ドジャースの大谷翔平には、どれくらいの広告価値があるのか──。これを知る一つの手がかりになるかもしれないのが、彼の“ハワイ25億円別荘騒動”だ。発端はアメリカの経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道だった。

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 Xから同紙の報道を見てみよう。4月18日、以下のようなポストが投稿された。

《ベースボールスターの大谷翔平はハワイ島の新しい最高級分譲地で、最初の住民として名前を公表される見返りに、ハワイの不動産における優良物件を有利に取得する契約を結んだ》

(Baseball star Shohei Ohtani has snagged a deal on a prime piece of real estate in Hawaii in exchange for being named as the first resident of a new luxury community on the Big Island)

 元通訳の水原一平容疑者が訴追された巨額の不正送金事件が明らかになっても、日本人の多くは「大谷選手は金銭には無欲であり、野球にだけに全てを捧げる求道者」だと思っていた。

 ところが、ウォール・ストリート・ジャーナルのポストには「snag a deal」(有利な価格や状況で何かを獲得または取得する)、「in exchange for」(見返りに)という、大谷のイメージとは少し異なる表現が散見されたのだ。担当記者が言う。

「ウォール・ストリート・ジャーナルは、大谷選手が宣伝に関与している分譲地はハワイの海が見渡せる最高のロケーションに位置し、彼は約4000平方メートルの土地を購入したと報道しました。ハワイの地元メディアも続報を配信し、建設費だけで1700万ドル(約25億5000万円)と伝えたのです。不動産会社の公式サイトを見てみると、大谷選手の名前が明記されており、動画にはご本人が登場。不動産会社について言及した上で、その分譲地について『パラダイスを見つけました』と述べています」

取材に応じた不動産会社

 これでは“怪しげな広告塔”ではないか──日本でも世論が沸騰し、これに一部のメディアが反応した。週刊女性PRIMEは「不動産業者に違和感」、NEWSポストセブンは「水原容疑者の悪しき影響」、Smart FLASHは「イメージ違ってショック」など、やや批判的なスタンスで報道した(註)。

「日本の大手メディアも動きました。特に民放キー局が不動産会社に取材を申し込むと、オーナーの日本人女性が応じました。彼女は大谷選手と契約を結ぶと、約2年前に大谷選手が現地を訪れたことを明かしたのです。購入価格は回答を拒否したものの、オフシーズンのトレーニング拠点になる可能性について言及するなど、その他の質問には丁寧な説明を行いました」(同・記者)

 会社側としては「怪しげな不動産業者ではないのか」という疑念の声を払拭したいと考えたのだろう。もちろん、分譲地の宣伝になるという計算もあったに違いない。

「これほど大谷選手の広告が注目されるのは、彼が特異な野球選手だからです。大谷選手は20社近い企業と広告契約を結んでおり、巨額の収入を得ています。アメリカのスポーツビジネスメディアの『スポルティコ』が4月8日、プロスポーツ選手の年収ランキングを発表しました。1位がロナウド、3位がメッシとサッカー選手が目立つ中、大谷選手は16位で約103億円。これは野球選手では世界トップだったのです」(同・記者)

日本企業が中心の広告

 ランキングに入っているプロアスリートの収入は一般的に、巨額の年俸や賞金に広告収入が加わったものと考えられる。ところが大谷の場合、ドジャースと巨額の後払い契約でも明らかになったように、収入は広告が圧倒的に多い。これは極めて珍しいと言えるだろう。

 多くの有名企業が大谷の広告価値を認めており、大谷の姿は試合だけでなくCMでも映し出される。その中には議論を呼ぶものも出てしまう──これが今回の“広告塔騒動”が起きた原因だったのではないだろうか。

 メジャー研究家の友成那智氏は「まだまだ大谷選手の広告は日本企業が中心で、アメリカで目にする機会はそれほどありません」と言う。

「アメリカ発の広告で私の印象に残っているものは、サングラスメーカーとして有名なオークリーのCMです。数年前に試合を見ていると、途中で大谷選手がサングラスをかけたCMが放送されました。日本で大谷選手の広告は圧倒的な量ですが、アメリカでは非常に限られています。そもそも最近はアメリカで野球選手の広告を目にすることがあまりありません。今はレンジャーズに所属している投手のマックス・シャーザーが、求人検索の『Indeed』のCMに出演していたくらいでしょうか」

 ちなみに先に紹介したスポルティコのランキングによると、シャーザーは約90億円で、野球選手としては大谷に次ぐ2位に入っている。ただし彼は2021年、メッツと3年総額1億3000万ドル(約200億円)の契約を結んだ。これは当時、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)の史上最高額だった。

交際報道で高まった知名度

 アメリカだけに限ると、プロスポーツ選手のCM出演にはMLBとNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)の“人気争い”が大きな影響を与えるという。

「80年代から90年代にかけてのNBLは、マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンなどスター選手の全盛期で、多くの広告にNBAの選手が起用されました。ところが2000年代に入るとMLBの人気が復活し、NBAを逆転します。特に全米の人気を牽引したのがヤンキースのスター選手、デレク・ジーターとアレックス・ロドリゲスの2人でした」(同・友成氏)

 ジーターは華麗な攻守でファンを魅了し、ロドリゲスはホームラン王として君臨した。さらに2人ともルックスに清潔感があり、笑顔が魅力的という共通点もあった。

「2人は女性関係でも話題を集めました。ジーターは多くの著名人との浮名を流し、中でもマライア・キャリーとの交際は彼女に夫がいたこともあって注目されました。逆にロドリゲスは妻帯者だったにもかかわらず、マドンナとの交際が噂されました。どちらもスキャンダルだったとはいえ、野球に全く興味がないアメリカ人の間でも知名度が上昇し、広告価値が上がってしまったのです」(同・友成氏)

アメリカでも広告価値が注目

 ヤンキースの名物オーナーだったジョージ・スタインブレナーは、ジーターの私生活を批判。「練習をしているのか」と苦言を呈した。

「するとカード会社のVISAが、スタインブレナーの発言に目を付けたのです。スタインブレナーとジーターの2人にCM出演を依頼すると、共に快諾。彼らがそろって夜のディスコで踊り、一緒に楽しく“夜遊び”しているという洒落のきいたCMが完成し、これは好評を博しました」(同・友成氏)

 日本では色々と議論を呼んでいる大谷のCM出演だが、アメリカではこれから出演依頼が殺到する可能性があるという。

「今季も打者として大活躍をすれば、いよいよアメリカの企業からのCM依頼が増えると思います。特に大谷選手は“アジア系”ですから、企業としては多様性に配慮しているとアピールすることができます。さらに二刀流を成功させたという点も、『不可能を可能にする企業』というイメージを消費者に与えることが可能です。ただ、やはり水原容疑者の巨額送金事件が足を引っ張るでしょう。今後は裁判も進み、判決も出ます。大谷選手は被害者だと法廷で立証されるのは確実でも、日本企業とは異なり、アメリカの企業は少し尻込みするかもしれません」(同・友成氏)

註:タイトルや配信日は以下の通り

大谷翔平のハワイ別荘“個人情報”を明かす不動産業者に違和感、回答を詰まらせた“下見”同伴者の名前(週刊女性PRIME:4月23日)

大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」(NEWSポストセブン:4月22日)

「イメージ違ってショック」大谷“ハワイ26億円別荘購入”で論争…思い出される「広告塔」トラブル(Smart FLASH:4月20日)

デイリー新潮編集部