今年になって食道癌(がん)で亡くなった著名人の悲報を時々耳にします。食道癌は私の外科医時代前半の専門領域でありましたので、たくさんの患者さんの治療を担当させていただきました。徐々に治療成績も向上していますが、いまなお予後の悪い癌として悪名高い病気です。

 その原因として、非常にリンパ節転移の頻度が高いことが挙げられます。比較的浅いところまでしか発育していない粘膜下層癌でも40%と高率にリンパ節転移をおこします。胃の粘膜下層癌のリンパ節転移率は10%程度ですので、実に4倍転移を起こしやすいということになります。加えて食道のリンパ網は頚、胸、腹部の3領域にわたって張り巡らされており、容易にこれらの部位に転移し、さらに転移先から全身に転移し命を奪われるのです。

 食道は心・大血管、肺、気管など重要な臓器に隣接しておりこれらに癌が直接浸潤して切除不能となることが多いのも予後不良の原因です。

 通常は、手術は申込み順に日程が決まるのですが、食道癌は特別進行が早いからと、順番抜かしをして早めに手術されていたのを思い出しました。最近ではすぐに手術をせずに、抗癌剤治療(ときに放射線治療の併用)を先に行った後に手術する方が予後が良いとの報告が多くみられます。

 もちろんごく浅い層までの発育でとどまっている粘膜癌の状態でみつかれば内視鏡切除で完治するのですが、この状態では通常症状がでません。したがってハイリスクの方に内視鏡をすすめるのが我々内視鏡医の役目です。ハイリスクとは中年以上の男性、喫煙、飲酒歴、アルコールで顔が赤くなる人、咽喉頭癌、口腔内癌の既往のある人です。複数の項目に当てはまる人はすぐに内視鏡をうけましょう。

 ◆西岡清訓(にしおか・きよのり)兵庫県尼崎市の「にしおか内科クリニック」院長。呼吸器、消化器疾患を中心に一般内科診療などを行っている。