山本由伸をも凌ぐフォーシーム

 米大リーグ、カブスの今永昇太投手(30)がメジャーデビューから快進撃を続けている。4月は5試合に登板し、4勝0敗、防御率0.98という好成績で終えた。5月2日(日本時間)のメッツ戦でも7回無失点の好投を見せ、開幕から無傷の5連勝を飾った。4年総額5300万ドル(約77億円=入団合意時のレート)の契約を考えると、ここまではお買い得と言える大活躍で、カブスにとって「窃盗レベル」と米メディアが報道したほどだ。辛辣さで知られる地元シカゴのメディアもケチの付けようがない。

 DeNA時代の通算成績は64勝50敗だ。ノーヒットノーランを達成し、好投手ではあったが、大投手ではなかった。それが最高峰の舞台に戦いの場を移すと、水を得た魚のように今季の日本人メジャー投手の中では、ずばぬけたクオリティーを誇る。「イマナガ」の名を全米に知らしめるとともに、日本球界にも大きなインパクトを与えている。

 今永は4月26日のレッドソックス戦(フェンウェイパーク)で七回途中1失点と好投し、メジャーを席巻した4月を白星で締めくくった。レッドソックスは昨オフの今永との交渉で、2年総額2600万ドル(約40億円)のオファーにとどめた。渋かった評価を見返すような投球で、目が肥えたボストンのファンにも逃した獲物の大きさを痛感させた。

 この試合でも威力を発揮したのは今や代名詞となったフォーシームだった。今永のフォーシームの平均回転数は2412で、ダルビッシュ有投手(パドレス)の2323、菊池雄星投手(ブルージェイズ)の2246、山本由伸投手(ドジャース)の2159を凌ぎ、この時点で日本の先発投手でトップに立っている。

 日本時代に対戦経験がある元NPB監督の分析はこうだ。

「フォーシームのスピン量は驚異的です。山本より平均球速は出ていませんが、球質では明らかに勝っています。この質の高いフォーシームを高めに配し、チェンジアップやスライダーを低めに変化させています。チェンジアップでの空振り率も非常に高くなっています。配球は高低を駆使したシンプルなものですが、大リーグのスラッガーたちがきりきり舞いしているのは痛快です」

日本のプロアマが注目

 今永は高校時代、甲子園に縁がなかった。アマチュアでエリート街道を歩んできたわけではない。長身でなければ大成しづらいとされるMLBで、身長は178センチ。渡米は30歳と年齢的にはぎりぎりに近かった。投手史上最高12年総額3億2500万ドル(約470億円)でドジャース入りした山本には契約面で大きく水をあけられていたのだが……。

「今永ほど教科書的なフォーシームを投げる投手はメジャーにはほとんどいません。同じ直球でもメジャーの投手は打者の手元で動かそうとしますから。それだけに、今永のフォーシームは希少性が高いのです。左腕で、リリースポイントが低いこともそうです。フォーシームのきれいな回転は子どもの頃から指導者とともに磨いてきた、まさに日本野球の成果でしょう。メジャーを夢見る体に恵まれないアマチュアのピッチャーたちに、大いに勇気を与えていることと思います」(前出の元監督)

 刺激を受けているのはメジャー予備軍のNPB投手も同様だ。当初から日米の球界関係者の間で、今永は今後を占う「試金石」に位置付けられていた。

「NPBでタイトルを総なめした山本のように、日本でナンバーワンになった投手に対するメジャーの評価はこれからも変わらないと思います。問題はその次のグループにいる投手たちです。彼らの評価が高くなれば、多くの投手が大きな契約で渡米できるようになります。今永の活躍というのは、そういう意味を持つからこそ注目しているのです」(米大手マネジメント会社の代理人)

イニング数の少なさに不安

 ロッテの佐々木朗希投手は、年俸がメジャー最低保証程度に制限される25歳未満での渡米となれば無関係だが、西武の高橋光成投手と平良海馬投手、巨人の戸郷翔征投手らは25歳以上でのポスティングシステムによるメジャー挑戦が取り沙汰されている。そうした投手たちがより大きな契約を結べるかどうかは今永の活躍に左右されるところがあるだけに、球界関係者から熱視線を送られているというわけだ。

 一方でこの好調がシーズンを通して続くほど甘くない世界であることも確かだ。特に今永はDeNA時代に規定投球回に到達しないことが3度あり、年平均に換算すると約125イニングだった。

「メジャー球団との交渉時には30歳になっていたこととともに、安定してイニング数を稼げていなかったことが不利に働いていました。メジャーでは長丁場のシーズンで中4、5日できっちりローテーションを守り、クオリティースタート(6イニング以上で自責点3以下)を続けられる投手が価値を認められます。その点で今永には不安が残ります」(前出の代理人)

「フォーシームにもほどなく対応してくる」

 週1度だった日本時代に対し、メジャーでは登板間隔が短くなり、年間30試合前後の登板をこなすタフさが求められる。大谷翔平(ドジャース)がエンゼルス時代の18年秋にトミー・ジョン手術を受けたように、多くの日本人投手がメジャー1年目に故障に見舞われている。千賀滉大投手(メッツ)はフル回転した昨季の反動が出たのか、今季は右肩の張りで開幕から出遅れた。

「日本人の先発投手がメジャーに来て故障する背景としては、滑りやすく、大きく重い公式球と短くなった登板間隔で日本時代にはなかった負担がかかったことがあります。今永も疲れを取り除きながらパフォーマンスを維持するという課題に直面することになります。同地区の対戦が一巡した頃には相手もフォーシーム中心に対策を立ててくるでしょう。今は投手の球を再現する打撃マシンもありますから、ほどなく対応してくるのではないでしょうか」(同)

 後に続こうとする投手たちを高いスタートラインに導けるかどうか。今永の真価が問われるのはここからが本番のようだ。

デイリー新潮編集部