニークな駅グルメがある。“焼肉のメッカ”鶴橋には、4年前、駅の中で焼肉を食べられる店が誕生した。近鉄鶴橋駅に開業したこの「焼肉ライク近鉄鶴橋駅店」はカウンタースタイルで一人焼肉に対応。価格帯はご飯と焼肉のセットでも1000〜2000円台と1人で食べるのにちょうどいい設定と肉の量だ。鶴橋はJR大阪環状線と近鉄がクロスする大きな駅で、近鉄の駅からは伊勢志摩・名古屋方面の特急も発着する。大阪観光の前に腹ごしらえもできそうな駅だ。

「孤独のグルメ」の光景

 その鶴橋駅から近鉄に乗って3駅、大阪難波駅で乗り換えができる南海電鉄のターミナル難波駅には、南海社員だけでなく一般の人も利用できる社員食堂がある。南海難波駅の改札を入り、ホームに登らずにホーム下の通路を歩いていくと、「食堂」と張り紙がなされた黒い扉が見つかり、ここが入口だ。本来は乗務員や駅員のための食堂で「混雑時には職員を優先させていただきます」という旨も掲示されているが、典型的な社員食堂の雰囲気で日替わり定食やカレー、麺などを提供。ドラマ「孤独のグルメ」の光景が似合いそうな空間である。

 なお、食堂は改札内にあるが、入場券を購入せずとも難波駅の駅員に食堂を使いたい旨を話せば、駅構内に入場できる入場証を渡してもらえるので、サラリーマンのランチにもうってつけだ。広い難波駅の中で、知っていても見過ごしてしまいそうな地味な場所にあるが、知る人ぞ知る難波の隠れ名物でもある。

 かつては“私鉄王国”と言われたほど大手私鉄5社が高い存在感を見せていた関西。食文化でも、こうして各社がしっかり沿線を彩っている。

デイリー新潮編集部