インバウンドの影響もあり、メジャーな観光地は混雑しがち、費用もかさみがちだ。

 そんな中、無料、ワンコインなどうれしい価格設定で楽しめるマニアックなスポットをご紹介しよう。懐かしのゲーム機が遊べる「駄菓子屋ゲーム博物館」から、鉄道好きにはたまらない「時刻表ミュージアム」まで、ちょっと変わった体験が楽しめる博物館の数々――。

「人面石」が1000個以上

 トランプ前米大統領、村山富市元首相や研ナオコ……。表情豊かな「人面石」がずらりと並ぶのは、「秩父珍石館」(埼玉県秩父市)。初代館長が50年かけて秩父の山や河原を歩き集めたという。来館者に「誰々そっくり」と言われて名付けられた石が大半だとか。

 2代目館長を務めるのは娘の羽山芳子さん。

「父は休日のたびに石探しに出かけていました。母から『またそんなに拾ってきて』と叱られていましたけど(笑)」

 そんな収集石1000個余りを展示し始めたのは平成2年。展示されている石の台座はすべて初代館長が一つずつ欅などの木を削って作ったものだという。人面石だけでなく、かつては海だった秩父で採取された化石類も豊富に展示されている。入館料は大人500円、中学生以下200円。

懐かしの「駄菓子屋ゲーム」がずらり

 この世にインベーダーゲームさえなかった時代、子供たちはお小遣いの10円玉を握りしめて駄菓子屋の店頭にあるゲームに夢中になったものだ。「駄菓子屋ゲーム博物館」(東京都板橋区)には、そんな懐かしいゲーム機がずらりと並ぶ。コインを穴に落とさぬようはじいて、東京駅から博多駅を目指す「新幹線ゲーム」や「国盗り合戦」など、すべて稼働する「現役」機だ。

 館長の岸昭仁さんは子供の時、米屋の店先に捨てられていたゲーム機を数台もらい受けるほど、駄菓子屋ゲーム機が好きだった。20年ほど前、それらが店頭から消えていく様子を見て収集を始め、15年前に博物館を開館してしまった。

「10代の子供も遊びに来ますが、メインの客層は40〜50代以上。10円で思い出を買いにいらっしゃるようです」(岸館長)。入場料は300円でゲームメダル10枚付きだ。

リアルすぎる「古民家模型」

 わらぶき屋根も土塀もすべて実物と同じ方法で作成する。モデルにした実物の家の障子紙が破れていたら、破れたまま再現。いろりにかけられた鉄瓶の蓋は開くし、機織り機はちゃんと動く。そんなリアルに再現された野口英世の生家ほか20分の1サイズの民家など120点余りを作成・展示しているのは「哀愁のふるさと館」(埼玉県秩父市)。館長は逸見雄一さん。

「外観も家の中の小物も、全部自作しています。必要があれば、大工、仏具屋、輪島塗の専門家に学びに行きます。床下のクモの巣は本物のクモに張らせたものです。数年がかりになることも珍しくありません」

 18歳の時に家の模型を作り始め、28歳で勤めていた会社を辞めて古民家模型作りに専念。平成元年にこの施設を造り、作品の展示を始めた。現在は家の模型を販売して生計を立てている。そんな逸見さんは今、大石内蔵助の仮住まいを作成中とのこと。入館料は大人500円。

「砂金採り体験」を楽しむ

 かつて「黄金の国」と称された日本で金採掘が始まったのは戦国時代だった。甲斐金山はその先駆けだったこともあり、竹下登首相時代のふるさと創生資金を用いて、3年がかりで学術的な調査を行った。その成果が収められているのが「甲斐黄金村・湯之奥金山博物館」(山梨県南巨摩郡身延町)である。

「博物館の使命は多くの人に足を運んでもらうことなので、楽しめる仕掛けも多数作っています」と言うのは同館主任学芸員の小松美鈴さん。

 その仕掛けの一つが砂金採り体験(30分700円)で、多い日には数百人が参加するという。初めて体験したと話す年配の女性はコツをつかむと夢中になり、数片の砂金粒をゲットして大喜びしていた。この砂金採り体験に3年通い、100万円以上の砂金を集めたツワモノもいるというから夢が広がる。入館料は500円(体験料別途)。

鉄道好きにはたまらない「時刻表ミュージアム」

 館長兼車掌長の鈴木哲也さんが中学生だった昭和55年から買い始めた時刻表四十数年分に加え、大正14年刊行の時刻表第1号など、買い集めた古い時刻表856冊がそろう「時刻表ミュージアム」(東京都中野区)。さらに車内放送用チャイムのオルゴール、車内表示板各種等々、鉄道好きさえ驚くような珍品がズラリ約1500点並べられている。

 展示だけではなく、見せ方もマニア向けだ。入館時に渡されるのは懐かしい厚紙の切符(硬券)。これに新宿駅で実際に使われていたハサミで切り込みを入れてくれる。耳を澄ますと聞こえるBGMは、特急こだまの車内の音を録音したもの。

「当館は私の個人ミュージアムですが、鉄道を通じて時間旅行を楽しんでもらえる造作になっています」

 懐かしのボックスシートに座り、青春時代の旅の思い出を時刻表で振り返る――鉄道好きには至福の時間が過ごせる。入場料は1組3名まで3000円。

火炎瓶にゲバ棒も…「成田闘争」を学ぶ

 成田空港開港に至るまでには「三里塚闘争」と呼ばれる激しい反対運動が展開された。新左翼党派が介入すると闘争は過激化し、流血の争いが長く続いた。開港予定日の直前に反対派は管制塔を占拠し、機器を破壊する。このため開港は2カ月ほど遅れることとなった。今では当たり前に利用している成田空港だが、開港までには多くの困難があったのだ。

 そんな苦難の歴史を正確に後世に伝えるため建設されたのが「成田空港 空と大地の歴史館
」(千葉県山武郡芝山町)。当時を知る職員として館のガイド役を務める板橋孝さんは「反対運動という長くつらい時間を再び呼び込まないため、この歴史館がある」と話す。

 日本には幾多の博物館があるが、火炎瓶やゲバ棒などが展示されているところは他にないだろう。成田空港開港の裏面史を知れば、隣接する航空科学博物館で楽しめるさまざまな航空体験もさらに意義深くなるに違いない。入館料は無料。

 興味を持った方はそれぞれ休館日その他ご確認のうえ訪ねてみていただきたい。

撮影・西村 純・福田正紀

「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載