大リーグのジャイアンツ時代の筒香。日本のジャイアンツのユニフォームに袖を通す日はいつか?(AP/アフロ)

 米国・ジャイアンツを退団した筒香嘉智が巨人に入団することが濃厚になった。マイナーや独立リーグに所属しながらもメジャーでのプレーにこだわり続けていたが、ついに日本球界に戻ってくる。

 多くの日本人選手が過去にメジャーに挑戦してきたが、筒香は異端の道を歩んできた。DeNAからポスティングシステムでレイズに移籍したのが2020年。だが、思うような結果が出せないまま、ドジャース、パイレーツと移籍を重ねた。昨年はレンジャーズ傘下の3Aから米国の独立リーグを経て、ジャイアンツとマイナー契約を結んだが、メジャー昇格は叶わず。日本球界復帰の可能性が何度も報じられたが、筒香は米国でプレーすることにこだわり続けた。今年もジャイアンツの招待選手としてスプリングキャンプに参加したが、腰痛の影響もあり、オープン戦6試合出場で、打率.100、0本塁打と結果を残せなかった。ついにメジャー挑戦を断念し、NPBでプレーすることを決断した。

 日本球界復帰で最有力候補とされていたのが、古巣のDeNAだった。筒香は10年間プレーして主軸として活躍していたが、球団は野球に向き合うストイックな姿勢、若手に及ぼす影響力を高く評価していた。

「自分が結果を残せばいいというのではなく、DeNAが優勝するために主将として使命感を持ち、チームを引っ張っていた。後輩に聞かれたら親身に助言していたし、助っ人外国人たちともコミュニケーションを積極的に取っていました。球団は筒香が戻ってくる時に備え、背番号『25』を他の選手に与えませんでした。筒香も海の向こうでDeNAの結果を気にしていると聞いていましたし、相思相愛の関係であることは間違いなかった」(DeNAを取材する記者)

■相思相愛のDeNAを選べぬ理由は

 ただ、退団して4年以上の月日が経つとチーム状況が変わってくる。中心選手の左翼・佐野恵太、三塁・宮崎敏郎、一塁・オースティンは筒香の守るポジションと重なってしまう。チームは開幕から打線が好調で、主力を外すとバランスを崩す危険性をはらむ。度会隆輝、梶原昂希のほか、打撃好調の関根大気、桑原将志と外野陣は人材豊富だ。DeNAでかつて共にプレーした選手は、筒香の胸中を推し量る。

「間違いなく居心地がいいのはDeNAでしょう。気心知れたメンバーが多いし、環境に適応する時間もかからない。でも、米国で4年以上プレーして日本球界に復帰した時、一番望んでいることは出場機会だと思う。32歳という年齢を考えると、野球人生はそう長くない。レギュラーとして求められる球団でプレーしたいという願望は当然あると思います。DeNAだと控えに回る可能性がある。その部分で相当悩んだのでは」

巨人、阿部監督は筒香をどう使うのか

 DeNAに劣らない熱量で獲得に乗り出したのが巨人だった。90年代に落合博満、清原和博、ジャック・ハウエル、広沢克己と他球団の4番打者をかき集めた時代があった。当時と重ね合わせて、「筒香の獲得は若手の育成を阻害する」と獲得に反対する声が聞かれるが、スポーツ紙デスクは異論を唱える。

「大型補強で大砲を乱獲していた時とは状況が全く違います。今の巨人は外野の3枠でレギュラーが決まっていない。丸佳浩、梶谷隆幸、長野久義と実績十分のベテランがいますが、故障を抱えるようになり常時スタメンで出場していない。筒香の獲得は理にかなった補強と言えます」

 筒香の巨人入り有力報道を受け、DeNAで筒香と同僚だったエドウィン・エスコバーは自身のX(旧ツイッター)を更新し、「Why not Baystars?」(なぜベイスターズではないの?)とつぶやいた。SNS上でDeNAファンからは、ライバル球団の巨人への移籍が有力視されることに複雑な感情を抱きながらも、「筒香がDeNAの功労者であることは間違いない。出場機会を求めて他球団に行く決断をしても仕方ない」、「本人は相当悩んでいると思う。どんな結論を出しても応援するし、他球団に行っても最後はDeNAに戻って引退後は監督をしてほしい」などエールを送る書き込みが目立った。

 ただ、日本球界に復帰してすぐに活躍できるかというと、どうだろうか。

■筒香がいない間に進んだ「投高打低」

 メジャーから日本球界に復帰した日本人選手では、青木宣親(ブルワーズなど→ヤクルト)、井口資仁(ホワイトソックスなど→ロッテ)のように復帰1年目から活躍した選手もいるが、NPBでアジャストするのに苦労したケースも多い。日米通算2450安打をマークした福留孝介(カブスなど→阪神、中日)はメジャーで5年間プレーし、13年に阪神に入団したが度重なる故障で63試合出場、打率.198、6本塁打と苦しんだ。15年に日本の野球に適応し、打率.281、20本塁打で主力として稼働するまで3年の月日を要している。

 スポーツ紙記者は、「早急に結果を求めるのは酷です」と強調する。

「DeNAで活躍していた時のイメージが強いですが、あれから4年以上経っています。NPBの投手のレベルが上がり、150㌔中盤の直球を投げ込む投手が一気に増えた。筒香はDeNA時代から速い球を捉える確率が高いとは言えず、外国人投手とタイミングの取り方が違うことを考えると、打撃の土台から見直す必要がある。今年に限って言えば、打率.250、15本塁打が現実的な数字ではないでしょうか。シーズン途中入団で、新しい環境になじむ時間も必要です。巨人は来年以降の活躍を見据えて獲得に乗り出しているでしょうしね。ただ、選手層が薄い球団なら打てなくても我慢して起用してもらえるが、巨人の場合は代わりの選手がたくさん控えている。打撃不調で出場機会が限られ、不良債権になる恐れがないとは言えない」

 筒香がDeNAでプレーした最終年の19年、セ・リーグ打撃成績で3割打者は5人、本塁打30本を超えた選手は7人いたが、昨年は3割打者3人、本塁打30本超えは岡本和真(巨人)と村上宗隆(ヤクルト)の2人だけだった。「投高打低」の傾向が近年進んでいることも、筒香を苦しめるかもしれない。

 他球団のあるスコアラーはすでに筒香対策を胸に秘めていた。

「ボールが飛ばなくなっていると言われ、長距離砲は受難の時期に入っている。筒香が巨人に入団した場合は本拠地が東京ドームで本塁打の出やすい球場とはいえ、初対戦の投手が増えていますし対応するのに時間が必要になってくるでしょう。胸元の速い球と落ちる球のコンビネーションがカギを握ると思います」

 筒香がいばらの道を覚悟し、巨人入団を決断した時にどのような化学反応が起こるか。阿部慎之助監督の起用法も注目される。

(今川秀悟)