混雑緩和の“迂回ルート”設定も…次は「騒音被害」

 歴史的な円安に加えて、GWは最長で10連休となったこともあって、日本各地の観光スポットはヒトであふれかえった。オーバーツーリズムへの対応は喫緊の課題といえる。鎌倉では、昨年のGWには江ノ電に観光客が殺到し、乗車するだけで45分もかかったという。そこで今年のGWには国交省の肝いりで徒歩による迂回(うかい)路を設定。江ノ電に乗って鎌倉大仏や長谷寺を目指す観光客を別ルートに誘導し混雑を緩和する作戦に出た。

 迂回路は御成通り経由の海側のルートと住宅街を抜けていく山側のルートの2本で、それぞれ徒歩約30分の道のり。今年のGW、江ノ電は、比較的スムーズに運行したというから、国交省の狙いは当たったかに見える。では、少なくない観光客が誘導された迂回路では何が起こっていたか。

 昨年のGWと比べ、目に見えて観光客が増えた山側迂回路の近隣住民に話を聞くと、

「朝8時前から、英語、中国語、スペイン語、その他いろんな言語が通りから聞こえてきて、非常にうるさい」

 とこぼす。言語のバラエティーはさておき、せっかくの休日、早朝から人の声が絶えず聞こえてくるストレスは相当なものだろう。そのうえ行政からの事前告知もなかったというから驚きだ。どうやら観光客を右から左にさばいただけで、問題解決とはいかないようだ。

駅から徒歩20分でも「ローソン越しの富士山」に人だかり

 一方、河口湖では、「ローソン越しの富士山」の新たな撮影スポットとして、「ローソン富士河口湖町役場前店」が浮上。あまりの殺到する観光客の迷惑行為に“黒い幕”で対抗したことで話題を呼んだ「ローソン河口湖駅前店」と比べると、こちらは駐車スペースが広々。通りを渡らずに撮影できるため、今のところ大きなトラブルは起きていない。駅から徒歩20分とやや遠いが、早くも大型観光バスやミニバスが頻繁に出入りしている。

 それでも、「この先ここが有名になれば、交通渋滞や事故が起こるのでは……」と近隣住民。鎌倉同様、大量の観光客が駅前のローソンから、もう一軒のローソンに移動しただけで、根本的な解決には至っていないのだ。

 もともと観光ビジネスで稼ごうとしているわけではない地域住民の中には、こうした状況はまさに「観光公害」だと受け止める向きも少なくない。そして行政にはこれといった対応は期待できないようである。

 観光は成長産業であり、経済波及効果は大きく、地域を活性化する――「観光立国」を唱える政府はこうした主張を繰り返している。しかしその恩恵にあずかる住民はどのくらいいるのだろう。「経済効果」「国際化」といったお題目を前に彼らは沈黙しなければならないのか。騒音や人混みを不快に思ったり、不安を感じたりするのは時代遅れなのだろうか。

撮影・西村 純、福田正紀

「週刊新潮」2024年5月16日号 掲載