クラフトビールとULハイキングや山遊びに使えるギアを扱う『ドリフターズスタンド』。ビールは角打ちスタイルで楽しめるため、ハイキングやアウトドア好きのコミュニティの場に。そんな店をオープンさせたのは旅とハイキングをこよなく愛するタケミチさん。なんと、普段はメーカーの社員として勤務。パラレルキャリアとして『ドリフターズスタンド』をオープンさせた。その思いと、オープンまでの道のりについて訊いた。
「drifter’s stand(ドリフターズスタンド)」オーナー・タケミチさん|1976年北海道小樽市生まれ。子どもの頃からスポーツ好き。消費財メーカーに就職後、「ULハイキング」の存在を知り、そのスタイル魅かれハイキングを始める。ブログ「登ったり、漕いだり。」も開始。その後クラフトビールにもハマり、2017年にはアメリカビール&ランニング旅をスタート。そして2019年にメーカー社員を続けながら『ドリフターズスタンド』をオープンさせる。戸越銀座の一角にある、 水〜金曜だけ盛り上がる店。
店は品川ながら下町の雰囲気を残す戸越銀座にあるビルにある2階の約8坪。もっとも店は水・木・金曜の週3日のみの営業。実はタケミチさんが普段は会社員であるためだ。「土日? 休みです。走ったり遊びで忙しくて(笑)」その店は週3日だけ開く。水、木、金曜の夜7時から、のみだ。下町の風情を残す戸越銀座商店街から少し入った2階にある『ドリフターズスタンド』のことだ。
扱うのは、山や森を歩き回るための旅するドリフター(漂流者)向けの旅道具。特に超軽装で野山を歩く、UL(ウルトラライト)ハイキングのギアを多く揃える。
「僕自身がULハイカーなんですよ。まず自分の好きなモノを仲間たちに勧めたかった」と、オーナーのタケミチさんは言う。
タケミチさんが10年以上ハマるULハイキング。「Ultra Light(超軽量)」の名前どおり、衣食住込みで7〜8kgの荷物で楽しむハイキングのスタイル兼カルチャーだ。「装備が軽い分、早く移動でき、通常の7掛けの日程で山歩きできる。『想定ルートを歩ききった』と達成感も半端じゃないし、休みの少ないビジネスパーソンにも最適なんです」。写真は飯豊連峰「そしてもうひとつの好きなモノも、一緒に売っているわけです」
2つめの“好き”はクラフトビール。角打ちスタイルで、店でそのまま立ち飲みも楽しめる。
だからハイカーやランナーなど同好の士が集い、ビール片手にギアや外遊びの話で盛り上がる。立ち飲みをきっかけにULハイカーになる客や逆もまた多いらしい。そんないい店なら、もっと営業すればいいのに。そう伝えるとタケミチさんは笑顔で首を振った。
「今はしたくない。僕、平日の日中は会社員をしていますからね」
アメフトで培った戦略思考と向上心。
47年前、タケミチさんは北海道で生まれた。子どもの頃から外遊びを好み、中学まで野球少年。ただ小樽の大学に入ると、握るボールの形を変える。アメフトだ。
「戦略を練って敵の動きを読み合って勝負する。そういう競技が好きなんです。アメフトは“プレイコール”といってワンプレーごとサインを出し、敵の裏の裏をかいたりする。そこが面白くって」
新卒で消費財メーカーに入ってからも“好み”は変わらなかった。赴任先の高松で自社商品を売り込む営業職。独自にフェアやイベントを企画提案して売上を伸ばした。努力と結果を積み上げるとステージが上がるのは、スポーツもビジネスも同じだ。
「四国を経て大阪で営業をしていたのですが、29歳で東京本社で念願の商品開発部の担当に」
マーケティングでも持ち前の企画力と戦略思考は強みになった。仕事の幅も広がり、成長実感もあった。しかし、ある程度ステージが上がると、これまでと違う「プレイコール」が届くものだ。
「プレイより調整やマネジメントを求められる機会が増えたんです。責任あるポジションを任せられるのは嬉しかったけれど、わがままなので自分のやりたいようにやりたい気持ちが大きくなって」
気がつけば、仕事で熱くなる瞬間が減っていた。ジレンマと眉間のシワだけ増えていった。外遊びと再開するのは、そんな時だ。
『ULハイキング』。
2010年頃、雑誌やブログで目にするようになった。大阪時代から妻のエミさんと屋久島を旅することなどはあったが、まったく違う興奮を感じた。
「当時は短パン・生脚・スニーカーを良しとするのがULハイキングの世界観。伝統的なハイキングおじさんから怒られそうなほど、自由なんです。そこが良くて」
ムダがなく美しいギアを掘るのがまずたまらなかった。その頃、山には重装備のハイカーが多く、ULハイカーってだけで意気投合して繋がられるのが楽しかった。そして何よりコレが良かった。
「軽装だから動きやすく身軽、だから通常より長いハイキングルートも短期間で歩ける。自分のフィジカルと戦略を頼りに、ムリめの山やルートを制覇できる。その達成感ってハンパじゃないんです」
仕事で抑え込まれていた何かが溢れ、発散されるのを感じた。
その後、クラフトビールにもハマる。パンクIPAをきっかけに飲み漁るように。夫婦でポートランドやLAでブルワリーとランニングを楽しむ旅も繰り返した。味もデザインも個性丸出しでプロダクツを出し、楽しむ様に共感した。
「自分たちで自分たちがいいと判断したものを、何にもジャマされず世に出せる。うん、形は違えど会社あれこれ考え過ぎる自分には、羨ましかったんですよ」
そのルートの先に『ドリフターズスタンド』があった。
もうひとつの趣味、クラフトビールも数十種が常時揃う。「ココでビールにハマるハイカーも多い。逆もね」 Wayfinder Beer / Cold IPA (Cold IPA)。クラフトビールの聖地ともいえるポートランドの名ブルワリー、ラガー作りの名手といわれる。「ポートランドは僕らの店のようなビアスタンドが多く、影響された街でもある」。1222円 TOTOPIA BREWERY / Bloomphobia (Dry Hopped Sour IPA)。長久手のTOTOPIA BREWARYのもの。こちらは果実の入った「まるでスウィーツ」のようなビールです。缶はもコレ、確実にオブジェとして飾っちゃうでしょ。1505円サラリーマンの肩書がなくなったら何が残る?
『こんなモノつくってみました』
2016年前後、ULハイキングの仲間たちが続々と自身のブランドを立ち上げはじめた。タケミチさんは40歳を目前の頃。彼らがカッコよく見える一方、サラリーマンの肩書をとると何も残らなそうな自分に、小さく焦った。
「ならば自分も……と考えた。だからってビールやギアを作るのは違う。僕が得意で好きなのは素晴らしいクラフトマンが作ったものを『めちゃコレいいですよね』と伝えること。自分が得意な領域で、スキルも活きますからね」
こうして2019年、『ドリフターズスタンド』が誕生した。平日は本業で忙しく、土日は山や遊びに行きたかった。だから、水〜金曜の夜だけ開く店にした。
クラフトビールは味とジャケを見定めて気に入ったものを仕入れた。ギアの多くは友人たちのブランドだ。一緒にリアルなハイカーの声を形にしたコラボプロダクツなどが生まれる場にもなった。あとは冒頭で触れた通り、夜な夜なハイクとビールの楽しい宴だ。
角打ちはこんなオリジナルグラスでキメられます「でもね、この場で知り合った人同士が『今度一緒にあそこに行きましょう』と新しい旅の入口になっているのが一番うれしい。そういう旅が生まれる、『ドリフ』が、そんな新手の観光案内所になったらいいなと思っているんです」
クラフトビールやULハイクに興味を、そして仕事にジレンマを感じていたら、戸越の2階に立ち寄るといい。良き旅先と良き人生を案内してもらえるに違いない。ただし、水〜金曜の夜だけだ。
店にはULハイキングの旅道具に加えて、オリジナルのウェアやグッズもズラリと揃う
ホップしなないで”Beer Container”。ポップなビール保冷ケース。建築家でテントメーカーも手掛けるブランドmikikurotaのモノ。「好みのステッカーチューンで使い倒して」。5000円 Yas Guess Gear “One-Hand POKKE”。片手で開閉でき、中身が出ない工夫が施されたウエストポーチ。実はタケミチさんが商品開発に携わったオリジナルコラボ品なのだ。8000円 PON-SA WALKING GEAR “FLAT WALLET”。ULハイカー御用達タイベック製の長財布。「散歩やフェスで使えるギアを得意とするブランド。だから『散歩』を逆さにした名なんです」。4000円
【DATA】
drifter’s stand
東京都品川区平塚1-5-7 戸越第1ビル 202号室
営業/19:00〜22:00(水〜金曜)
休み/不定休
instagram:@drifters_stand
https://linktr.ee/drifters_stand
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2024年5月号 Vol.361」)
著者:Lightning 編集部