中目黒のあるカルトな店『CALIFORNIA STORE』。オーナーの秋山孝広さんが扱うアイテムは、アンティークとオリジナルのカットソーだが、基本「エロくてセクシー」なものばかりだ。なぜそのような店をオープンしたのか、秋山さんが子どもの頃に抱いた夢、そして経歴について訊いた。

「CALIFORNIA STORE(カリフォルニアストア)」オーナー・秋山孝広さん|1969年東京都町田市生まれ。子どもの頃キディランドに入り浸り、「楽しいモノがたくさんあるお店をつくりたい」との夢を持つ。メンズファシ
ョン専門学校でメンズ服についての知識を学び、卒業後はアパレル業界を渡り歩く。その途中、「ラウドカラー」という自身のアパレルブランドを起ち上げ、2003年に独立。2008年についに自分の店『CALIFORNIA STORE』をオープン。エロくて楽しいモノがそろった店をつくりあげる。

こんな店をつくりたい。 子供の頃から夢だった。

中目黒のカルトな店『CALIFORNI A STORE』。扱うアイテムは基本「エロくてセクシー」なものばかり。コンプラにうるさい世の中で、3周半ほど回ってかっこよすぎる

’70年代終わり頃、日曜午後の『キデイランド』原宿店。今もあるその老舗おもちゃ店は、当時、小学生だった秋山孝広さんにとって「最高にワクワクする場所だった」という。

「親が渋谷で買い物する間、いつもひとりで時間を潰していたんです。天国でしたね。溢れるほど超合金やレゴがあって僕みたいに目を輝かせた子がたくさんいる。だから当時から決めていたんです」

こんな店を作りたい。思い描いた少年の夢を、秋山さんは、中目黒の地で叶えた。

『カリフォルニアストア』。

アメリカ好きが伝わる直球の店名だが、サーフショップでも古着店でも、おもちゃ店でもない。15年前、秋山さんが起ち上げたこの店は「HAWAII」と見せかけて「HIWAII」とか(!)。「コロラド」のように読めるけど「エロラド(!!)とか。

EROHA HIWAII akky。ハワイ土産のヴィンテージTのようで、よくよく見ると「HAWAII」ではなく「HIWAII(ひわい)」、「ALOHA」ではなく「ELOHA(エロは)」。何それ、最高。’60年代の雰囲気を醸し出すセクシーなイラストはもちろん秋山さんの手によるものだ。3850円

ようはちょっとセクシーで、くすっと笑えるオリジナルカットソーと、同じくエッチなアンティーク品を売るクセの強い店。『キデイランド(子供の国)』じゃなくて『アダルトランド』の名がふさわしい風変わりな洋服店なのだ。

「風変わりは認めます。ただ、洋服店っていうより、僕は『カリフォルニアストア』を土産物屋だと思っている。もっと言うと、“定食屋”が近いかな」

ブランドを起ち上げて実感した物足りなさ。

キデイランド好きだった頃から、洋服も大の好物だった。

「母親が手作りの服をいつも僕に着せていたんです。セットアップが好きで、よく全身、黄色のワントーンコーデをしていました」

地元・町田の高校卒業後は代々木にあったメンズファッション専門学校へ。テーラーの知識を学びつつ、帰りに同級生と古着店を掘る勉強も、欠かさなかった。

「1990年前後の渋カジ前夜の頃。『シカゴ』や『VOICE』でスウェットなんかを買ってね」

卒業後は、アパレルメーカーに就職。当時、大人気だった女性ブランドの品質管理を担当した。ただ一見、華やかな世界ほど、黒さをあわせもっていたりする。

「時代ですよね。完全にブラック企業でした。給料は十数万円で残業代も交通費も出ない。休みもなくて擦り切れるまで働かされた」

黒く塗りつぶされそうになる前に転職。今度はカリスマ的な人気のカジュアルブランドに身を置いた。一転、1年中裸足のスタッフやアフロのスタッフがいる個性的なその会社は経営もまとも。それでいて店舗デザインも接客もお客さんもすべてがカラフルだった。

「居心地がよく8年くらいいましたね。明らかにこのときの経験が今の店づくりに活きている」

その後もマニアックな某ブランドや某雑貨店などを転々とした。途中、自らのブランド『ラウドカラー』も起ち上げた。テンガロンハットとヘビーウェイトのパックTなどが大人気となった。

「一時、2005年頃は独立して自分のそのブランド『ラウドカラー』の卸販売だけやっていた時期もありました。ただね……」

やはり“店”が欲しかった。好きなモノだけが詰まった空間にオーナーが佇む。子供の頃からの夢を叶えたかった。

「だから2008年『カリフォルニアストア』をつくったんです」

中目黒駅にほど近い目黒銀座商店街にある店舗。オリジナルのプリントカットソーは、注文を受けてから秋山さんが自らシルクスクリーンで手刷りする。「注文を受け、その人のためだけにつくる“定食屋スタイル”と呼んでいます」 カットソーのサンプルとともに、’60〜’90年代のアンティークも多い。「もちろんほぼエロい感じのばかり。西海岸で仕入れたものです」 ポイズンボトルをモチーフにした陶製デキャンタ。’60年代の実は日本製です。1万9800円

眼の前で、その人のための(エロい)一枚を刷る喜び。

場所は前から住んでいた中目黒。店名は「プリントTシャツの起源はカリフォルニア」という話を聞きつけたこと。また店に置くと決めていたセクシーなアンティークが西海岸で手に入ったことも影響した。そう、今のエロ路線は起ち上げ当初から。ラウドカラーはピンクにたどり着いたのだ。

「古着店を巡ると、エロいモチーフのパロディプリントをよく見かけていて『面白いし自由でいいな』と思っていた。しかも、一点モノが多く、非売品だったりしたんです。自分の店は他にはないものを扱いたい。しかも好きなものでって考えると、エロかなと」

軽やかに振り返るが、苦労もあった。2010年を過ぎたあたりから、カットソーや雑貨を発注していた国内の工場が「小ロットの注文はもうできない」と軒並み断ってきた。工賃の安い海外生産が浸透、国内のアパレル工場はどこもジリ貧になったからだ。どこで作ればいいのか? 悩んでいたとき友人の助言を得る。

「『シルクスクリーンなら簡単だぜ』って。考えてみれば僕が古着店で見たパロディTも手刷りの染み込みプリントでしたからね。そうか自分でやっちゃおう! と」

手刷りプリントの工程。まずはサンプルを参考に柄とボディをチョイス。「ボディはすべてギルダン製です」 続いてシルクスクリーンの版を用意。「300以上あるので、ひと仕事です」 インクを流し込んだ後、染み込ませていく。「インクの色も選べます」 スクリーンをはがし、インクを乾かしたら完成。全工程約10分です

こうして自らデザインしたプリントを店内で刷るのが『カリフォルニアストア』のスタイルになった。お客さんはTシャツの色やサイズとデザインを選択。秋山さんが目の前でそれを刷る。店を「定食屋みたい」と称す理由だ。

「注文してくれた一人のために、目の前で一枚をつくる。そういうものづくりっていいなっと。意外とプリントTができるところ見たことがない人も多い。『わあ!』って、それこそ子供みたいに目を輝かせて見てくれるんです。まあ、柄は『おっぱい』とかですが」

さすが、エロかっこいい。こうして受注生産のハンドメイドプリントという稀有な業態としても存在感を放つように。「イベントで刷ってほしい」「ポップアップをぜひ」と全国のショップから声もかかるようにもなった。今や創業15年。ネットで何でも買える時だからこそ『カリフォルニアストア』は輝きを増している。

「まだまだ。あと20年くらい。70歳過ぎてエロTシャツをつくっているのが理想。枯れているのにエロい。そのほうがカッコいいよね」

ピンクショップ。昭和の熱海にあった看板の書体をモチーフに。「営業中」まであるのが大事。女性にさらっと着てほしい。3850円 cars○x。「あ、シボレーですか?」「いえ。カーセッ○スです」とのこと。リアが揺れているのがヒントです。5995円

【DATA】
CALIFORNIA STORE
東京都目黒区上目黒2-43-8
TEL03-3714-5107
営業/13:00〜22:00
休み/不定休
instagram:@california6969
https://sex-up-underwear.com/

※情報は取材当時のものです。

(出典/「Lightning 2024年4月号 Vol.360」)

著者:Lightning 編集部